日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Aquaculture Reports
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的
閉鎖循環式陸上養殖(RAS)は、飼育水をろ過して繰り返し使う養殖方法です。海水魚を陸上で集約的に育てられる一方、設備や運転の費用が高いため、水質を安定させながら成長効率を高める工夫が求められています。
海水魚の多くは、海水より塩分の低い水で成長が良くなることが知られています。体内の塩分濃度を調節するためのエネルギーが少なくて済むためと一般に考えられています。ただし、RASでは微生物の働きで有害なアンモニアなどを分解する生物ろ過が欠かせず、塩分を下げるとこの働きが損なわれるおそれがあると指摘されてきました。
琉球大学などの研究チームは、ヤイトハタ(マラバーグルーパー)の稚魚を、塩分5 psuの低塩分RASで育てる試験を行いました。5 psuは、これまでの研究でこの魚の成長を促すと報告され、体液に近い塩分の範囲に近い条件です。研究チームは、目標の塩分に慣らした生物ろ過装置を使えば、水質を許容範囲に保ちながら成長が良くなり、大きな生理的な乱れも生じないという仮説を立てました。
何を調べたか
試験には平均体重約151 gのヤイトハタ稚魚840尾を使い、通常の海水(34 psu)で運転するRASと、5 psuで運転するRASの2系統で84日間飼育しました。各系統では3つの水槽に140尾ずつを入れました。生物ろ過装置は海水RASの汚泥を種にして微生物を定着させ、試験開始前に40日かけて各系統の目標塩分に慣らしています。
研究チームは、成長(体長、体重、成長速度、飼料を体重増加に変える効率)、血液中の糖やストレスに関わるホルモン、酸化ストレスの指標、体液の濃さ、えらの組織の変化、筋肉の栄養成分、そして水質(アンモニア、亜硝酸、硝酸、浮遊物、溶存酸素、pH)を、一つの試験の中でまとめて調べました。
主な結果
84日目の時点で、低塩分のRASの魚は海水のRASの魚より体長・体重ともに大きく、成長速度も高かったと報告されています。一方、飼料を体重増加に変える効率には両系統で差がありませんでした。生残率はどちらも90%を超えていました。
水質については、アンモニアは期間を通じて両系統とも1リットルあたり0.8 mg未満に保たれました。試験初期には海水側で亜硝酸が上昇し、42日目には低塩分側で硝酸が高いなど、時期によって違いはあったものの、目標塩分に慣らした生物ろ過装置を使った低塩分条件で、硝化の働きが大きく悪化した様子は見られなかったとしています。溶存酸素は低塩分側で一貫して高い値でした。
魚の体の状態では、血糖値、ストレスホルモン、酸化ストレスの指標に系統間の差はありませんでした。体液の濃さは低塩分側で28日目に一時的に低くなり、研究チームはこれを、低塩分環境への体の調整が初期に起きたことを示すものと解釈しています。えらの組織に一貫した差は見られず、筋肉のたんぱく質や脂質、ナトリウムなどの栄養成分にも、低塩分による明らかな影響は認められませんでした。
結果の意味と注意点
研究チームは、今回の条件では5 psuの海水魚用RASを実際に運用できることを支持する結果だとまとめています。ろ過装置を目標の塩分に事前に慣らすことが、窒素の管理を保つうえで重要な前提になると考えられるとしています。
一方で著者らは、各塩分条件を1系統ずつでしか試していないため、観察された差を塩分だけの効果と断定できず、系統ごとの違いの影響も否定できないと述べています。また、海水側の系統は試験開始から23日間、意図せず塩分が19〜20 psuに下がっていました。成長の差には、低塩分側で多かった総摂餌量や高い溶存酸素量が関わった可能性もあるとしています。そのため、5 psuがヤイトハタ養殖にとって最適な塩分であることを示す証拠ではなく、実際の運用で得られた観察結果として受け止めるべきだと強調しています。
この研究は、低塩分での陸上養殖が水質を保ちながら運用可能であることを、成長・生理・水質を同時に見た実地の試験として示した報告といえます。
原著論文の著者・所属:Kodai Fukunaga(Co-Creation Management Department, University of the Ryukyus, Senbaru 1, Nishihara, Okinawa, Japan)、Masanori Uehara(Co-Creation Management Department, University of the Ryukyus, Senbaru 1, Nishihara, Okinawa, Japan)、Yusaku Kishimoto(Co-Creation Management Department, University of the Ryukyus, Senbaru 1, Nishihara, Okinawa, Japan)、Seiya Miyagi(Co-Creation Management Department, University of the Ryukyus, Senbaru 1, Nishihara, Okinawa, Japan)、Akimichi Shimabukuro(Co-Creation Management Department, University of the Ryukyus, Senbaru 1, Nishihara, Okinawa, Japan)、Akihiro Takemura(Department of Chemistry, Biology and Marine Science, Faculty of Science, University of the Ryukyus, Senbaru 1, Nishihara, Okinawa, Japan)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Kodai Fukunaga, Masanori Uehara, Yusaku Kishimoto, et al. Growth, physiological responses, and water quality in juvenile Malabar grouper reared in a low-salinity RAS: An 84-day operational trial. Aquaculture Reports 2026-10-08. DOI: 10.1016/j.aqrep.2026.103872. 原著ライセンス:CC BY.