著者の所属・活動拠点の国は、マレーシアです。

掲載誌:Scientific Reports

ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

魚を船に引き揚げる作業は、これまで人手による「玉網(たまあみ)すくい」が主流でした。しかし労働負担が大きく、漁業の担い手不足が進む中で、この作業をどう効率化するかは水産業の重要な課題です。今回紹介する研究は、マレーシア・サバ州の商業まき網漁船を対象に、真空式の魚ポンプ(吸い上げて魚を運ぶ機械)を導入した場合と、従来の人力作業を続けた場合とで、漁獲効率や収益、現場の受け止め方にどのような違いが出るのかを調べたものです。

研究チームには、マレーシアの水産研究機関(Fisheries Research Institute)に所属する研究者に加え、東南アジア漁業開発センター(SEAFDEC)の研究者が加わっています。

どのように調べたのか

調査の対象となったのは商業まき網漁船17隻で、このうち13隻は魚ポンプを導入済み、4隻は従来通りの玉網作業を行う船でした。研究チームはこれらの船から得られたデータを、ノンパラメトリック統計手法(データの分布に特定の前提を置かずに比較できる統計手法)を用いて分析しています。比較の指標としては、単位時間あたりにどれだけ魚を漁獲できたかを示すCPUE(Catch Per Unit Effort、単位努力量あたり漁獲量)が用いられました。

研究でわかったこと

分析の結果、魚ポンプを導入した船のCPUEは平均で毎分330キログラムに達し、従来方式の船の毎分75キログラムを大きく上回ったと報告されています。また、直径305ミリメートル(12インチ)のポンプが、1時間あたり90〜140トンという高い処理量と、漁獲物の品質保持とのバランスにおいて最適な構成として挙げられています。

経済面では、ポンプを導入した船の月間粗利益は従来方式の船の3〜4倍に達したとされ、1回の操業での漁獲量は666キログラムから15万キログラムまでの幅があったと報告されています。さらに、こうした漁獲物はすべて国内の加工施設や卸売市場に回されており(国内供給が100%)、研究チームはこれを地域の食料安全保障を支える動きとして位置づけています。

一方で課題も明らかになっています。回答した漁業関係者の61.5%が、ポンプ設備の故障・不具合を運用上の問題として挙げており、機械的な脆弱性への対応が今後の課題とされています。

この研究をどう読むか

この研究は、特定の海域・特定の船団を対象にした比較調査であり、真空ポンプの導入効果を一般化して結論づけるものではありません。対象となった船の数も17隻と限られており、故障報告の多さが示すように、技術的な信頼性の向上が今後の実用化における前提条件になると考えられます。1つの研究から得られた知見であり、他の漁場や漁法にそのまま当てはまるとは限らない点に留意が必要です。

まとめ

この研究では、まき網漁業における真空式魚ポンプの導入が、漁獲効率と収益性の両面で従来の人力作業を大きく上回る可能性が示唆されています。同時に、設備故障という運用上の弱点も浮き彫りになっており、技術の実用化に向けては機械の信頼性向上が鍵になると報告されています。

原著論文の著者・所属:Mohd Samsul Rohizad Maidin(Fishing Gear Technology Division, Fisheries Research Institute, Kampung Acheh, 32000, Sitiawan, Perak, Malaysia)、Mastura Mustapha(Marine Fishery Resources Development and Management Department, Southeast Asian Fisheries Development Center (MFRDMD/SEAFDEC), Taman Perikanan Chendering, 21080, Kuala Terengganu, Terengganu, Malaysia)、Nurul Iman Athirah Hamdan(Fishing Gear Technology Division, Fisheries Research Institute, Kampung Acheh, 32000, Sitiawan, Perak, Malaysia)、Abdul Wahab Abdullah(Fishing Gear Technology Division, Fisheries Research Institute, Kampung Acheh, 32000, Sitiawan, Perak, Malaysia)

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Mohd Samsul Rohizad Maidin, Mastura Mustapha, Nurul Iman Athirah Hamdan, et al. Evaluating the efficiency of vacuum fish pump systems in commercial purse seine fisheries. サイエンティフィック・リポーツ (2026). DOI: 10.1038/s41598-026-65957-9. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.