掲載誌:Food science & nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: Europe PMC
研究の目的
パスタは世界中で親しまれている主食のひとつですが、一般的なパスタは精製した小麦粉から作られるため、炭水化物が中心で食物繊維や生理機能をもつ成分は少ないと著者らは説明しています。食物繊維の摂取量が推奨水準に届かない集団は多く、とくに食生活が変化しつつある都市部ではその傾向がみられるといいます。そこで研究チームは、日常的に食べられる主食に繊維の豊富な素材を組み込むことが、現代の食習慣に沿った現実的な方法になり得ると考えました。
この研究では、バングラデシュで比較的安価に手に入る未活用の植物資源に注目しています。青バナナ粉は難消化性でんぷん(消化されにくいでんぷん)を多く含み、全粒小麦粉はふすまや胚芽を残しているため不溶性の食物繊維やミネラルの供給源になります。著者らは、青バナナ粉や全粒小麦粉を単独で使った先行研究はあるものの、これらを組み合わせて用いた場合に、栄養・色や食感・抗酸化性・ゆで上がりの性質・官能(味や見た目の好ましさ)がどう変わるかについての情報は限られていると述べ、本研究を行いました。
どのように調べたか
研究チームは、500gを基準とした配合で6種類のパスタを試作しました。青バナナ粉を加えた系列(BCL)と全粒小麦粉を加えた系列(WCL)の2系列を用意し、それぞれ精製小麦粉を10%、15%、20%の割合で置き換えています。20%を超えると生地の扱いやゆで上がり、官能の面で支障が出て、逆に置き換えが少なすぎると栄養面の改善が限られるという予備試験の結果から、この水準が選ばれました。配合にはカリフラワー、玉ねぎ粉、にんにく粉、トマトペースト、塩、唐辛子粉、卵も用いられています。生地は家庭用パスタメーカーで混ねつし、30分休ませたのち成形、5分間蒸してから45℃で12時間乾燥させました。なお市販のパスタも比較の目安として用いられましたが、原材料や加工条件をそろえられないため、著者らは厳密な対照ではなく「市販参照品」と位置づけています。
分析項目は多岐にわたります。水分活性(食品中の水の自由に動ける度合いで、微生物の増えやすさに関わる指標)、色、ゆで時間・吸水・ゆで汁への溶出(クッキングロス)、テクスチャー、一般成分やミネラル・ビタミンB群、総食物繊維量のほか、総ポリフェノール量・総フラボノイド量・総抗酸化能、そしてDPPHとABTSという2種類の試薬を使ったラジカル消去活性が調べられました。抗酸化に関する測定は、ゆでる前とゆでた後の両方で行われています。さらに訓練を受けた10名のパネリストが、色・風味・味・食感・全体的な好ましさを9点尺度で評価しました。すべての測定は原則3回繰り返され、統計的に比較されています。
報告された主な結果
食物繊維は大きく増えました。対照のパスタが4.2g/100gだったのに対し、強化した試作品はいずれも有意に高く、BCL10%で9.5g/100g、WCL15%で9.7g/100gに達したと報告されています。著者らは、100gあたり6gを超える食品を「高繊維」と表示できるというコーデックス委員会の基準に、強化した試料がすべて該当する点に言及しています。ミネラルも軒並み増加し、カリウムは対照の224.36mg/100gからBCL15%で456.98mg/100gへ、カルシウムは172.56mg/100gからWCL20%で292.86mg/100gへ、鉄はWCL20%で17.08mg/100gと対照の約6倍になりました。ビタミンB群も増え、とくにナイアシン(B3)は対照の約0.25mg/100gに対しBCL20%で2.9mg/100gと最も高い値を示しています。
抗酸化に関する指標も顕著に上がりました。ゆでる前の総ポリフェノール量は対照の2.16μg GAE/g(乾燥重量あたり)からBCL20%で27.78μg GAE/gへ、DPPHによるラジカル消去率は対照の13.42%からWCL20%で95.67%へと上昇しています。加熱調理後は値が下がるものの、強化パスタは対照より高い水準を保ちました。なおフラボノイドについては、ゆでた後のほうが高い値となり、WCL10%で91.04μg QE/gと最大でした。著者らはこれを、加熱によって植物組織がほぐれ、結合していたフラボノイドが取り出されやすくなった可能性として説明しています。
一方で、品質面には差し引きもありました。吸水量は対照より増え、ゆで汁への溶出も8.97〜10.86%と対照の8.85%より高くなっており、著者らはこれを、繊維がグルテンの網目構造の形成を妨げ、生地のまとまりが弱まったためと考えています。ゆでた後のかたさは対照より有意に増し、最も高かったのはBCL20%でした。粘りや付着性も上がる一方、弾力を示すスプリンギネスは低下しています。色は赤みが増して黄色みが減り、対照との違いが目に見える程度に生じています。水分活性は0.49〜0.55で、いずれも乾燥食品として微生物学的に安全とされる0.60を下回っていました。官能評価では、色と食感は対照が最も高く評価された一方、風味と味はBCL10%が最高点で、全体的な好ましさも対照(7.8)とBCL10%(8.0)が上位でした。20%まで置き換えた配合は全体的な好ましさが最も低く(7.0)、著者らは10〜15%の置き換えが栄養面と官能面の釣り合いのとれた水準だったと結論づけています。
この研究が示すこと
この研究は、身近な主食であるパスタに、地域で手に入りやすい青バナナ粉と全粒小麦粉を組み合わせて加えることで、食物繊維・ミネラル・ビタミンB群・抗酸化に関わる成分を大きく高められることを、実際に試作したうえで示しました。同時に、繊維を増やすほどゆで汁への溶出や食感の変化が進み、食べたときの好ましさは下がるという釣り合いも、数値と官能評価の両面から具体的に示されています。
栄養の改善と食べやすさは自動的に両立するものではなく、どの程度置き換えるかという設計の問題である——この研究の結果は、機能性を高めた食品づくりにおけるその基本的な難しさと、それに向き合うための手がかりを伝えています。
著者:Islam S(Institute of Food Science and Technology (IFST) Bangladesh Council of Scientific and Industrial Research (BCSIR) Dhaka Bangladesh.)、Himu NS(Department of Biochemistry and Molecular Biology Sher e Bangla Agricultural University Dhaka Bangladesh.)、Islam MF(Institute of Food Science and Technology (IFST) Bangladesh Council of Scientific and Industrial Research (BCSIR) Dhaka Bangladesh.; Department of Food Technology and Nutritional Science Mawlana Bhashani Science and Technology University Tangail Bangladesh.)、Kibria A(Institute of Food Science and Technology (IFST) Bangladesh Council of Scientific and Industrial Research (BCSIR) Dhaka Bangladesh.)、Bhuiyan MNI(BCSIR Chattogram Laboratories, BCSIR Chattogram Bangladesh.)、Abedin MJ(Institute of Food Science and Technology (IFST) Bangladesh Council of Scientific and Industrial Research (BCSIR) Dhaka Bangladesh.)、Miah MN(Department of Biochemistry and Molecular Biology Sher e Bangla Agricultural University Dhaka Bangladesh.)、Miah MAS(Biomedical and Toxicological Research Institute (BTRI) Bangladesh Council of Scientific and Industrial Research (BCSIR) Dhaka Bangladesh.)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Islam S, Himu NS, Islam MF, et al. Development and Quality Evaluation of Fiber-Enriched Pasta Incorporating Green Banana Flour and Whole Wheat Flour: Physicochemical, Antioxidant, and Sensory Properties. Food science & nutrition 2026-08-27. DOI: 10.1002/fsn3.72273. 原著ライセンス:CC BY.