この研究は、マレーシアの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Aquaculture Fish and Fisheries

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜナマコの種類と栄養を調べたのか

ナマコは、ゆでて干した加工品(ビーシュ・ド・メール、日本でいう「いりこ」)として広く取引されています。加工されると色や形などの手がかりが失われ、種類を見分けにくくなります。そのため、高価な種が安価な種にすり替えられたり、誤った表示がされたりするおそれが指摘されています。また、商品価値は種類、見た目、色、においなどで決まることが多く、栄養成分にもとづく評価は十分に行われていませんでした。

マレーシアのボルネオ島北部にあるサバ州は、ナマコの種類が豊富です。漁業や加工産業にとっても重要な地域ですが、種の確認と詳しい栄養分析を組み合わせた研究は限られていました。そこで研究チームは、サバ州の沿岸で採集した熱帯ナマコ2種、Stichopus horrensとHolothuria leucospilotaについて、二つの目的を立てました。一つは種を正確に確かめること、もう一つは一般成分、アミノ酸、脂肪酸の組成を比べることです。

体の中の小さな骨片で種を見分ける

試料は、コタキナバル周辺の水深2メートル未満の潮間帯で、干潮時に手で採集されました。S. horrensは4個体、H. leucospilotaは3個体です。ナマコの皮膚には、骨片(オシクル)と呼ばれる顕微鏡サイズの石灰質の小片が埋まっており、その形は種を見分ける手がかりになります。研究チームは体壁の組織を薬品で溶かして骨片を取り出し、光学顕微鏡で観察しました。そのうえで外見の特徴と合わせ、既存の分類用の検索表と照らし合わせました。

S. horrensは、平均体長が約24センチ、平均重量が約411グラムでした。個体ごとの体色は大きく異なり、まだら模様の灰色やベージュのもの、青白い斑点のある暗いオリーブ色のもの、しま模様に見えるものなどがありました。それでも、骨片の組み合わせは4個体とも一貫していました。テーブル状の骨片、C字形やS字形の棒状骨片、ロゼット(花形)の骨片、穴のあいた板状骨片です。著者らはこの結果から、色の違いは同じ種の中での変異だと判断しました。

H. leucospilotaは、平均体長が約8.7センチ、平均重量が約42グラムと小型の個体でした。体は細長い円筒形で、表面は比較的なめらかな暗色でした。骨片はボタン状やテーブル状のものが中心でした。S. horrensに見られたC字形の棒状骨片とロゼットはありませんでした。論文は、この二つがないことが両種を区別する有用な特徴になると報告しています。

高たんぱく・低脂質という共通点

栄養分析には、食べる部分にあたる体壁だけを使いました。水分は生の重さに対する割合で、ほかの成分は乾燥させた重さに対する割合で示されています。S. horrensの水分は約92.9%で、H. leucospilotaの約68.9%(個体差が大きい)より多い結果でした。乾燥重量あたりのたんぱく質は、S. horrensが約50.3%、H. leucospilotaが約53.2%で、どちらも最も多い成分でした。灰分(ミネラル分)はS. horrensが約39.5%、H. leucospilotaが約32.1%でした。脂質はそれぞれ約0.5%と約1.4%、繊維はどちらもごくわずかでした。

アミノ酸組成には種による違いが見られました。S. horrensでは、リシン、ヒスチジン、メチオニン、アルギニンなどが比較的多く検出されました。H. leucospilotaではバリンが最も多く、シスチン、アラニン、フェニルアラニンが続きました。ただし、この測定値は分析装置の信号の大きさから推定した半定量的な値です。組織中の絶対量を示すものではありません。また、個体によって検出されないアミノ酸もあり、H. leucospilotaの値は1回分の分析結果にもとづいています。

脂肪酸は、H. leucospilotaでは炭素数14のミリスチン酸が検出量全体の約89%、ミリストレイン酸が約11%を占め、組成が極端に偏っていました。この数値も、検出された脂肪酸の中での相対的な割合です。S. horrensでは脂肪酸が検出されませんでした。著者らは、脂質がもともと非常に少なく、検出限界を下回った可能性を挙げています。脂肪酸の分析はいずれも1試料のみで、論文は予備的な結果と位置づけています。

この研究が示すこと

この研究は、顕微鏡による骨片の観察が、見た目の色がばらつくナマコの種を確かめるうえで頼りになる手がかりであることを示しました。また、同じ海域の2種について、高たんぱく・低脂質という共通の栄養的特徴を報告しました。研究チームは、これらの結果を2種の栄養価や養殖への可能性を考える基礎データとして位置づけています。一方で、個体数が少ないことなどから、種全体を代表する値とは見なさず、予備的な知見として扱うべきだとしています。

著者:Noora Barzkar(Higher Institution Center of Excellence, Borneo Marine Research Institute Universiti Malaysia Sabah Kota Kinabalu Sabah Malaysia)、Gabriel Anak Rawing(Higher Institution Center of Excellence, Borneo Marine Research Institute Universiti Malaysia Sabah Kota Kinabalu Sabah Malaysia)、Marrie Holly(Higher Institution Center of Excellence, Borneo Marine Research Institute Universiti Malaysia Sabah Kota Kinabalu Sabah Malaysia)、Ching Fui Fui(Higher Institution Center of Excellence, Borneo Marine Research Institute Universiti Malaysia Sabah Kota Kinabalu Sabah Malaysia)、Rafidah Binti Othman(Higher Institution Center of Excellence, Borneo Marine Research Institute Universiti Malaysia Sabah Kota Kinabalu Sabah Malaysia)、Sitti Raehanah Muhamad Shaleh(Higher Institution Center of Excellence, Borneo Marine Research Institute Universiti Malaysia Sabah Kota Kinabalu Sabah Malaysia)、Rossita Shapawi(Higher Institution Center of Excellence, Borneo Marine Research Institute Universiti Malaysia Sabah Kota Kinabalu Sabah Malaysia)、Mohammad Tamrin Mohamad Lal(Higher Institution Center of Excellence, Borneo Marine Research Institute Universiti Malaysia Sabah Kota Kinabalu Sabah Malaysia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Noora Barzkar, Gabriel Anak Rawing, Marrie Holly, et al. Spicule Morphology and Nutritional Composition of Two Tropical Sea Cucumbers ( Stichopus horrens and Holothuria leucospilota ) From Sabah, Malaysia. Aquaculture Fish and Fisheries 2026-10-01. DOI: 10.1002/aff2.70344. 原著ライセンス:CC BY.