この研究は、エジプトの研究機関の研究論文です。

掲載誌:npj Science of Food

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:油の劣化を目で見て分かるようにする

食用油は加熱や保存のあいだに酸化して劣化します。酸化が進むと風味や栄養価が落ち、健康に好ましくない化合物ができることも知られています。ただ、油の酸化度を調べる従来の方法は、試薬や専用の装置、実験室での作業が必要で、時間もかかります。

そこで研究チームは、酸化した油に反応して色が変わるシート状のセンサーを作り、油の状態を肉眼で判断できるかを調べました。このセンサーは油に浸して使うものではなく、論文では油に直接触れない「非接触」「間接接触」の方式による目視での監視手段と位置づけられています。素材には、太さがナノメートル(100万分の1ミリ)単位の極細繊維「ナノファイバー」を重ねたマットを使いました。表面積が大きく多孔質なので、酸化によって生じる揮発性の物質が拡散して色素に届きやすいと考えられます。色素には、pH(酸性・アルカリ性の度合い)の変化で色が変わる染料のコンゴーレッドを使いました。

主な狙いは、繊維を作るときの条件がセンサーの感度や反応の速さにどう影響するかを明らかにすることでした。研究チームは、繊維の太さと色の変わり方との関係に注目しました。

どのように調べたか

繊維の製造には「溶液ブロー紡糸」という方法を用いました。広く使われる電界紡糸のような高電圧が要らず、高速の空気の流れで高分子の溶液を引き伸ばして繊維にする方法で、生産性が高く低コストとされています。原料の高分子ポリアクリロニトリル(PAN)は、繊維産業の廃棄物から得ました。

研究チームは、PANの濃度(12%と15%)、溶液を押し出す針の太さ(2種類)、空気圧(2段階)を組み合わせ、8種類のマットを作りました。電子顕微鏡で繊維の太さを測定し、赤外分光法などで色素が繊維に取り込まれているかや繊維内部の分子の並び方も分析しました。

試験用の油として、大豆油を180℃で最長7時間加熱し、1時間ごとに試料を採取しました。各試料について、酸化の初期段階でできる過酸化物の量を示す過酸化物価、その後に生じるアルデヒドなどの量を示すp-アニシジン価、遊離脂肪酸の多さの目安となる酸価などを測り、酸化の進み具合を確かめました。そのうえで、各マットを加熱時間の異なる油に対して反応させ、色が変わるまでの時間と色の変化の大きさを比べました。色の変化の大きさは、色差ΔE(数値が大きいほど変化が大きい)で表しました。

主な結果

製造条件によって繊維の太さははっきり変わりました。空気圧を上げると繊維は細くなり、平均直径は約300ナノメートルから約231ナノメートルに減りました。PANの濃度を12%から15%に上げると、条件の組み合わせによって44〜74%ほど太くなりました。針は太いほうが太い繊維になりました。赤外分光法の分析からは、PAN本来の構造を大きく損なわずにコンゴーレッドが取り込まれていることが示されました。

加熱時間が長くなるにつれて、大豆油の酸化の指標はいずれも上昇しました。7時間後の過酸化物価は油1キログラムあたり14.55ミリ当量、p-アニシジン価は3.52から9.48に上がりました。酸価は0.28から0.84 mg KOH/gに上がりました。この単位は、油1グラムに含まれる酸を中和するのに必要な水酸化カリウム(KOH)のミリグラム数を表します。これらから、油が段階的に劣化したことが確認されました。

すべてのマットが、加熱した油に反応して赤から青へ目に見えて変色しました。色が変わるまでの時間はマットと加熱時間によって約3秒から44秒で、油の加熱時間が長いほど、つまり酸化が進んでいるほど短くなりました。研究チームは、酸化生成物が多いほど色素との反応が速く進むためと考えています。また、繊維が細いマットほど反応が速い傾向がありました。

一方、色の変化の大きさ(ΔE)は約11から23とマットによって差がありました。反応がとくに速かった細い繊維のマット2種は、色の変化がもっとも小さい部類でした。著者らはここから、反応の速さと色の変わり方の大きさは別の性能であり、両方を考えて条件を選ぶ必要があると指摘しています。感度と反応の安定性を総合して、PAN濃度15%で作ったマットの一つがもっとも有望な配合として選ばれました。

この研究が示すこと

この研究は、製造条件を調整することで、油に直接触れずに酸化を色で知らせるナノファイバーセンサーの反応の速さや色の変わり方を変えられることを示しました。実験室の分析に頼らず、油の劣化を肉眼で確かめる手段につながる成果です。

著者らは、色素が溶け出すかどうかやセンサーの長期保存性はまだ評価していないと述べています。また、実際に使う前には、確立された酸化指標との照合や、実際の調理・食品の条件での検証が必要だとしています。今回の結果は、簡便な油の品質チェックに向けた基礎となる知見と位置づけられます。

著者:Shamous M. Ibrahim(Textile Department, Faculty of Applied Arts, Capital University (formerly Helwan University), Giza, Egypt)、Ayat F. Hashim(Fats and Oils Department, National Research Centre, Giza, Egypt. [email protected])、Ayman El said(Textile Department, Faculty of Applied Arts, Capital University (formerly Helwan University), Giza, Egypt)、Tamer Hamouda(Textile Research and Technology Institute, National Research Centre, Giza, Egypt)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Shamous M. Ibrahim, Ayat F. Hashim, Ayman El said, et al. Solution-blown PAN/Congo red nanofibrous sensors for colorimetric detection of soybean oil oxidation. npj Science of Food 2026-10-05. DOI: 10.1038/s41538-026-01157-z. 原著ライセンス:CC BY.