著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Aquaculture nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
魚油を減らした飼料をどう使いこなすか
オニテナガエビ(Macrobrachium rosenbergii)は、熱帯・亜熱帯地域の淡水養殖で重要な種です。論文によると、2021年の生産量は31万3,000トンを超え、生産額は24億5,000万米ドル以上に上りました。養殖を長く続けていくには、成長を支えつつ、環境への負荷とコストを抑えた飼料が必要です。
飼料の脂質は、エビの成長や脱皮、繁殖を支えるエネルギー源です。また、体に欠かせない脂肪酸やリン脂質などの材料にもなります。養殖飼料では、EPAやDHAといったn-3系の長い脂肪酸を多く含む魚油が標準的な脂質源とされてきました。一方、大豆油は安価で供給量も多いため、魚油の代わりとして広く使われています。ただし、オニテナガエビはn-3系の長い脂肪酸を自分で作る力が限られています。そのため、大豆油に置き換えすぎると、成長の低下や肝膵臓(肝臓と膵臓の役割を兼ねる器官)への脂質蓄積、酸化ストレスにつながると指摘されてきました。
そこで研究チームが注目したのが、リゾレシチンという添加物です。リゾレシチンは、天然のレシチンから酵素で脂肪酸を一つ取り除いたもので、水と油をなじませる乳化剤として働きます。これまでの研究では、脂質源の工夫とリゾレシチンの添加はそれぞれ別々に調べられてきました。リゾレシチンの効果が飼料の脂質源によって変わるのかは分かっていませんでした。研究チームはこの組み合わせの影響を明らかにすることを目的としました。
6種類の飼料で56日間飼育
研究チームは、脂質源として魚油、大豆油、両者を1対1で混ぜた混合油の3種類を用意しました。それぞれにリゾレシチンを0.5%加えたものと加えないものを作り、合計6種類の飼料としました。添加量の0.5%は、研究チームの以前の研究で成長に最適と見積もられた値(約0.48%)をもとに決めています。
エビは循環式の養殖設備で56日間飼育されました。研究チームはその後、成長と飼料効率、体の成分、肝膵臓の脂肪酸組成、組織の状態と脂質蓄積を調べました。さらに、脂質代謝や抗酸化に関わる遺伝子の働き、腸内細菌の構成についても比較しました。
混合油とリゾレシチンの組み合わせで成長が最も良好に
成長については、脂質源とリゾレシチンの間に相互作用が見られました。混合油にリゾレシチンを加えた群は、最終体重や増重などの値が高くなりました。これらの値は、魚油群、大豆油群、大豆油にリゾレシチンを加えた群、混合油群と比べて有意に高いものでした。脂質源の中では混合油が最も成長が良く、飼料効率も最も良好でした。リゾレシチンを加えると、全体として成長が高まり、少ない飼料で体重を増やせるようになりました。生存率には、どの条件でも有意な差はありませんでした。
肝膵臓の状態にも違いが現れました。リゾレシチンを加えない場合、脂質の蓄積は大豆油群で最も多くなりました。脂肪滴が占める面積の割合は、大豆油群が48%、魚油群が20%、混合油群が6%と報告されています。大豆油群では、組織に軽い空胞変性も見られました。リゾレシチンを加えると、魚油群と大豆油群では脂質の蓄積が有意に減り、組織の状態も改善しました。ただし混合油群では脂質の蓄積は減らず、わずかに増えていました。
このほかにも、リゾレシチンの添加は肝膵臓の抗酸化酵素SODの活性を高めました。また、脂質が酸化されて生じる物質MDAを減らしました。脂肪酸の輸送や分解に関わる遺伝子の働きもリゾレシチンで高まり、この効果は魚油群で最も顕著でした。
腸内細菌の多様性には、脂質源やリゾレシチンによる有意な変化は見られませんでした。一方で、構成には変化がありました。大豆油にリゾレシチンを加えた群では、乳酸菌の一種であるラクトコッカス属が大きく増えました。逆に、アエロモナス属やシュードモナス属などは減っていました。ただし、遺伝子情報から推定した細菌群全体の機能は、どの群でもよく似ていました。著者らは、今回の手法ではこうした細菌の変化がエビの体の反応にどの程度直接関わっているかは確かめられない、と述べています。
脂質源と添加物は組み合わせで考える
今回の研究から、リゾレシチンの効果は飼料の脂質源によって変わることが示されました。著者らは、魚油と大豆油の1対1の混合油に0.5%のリゾレシチンを加える方法を有効な戦略と結論づけています。この方法で、オニテナガエビの成長と代謝の健康を高めながら、魚油への依存を減らせるとしています。飼料に使う油と添加物を別々に考えるのではなく、組み合わせとして設計することの重要性を示す研究です。
原著論文の著者・所属:Qiu Z(School of Life Sciences Huzhou Normal University Huzhou China.; International Institute of Aquaculture and Aquatic Sciences Universiti Putra Malaysia Batu 7, Jalan Kemang 6, Teluk Kemang, Si Rusa Port Dickson 71050 Negeri Sembilan Malaysia upm.edu.my.)、Wei X(School of Life Sciences Huzhou Normal University Huzhou China.)、Yang J(School of Life Sciences Huzhou Normal University Huzhou China.)、Wei Y(Linyi Zhengnengliang Biological Co., Ltd. Linyi China.)、Liu S(International Institute of Aquaculture and Aquatic Sciences Universiti Putra Malaysia Batu 7, Jalan Kemang 6, Teluk Kemang, Si Rusa Port Dickson 71050 Negeri Sembilan Malaysia upm.edu.my.)、Zhao J(School of Life Sciences Huzhou Normal University Huzhou China.)、Xu Q(School of Life Sciences Huzhou Normal University Huzhou China.)、de Cruz CR(International Institute of Aquaculture and Aquatic Sciences Universiti Putra Malaysia Batu 7, Jalan Kemang 6, Teluk Kemang, Si Rusa Port Dickson 71050 Negeri Sembilan Malaysia upm.edu.my.; Department of Aquaculture Faculty of Agriculture Universiti Putra Malaysia Serdang 43400 Malaysia upm.edu.my.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Qiu Z, Wei X, Yang J, et al. Dietary Lipid Sources and Lysolecithin Modulate Growth, Lipid Metabolism, Hepatopancreatic Health, and Intestinal Microbiota in <i>Macrobrachium rosenbergii</i>. Aquaculture nutrition 2026-10-27. DOI: 10.1155/anu/8067288. 原著ライセンス:CC BY.