著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Animals

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

牛肉生産の肥育後期では、体重の増え方、肉質、体の代謝の状態をそろって良くすることが重要な目標とされています。研究チームが着目したのは、脂質の代謝などに関わる栄養素であるコリンと、ビタミンB3の一種であるニコチン酸です。羊、ヤギ、家禽などでは、どちらか一方を飼料に加えると肉質に関わる指標が変化したという報告がこれまでにありました。一方、両者を組み合わせた場合の知見は乏しく、肥育後期の牛で肉質、ルーメン(牛の第一胃)の微生物、全身の代謝をまとめて調べた研究はほとんどありませんでした。

そこで著者らは、ルーメン保護コリンを単独で、またはニコチン酸と組み合わせて給与し、成長、肉質、ルーメン細菌の構成、血液中の代謝物、肉に含まれる遊離アミノ酸がどう変わるかを調べました。「ルーメン保護」とは、成分がルーメン内の微生物に分解されないよう加工し、その先の消化管まで届きやすくしたものを指します。

どのように調べたか

実験には、和牛と中国の在来種である魯西黄牛を交配した25か月齢の去勢雄牛24頭を用いました。牛を8頭ずつ3群に分け、基本飼料のみの群、ルーメン保護コリンを1日10グラム加えた群、コリンに加えてルーメン保護ニコチン酸も与えた群を設けました。3つ目の群では、90日間の試験期間のうち最初の60日はコリンのみを与え、最後の30日はコリンとニコチン酸を併用しました。

試験終了後、体重の変化を記録し、と畜した牛の腰部の筋肉を使って肉の色、加熱時に失われる水分などの重量(加熱損失)、筋肉内の脂肪量、せん断力を測りました。せん断力は肉を切断するのに必要な力のことで、一般に値が低いほど肉が軟らかいことを示します。あわせて、血液の生化学的な指標と血清中の多数の代謝物を網羅的に分析し、ルーメン内容物の細菌を遺伝子配列から調べ、肉中の遊離アミノ酸を測定しました。

主な結果

体重の増え方については、3群の間に統計的に意味のある差は見られませんでした。肉質では、コリン単独群と併用群のどちらも、基本飼料のみの群と比べてせん断力が有意に低くなりました。著者らは、これが肉の軟らかさの改善を示唆するものだと述べています。一方、肉の色、加熱損失、筋肉内脂肪量には差がありませんでした。このため論文は、今回の肉質への影響を肉質全般の向上ではなく、主に軟らかさに関するものとして解釈すべきだとしています。

血液では、両方の給与群で遊離脂肪酸と尿素窒素の濃度、肝臓に関わる酵素であるALTの活性が下がりました。また、抗酸化に関わる酵素であるSODとGSH-Pxの活性は上がりました。併用群では中性脂肪が他の2群より高くなりましたが、著者らは、関連する指標を測っていないため、この上昇がどのような意味を持つかは分からないとしています。

血清の代謝物を網羅的に調べたところ、基本飼料群と比べて量の異なる代謝物が、コリン単独群で55種類、併用群で16種類見つかりました。コリン単独群ではトリプトファンやプロリンなどアミノ酸に関わる物質が中心でした。併用群では、アデノシンや尿酸など、エネルギーの調節や脂質の分解に関わる経路に属する物質が目立ちました。ただし論文は、この分析は探索的なもので、結果には今後の検証が必要だとしています。

ルーメン細菌については、多様性の指標に群間の差はありませんでした。どの群でもバシロータ門とバクテロイドータ門が優勢で、属のレベルではスクシニクラスティクム属が最も多く見られました。肉の遊離アミノ酸は19種類が検出されました。両方の給与群でグルタミンが増え、セリンが減ったほか、群によってはアスパラギン酸、アラニン、アルギニン、ヒスチジン、リシンが減少しました。

研究が示すこと

この研究は、肥育後期の肉牛にルーメン保護コリンを単独で、またはニコチン酸と組み合わせて与えると、体重の増え方には差がない一方で、肉のせん断力が下がり、血液の代謝の状態にも変化が見られたことを報告しています。

著者らは、解釈にあたっての限界も示しています。1群8頭と規模が小さいこと、ニコチン酸を最後の30日間しか与えていないためコリンとニコチン酸それぞれの効果を切り分けられないこと、血液の採取が1回だけであることです。また、遊離アミノ酸の変化は味に関わる成分の変化ではあるものの、実際に味が変わったかどうかは官能評価をしていないため確かめられていません。今回の成果は、これらの栄養素が肉の軟らかさや代謝に影響しうることを示した段階のものと位置づけられています。

原著論文の著者・所属:Baochen Xu(College of Modern Beef Cattle Industry, College of Food Science and Engineering, Shandong Agriculture and Engineering University, Jinan 250100, China)、Tianyu Gao(College of Food Science and Engineering, Shandong Agricultural University, Tai’an 271018, China; College of Modern Beef Cattle Industry, College of Food Science and Engineering, Shandong Agriculture and Engineering University, Jinan 250100, China)、Xiaoyan Wang(College of Animal Science and Technology, Hunan Agricultural University, Changsha 410128, China)、Mengqi Li(College of Food Science and Engineering, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China; College of Modern Beef Cattle Industry, College of Food Science and Engineering, Shandong Agriculture and Engineering University, Jinan 250100, China)、Xuekuan Hui(College of Modern Beef Cattle Industry, College of Food Science and Engineering, Shandong Agriculture and Engineering University, Jinan 250100, China)、Yanxia Xing(College of Modern Beef Cattle Industry, College of Food Science and Engineering, Shandong Agriculture and Engineering University, Jinan 250100, China)、Yang Li(College of Modern Beef Cattle Industry, College of Food Science and Engineering, Shandong Agriculture and Engineering University, Jinan 250100, China)、Lizeng Peng(Key Laboratory of Novel Food Resources Processing, Institute of Agro-Food Sciences and Technology, Shandong Academy of Agricultural Sciences, Jinan 250100, China)、He Zhu(College of Food Science and Engineering, Qingdao Agricultural University, Qingdao 266109, China; College of Food Science and Engineering, Shandong Agricultural University, Tai’an 271018, China; College of Modern Beef Cattle Industry, College of Food Science and Engineering, Shandong Agriculture and Engineering University, Jinan 250100, China)、Dong Chen(College of Animal Science and Technology, Hunan Agricultural University, Changsha 410128, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Baochen Xu, Tianyu Gao, Xiaoyan Wang, et al. Influence of Dietary Rumen-Protected Choline and Nicotinic Acid Supplementation on Growth Outcomes and Meat Tenderness, Rumen Microbial Composition, and Serum Metabolomics of Late-Fattening Beef Cattle. Animals 2026-10-08. DOI: 10.3390/ani16193144. 原著ライセンス:CC BY.