脂身つきの豚ばら肉は、飽和脂肪酸が100gあたり14.6g。同じく脂身つきの牛ばら肉は13.05g。数字だけ見ると近い値ですが、その正体を探ると「牛だから」「豚だから」という種の違いではなく、実は同じ「ばら」という部位が持つ共通の性格だとわかります。
肉選びというと、まず牛・豚・鶏のどれにするかを決めてしまいがちです。しかし成分表を部位別に横断して見ると、脂の多さを決めているのは種ではなく部位だという線がくっきり浮かび上がります。
ばら系ともも・むね系、二極に分かれる飽和脂肪酸
飽和脂肪酸は体内でも合成でき必須ではない脂肪酸で、肉の脂身に多く含まれ、常温で固まりやすくエネルギー源になるとされます。摂りすぎは高LDLコレステロール血症など循環器疾患の危険因子として報告されている成分です。
豚[大型種肉]ばら 脂身つき 生14.6g、牛[輸入牛肉]ばら 脂身つき 生13.05g、鶏[若どり・主品目]もも 皮つき 生4.37g、牛[輸入牛肉]もも 脂身つき 生3.22g、豚[中型種肉]もも 赤肉 生1.74g、鶏[若どり・主品目]むね 皮つき 生1.53g。これを飽和脂肪酸の多い順に並べたものです。ここで目を引くのは、豚と牛のばらが10g台なのに対し、もも・むね系はすべて4.37g以下に収まっている点です。種をまたいでもばら同士、もも・むね同士は近い値を示しており、部位という軸が種の違いより効いていることが読み取れます。牛肉には和牛・国産牛・輸入牛の違いもあり、和牛は脂肪が多く輸入牛は脂肪が少ない傾向があるとされますが、この記事で扱う輸入牛のもも・ばらだけを比べても、部位差の大きさは変わりません。
脂を抑えた先で見えてくる、もう一つの得意技
では脂を落としたもも・むね系は栄養的に地味なのかというと、そうではありません。もも・むね系は脂肪酸ではなく、ビタミンB群でそれぞれ個性を発揮しています。
豚もも赤肉はビタミンB1が1.01mgと6品中最も多く、糖質などの代謝・エネルギー産生を助ける補酵素として働くとされる成分です。ビタミンB1の推奨量(成人30〜49歳)は男性1.2mg・女性0.9mg。ビタミンB1は水溶性で長く水にさらさないことが望ましく、にんにくや玉ねぎに含まれる硫化アリルと一緒にとると吸収が高まるとされています。
一方鶏むね皮つきはナイアシン11mg、ビタミンB6が0.57mg、パントテン酸1.74mgといずれも6品中トップです。ナイアシンは酸化還元酵素の補酵素として皮膚や粘膜の健康維持を助けるとされ、ナイアシンの推奨量(成人30〜49歳)は男性16mgNE・女性12mgNE。ビタミンB6はアミノ酸の代謝に関わり、たんぱく質からのエネルギー産生や皮膚・粘膜の健康維持を助けるとされます。ビタミンB6の推奨量(成人30〜49歳)は男性1.5mg・女性1.2mg。パントテン酸はコエンザイムAの構成成分として糖・脂肪酸の代謝に関わるとされる成分です。パントテン酸の目安量(成人30〜49歳)は男性6mg・女性5mg。脂を落とした部位が、代わりにビタミンB群で存在感を示しているのです。
買い物と調理での使い分け
この二極構造を踏まえると、日々の献立の立て方も変わってきます。脂を抑えたい日は牛でも豚でも鶏でも「もも」「むね」を選べばよく、コクやジューシーさを楽しみたい日は「ばら」を少量使うという発想です。ばら肉は飽和脂肪酸が多いぶん、一度に大量に食べるのではなく、薄切りを数枚、炒め物や汁物の香り付けに使うくらいが扱いやすい量になります。
反対にたんぱく質量を重視したい食事では、豚もも赤肉100gでたんぱく質21.9g、鶏むね皮つきで21.3gと、もも・むね系がまとまった量を確保しやすい選択肢になります。
まとめ
脂の多さを分けているのは牛・豚・鶏という種ではなく、もも・むね系かばら系かという部位です。もも派かばら派か——今日の献立で肉を選ぶときは、まず種類を決めるより先に「脂を楽しみたいか、抑えたいか」を考え、それに合う部位を選ぶほうが、成分表の実態に近い賢い選び方だといえそうです。同じ部位でも和牛と輸入牛のように、育て方によって脂の量が変わることもわかっており、次に和牛のばら肉の値が並んだときには、この二極構造がどこまで崩れるのか、また見比べてみたくなります。
※本記事は特定の食品の効果・効能を示すものではありません。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準・e-ヘルスネット「LDLコレステロール」(厚生労働省)