著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
フランクフルトのような乳化タイプのソーセージは、良質なタンパク質や各種ビタミン・ミネラルを含み、独特の食感や風味の広がりから世界中で親しまれています。その美味しさを支えているのが動物性脂肪で、ジューシーさや口当たり、風味の放出、そして肉のゲル構造の安定化に欠かせない役割を果たしています。ただし、乳化肉製品は一般に脂肪含量が100グラムあたり20〜35グラムと高く、こうした高脂肪の加工肉を摂り過ぎることはエネルギー摂取や脂肪摂取の観点から栄養上の懸念として指摘されてきました。そこで近年、動物性脂肪を減らしながらも食感や風味を保つための製法開発が進められています。
その代表的な方法のひとつが、植物油をあらかじめ「プレエマルション(予備乳化物)」の形に加工してから配合する手法です。ただし、植物油を使ったプレエマルションは物理的に不安定になりやすく、油と水が分離しないよう安定化剤が必要になります。さらに、植物油は不飽和脂肪酸を多く含むため酸化されやすく、貯蔵中に酸化生成物が蓄積すると風味や色、食感が損なわれるという課題も抱えています。中国・揚州大学食品科学工程学院の研究グループは、この課題に対し、肉のタンパク質と天然多糖類を組み合わせた新しい安定化システムを考案し、実際のソーセージでその効果を検証しました。
何を、どのように調べたのか
研究チームは、豚ロース肉(longissimus dorsi)から筋原線維タンパク質(MP)を抽出し、これを使って大豆油のプレエマルションを作製しました。安定化剤としては、(1)MP単独、(2)MPにアラビアガム(AG)を加えたもの、(3)MPに没食子酸(GA)をグラフト化(共有結合で付加)したアラビアガム(GA-AG)を加えたもの、の3種類を用意しています。GA-AGはラッカーゼという酵素を使い、AG溶液に没食子酸を反応させて作られました。
これらのプレエマルションを、豚背脂肪(豚バラ脂身)を主体とする西洋式乳化ソーセージの配合に、豚背脂肪の50%または100%を置き換える形で加えました。対照群(CKと呼ばれる、豚背脂肪のみを使った通常配合)と比較しながら、色調・pH・加熱による重量減少(クッキングロス)・食感(硬さ、弾力性、凝集性、咀嚼性などのテクスチャー特性)・官能評価(見た目、風味、味、口当たり、食感を10名の訓練されたパネリストが9点法で評価)・4℃での冷蔵保存中の脂質酸化(TBARS値、脂質酸化の指標となるマロンジアルデヒドの生成量を反映)を312時間にわたって調べました。
研究でわかったこと
プレエマルションによる置き換えは、豚背脂肪のみの対照群と比べてクッキングロスを有意に減らし、特に硬さや弾力性といった食感を改善したと報告されています。天然のAGを加えたプレエマルションでは、対照群に対してクッキングロスが50%置換で28.75%、100%置換で40.37%減少したとされ、水分と脂肪の保持能力が高まったことがうかがえます。一方、GA-AGはこの安定化効果をAGと同程度に維持しつつ、官能評価の受容性を損なわなかったとされています。官能評価では、50%の脂肪置換が食感と全体的な好ましさのバランスにおいて最も良好だったと報告されました。
色に関しては、植物油プレエマルションへの置き換えによって明度(L値)が上がり赤み(a値)が下がる傾向が見られ、豚背脂肪を使った従来のソーセージに比べて色合いがやや薄くなる可能性が示されています。GA-AGを含む系ではさらに赤みと黄み(a値・b値)が低下したものの、これは官能評価での色の評価点の低下には結びつかなかったとされています。pH値については、脂肪置換や多糖類の添加による有意な変化は見られなかったと報告されています。
冷蔵保存中の脂質酸化については、すべての配合でTBARS値が時間とともに増加しましたが、豚背脂肪のみの対照群が最も酸化が進みやすかったとされています。GA-AGを用いたプレエマルションは酸化抑制効果が最も強く、312時間の保存後、GA-AG群のTBARS値はMP単独群のわずか32.8%にとどまったと報告されています。これは、GA-AGがMPと協調して油滴表面により保護的な界面層を形成し、没食子酸由来のフェノール性の構造がラジカル捕捉や金属キレート作用を通じて酸化生成物の蓄積を抑えた可能性があると論文では考察されています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、モデル実験ではなく実際のソーセージ配合でMPとGA-AGを組み合わせた効果を検証した点に特徴がありますが、著者らは、配合によって添加される脂肪量そのものが異なる点に注意を促しています。すなわち、置き換え群でTBARS値が低かったことは、酸化を防ぐ働きだけによるものではなく、酸化されうる脂質の絶対量が少なくなったことも影響している可能性があり、単純に抗酸化能力の比較として解釈すべきではないとされています。また、GA-AGは食感の面ではAGと比べて明確な上乗せ効果を示さなかったとも報告されており、今回の配合条件においてはフェノール修飾の主な貢献は酸化安定性の向上にあり、食感形成への追加的な補強ではなかったと考察されています。色調変化の背景にあるフェノール基と色素成分との相互作用や、酸化抑制の分子レベルの仕組みについては、著者らはさらなる検討が必要だとしています。一つの研究であり、ここで得られた結果が今後の追試や実用化の中でどこまで再現されるかは、引き続き見ていく必要があります。
まとめ
この研究では、大豆油をあらかじめ筋原線維タンパク質とアラビアガム、あるいは没食子酸グラフト化アラビアガムで乳化しておくことで、動物性脂肪を減らした乳化ソーセージのクッキングロスや食感を改善しつつ、冷蔵保存中の脂質酸化を抑えられる可能性が示されました。とりわけ没食子酸を結合させたアラビアガムは、官能評価での受容性を保ちながら酸化抑制効果を高めたと報告されており、脂肪を減らした加工肉製品の品質保持に向けた一つの技術的な選択肢として位置づけられます。
原著論文の著者・所属:Chang Liu(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Mingze Xu(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Yi Luan(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Khubaib Ali(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Rui Sun(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Qingling Wang(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Shixue Wu(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Yixue Shi(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)、Mangang Wu(College of Food Science and Engineering, Yangzhou University, Yangzhou 225127, China)
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Chang Liu, Mingze Xu, Yi Luan, et al. Effects of Myofibrillar Protein-Stabilized Soybean Oil Pre-Emulsions Containing Arabic Gum or Gallic Acid-Grafted Arabic Gum on the Quality Characteristics and Oxidative Stability of Reduced-Animal-Fat Emulsified Sausages. フーズ (2026). DOI: 10.3390/foods15162795. 原著ライセンス: cc-by.