著者の所属・活動拠点の国は、ベトナムです。
掲載誌:Food Research
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
研究の目的:捨てられる菊茶のかすを食品素材に
ベトナムでは菊(キク科のChrysanthemum indicum)の花を使ったお茶が親しまれており、瓶詰めの菊茶飲料も製造されています。その製造過程では、お湯で成分を抽出した後の花の「かす」が大量に出ますが、現在は主に肥料の原料として扱われています。研究チームは、この菊茶の抽出かすに食物繊維やポリフェノールなどの成分が多く含まれる点に着目しました。
著者らは、食物繊維の摂取量が世界的に推奨量を下回りがちであることを背景に、身近なお菓子であるクッキーにこのかすの粉末を加えることで、食物繊維などを増やせるかを調べました。あわせて、かすを粉末にする際の乾燥温度が、残っている抗酸化成分にどう影響するかも検討しています。食品の副産物を新たな原料として活用し、廃棄物を減らす取り組みの一環として位置づけられています。
何を調べたか:乾燥条件の検討とクッキーの試作
研究チームはまず、工場での菊茶飲料の製造を模して、乾燥させた菊の花を約80℃のお湯に15分浸して抽出し、液を絞り切った後のかすを用意しました。このかすを50〜90℃の5段階の温度で、保存に適した水分量(約11%)になるまで乾燥させ、ポリフェノールの量や抗酸化力を比べました。抗酸化力は、DPPH法とFRAP法という、物質が酸化を抑える働きの強さを試験管内で測る2種類の方法で評価しています。
次に、選んだ条件で乾燥・粉砕したかすの粉末で、クッキー生地の小麦粉の0%(比較用)、2.5%、5%、7.5%、10%を置き換えてクッキーを焼きました。できたクッキーについて、成分(たんぱく質、脂質、でんぷん、食物繊維など)、抗酸化力、大きさ、硬さ、色を測定しました。さらに、週1回以上クッキーを食べる20〜50歳の60人が、香り・色・味・食感・総合的な好ましさを9段階で評価しました。
主な結果:食物繊維と抗酸化力が増え、風味には課題も
乾燥温度の検討では、50℃から80℃へ温度を上げるにつれてポリフェノール量と抗酸化力が高くなり、90℃では逆に低下しました。抗酸化力が最も高かった80℃(保存に適した水分量まで約105分)が、その後の実験の乾燥条件として選ばれました。
80℃で乾燥したかすの粉末は、小麦粉と比べて食物繊維が約13.5倍、ポリフェノール量が約3倍多く、抗酸化力はDPPH法で約46.5倍、FRAP法で約48.1倍高いと報告されています。一方、でんぷんは小麦粉よりはるかに少なく、粉の色も小麦粉より暗い色合いでした。
クッキーでは、かすの粉末を増やすほど食物繊維と抗酸化力が増えました。10%置き換えたクッキーでは、比較用と比べて食物繊維がおよそ3倍になり、抗酸化力はDPPH法で約4.9倍、FRAP法で約3.1倍に高まりました。7.5%置き換えたクッキーでは食物繊維が乾燥重量100グラムあたり約3グラムとなり、論文では国連食糧農業機関(FAO)が示す「食物繊維源」の基準を満たす水準とされています。
その一方で、かすの割合が増えるとクッキーは色が暗くなり、硬さも増しました。試食評価では、香り・味・色の好ましさが下がり、10%のクッキーでは菊の香りやわずかな苦みが目立ったと報告されています。反対に食食感の評価は割合が増えるほど高くなりました。総合的には、7.5%までのクッキーがおおむね受け入れられる評価を得たとしています。
この研究が示すこと
この研究は、ふだん捨てられたり肥料に回されたりしている菊茶の抽出かすが、クッキーの食物繊維や抗酸化力を高める素材になりうることを示しています。ただし、加える量が多いと風味や色の評価が下がるため、栄養面とおいしさのバランスをとることが課題として報告されています。
なお、ここでの抗酸化力は試験管内の測定によるもので、このクッキーを食べたときの体への効果は確かめられていません。著者らも、健康面での可能性を明らかにするには、血糖値への影響や抗酸化成分の体内での利用されやすさを調べる必要があるとしています。食品製造の副産物を無駄なく活かす一つの方法を具体的に示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:T.T.T. Tran(Department of Food Technology , Ho Chi Minh City University of Technology (HCMUT) , 268 Ly Thuong Kiet Street , Dien Hong Ward , Ho Chi Minh City , Vietnam; Vietnam National University-Ho Chi Minh City (VNU-HCM) ,)、T.T.D. Nguyen、L.V.Y. Nguyen(Department of Food Technology , Ho Chi Minh City University of Technology (HCMUT) , 268 Ly Thuong Kiet Street , Dien Hong Ward , Ho Chi Minh City , Vietnam; Vietnam National University-Ho Chi Minh City (VNU-HCM) ,)、Q.T.V. Bui、N.M.N. Ton(Department of Food Technology , Ho Chi Minh City University of Technology (HCMUT) , 268 Ly Thuong Kiet Street , Dien Hong Ward , Ho Chi Minh City , Vietnam; Vietnam National University-Ho Chi Minh City (VNU-HCM) ,)、V.V.M. Le(Minh City , Vietnam ³Faculty of Food Technology , Saigon Technology University (STU) , 180 Cao Lo Street , Chanh Hung Ward , Ho Chi Minh City , Vietnam)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):T.T.T. Tran, T.T.D. Nguyen, L.V.Y. Nguyen, et al. Quality of cookies supplemented with various levels of chrysanthemum tea residue powder. Food Research 2026-10-10. DOI: 10.26656/fr.2017.10(s2).18. 原著ライセンス:CC BY.