この研究は、スウェーデン、スペインの研究機関の研究論文です。

掲載誌:BMC Medicine

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

平均寿命が延びる一方で、慢性疾患や障害を抱えずに過ごせる年数が同じだけ延びるとは限りません。加齢は心血管疾患、2型糖尿病、神経変性疾患、がんなどの主要な危険因子であり、変えられる要因を見つけることが課題になっています。食事はそうした変えられる要因の代表格です。

従来の栄養研究は個々の栄養素や食品に注目してきましたが、現実の食事は複数の成分が組み合わさったものです。そこで近年は「食事パターン」という考え方——食事全体の質を一つの指標にまとめる方法——が使われるようになりました。地中海食などの質の高い食事パターンを守っている高齢者では、心血管疾患や身体機能の低下、認知機能障害のリスクが低いことが、多くの総説や解析で示されています。

しかし著者らは、そうした食事が加齢のプロセスにどのような生物学的な経路を通じて関わるのかは、まだ十分に分かっていないと指摘します。また高齢者を対象にした先行研究の多くは、少数の指標だけを個別に調べたものでした。この研究は、加齢に関わる複数の領域をカバーする幅広い血液指標のパネルを用い、食事パターンへの準拠度と最も強く関係する指標を特定することを目的としています。

何をどう調べたか

著者らが用いたのは、スウェーデン・ストックホルム中心部のクングスホルメン地区で進められている高齢者コホート研究(SNAC-K)のベースライン(2001〜2004年)データです。60歳以上の地域在住者および施設入所者を年齢層別にランダム抽出して招待し、3,363人が参加しました。そこから血液検体や食事データ、社会人口学的変数に欠損のある人を除外し、最終的な解析対象は1,769人です。平均年齢は70.5歳、60%が女性でした。なお、この研究はある一時点のデータを比較する横断的な設計です。

食事は、過去1年間の習慣的な食品・飲料の摂取頻度を尋ねる98項目の妥当性が確認された質問票で評価されました。そこから3種類の食事パターン得点が算出されています。AMED(オルタナティブ地中海食スコア)は野菜、豆類、果物、ナッツ、全粒穀物、魚などの摂取量が集団の中央値以上なら加点する地中海食型の指標です。AHEI(オルタナティブ健康食指数)は慢性疾患リスクとの関連が知られる11の食品・栄養素群を推奨摂取量に照らして採点する、食事全体の質の指標です。EDII(経験的食事炎症指数)は、炎症マーカーとの関連から経験的に導かれた、食事の炎症を起こしやすさを示す指標で、この研究では値が高いほど炎症性が低いことを意味するよう符号を反転させた版(rEDII)が使われています。

血液指標は54項目です。ヘモグロビンやコレステロールなど従来から測定されている13項目に加え、加齢に関わる4つの領域——代謝、炎症、血管、神経変性——に関連するものとして文献レビューと専門家の合意にもとづき選ばれた41項目が新たに測定されました。統計解析では、各食事パターン得点の1標準偏差の増加が、各血液指標の中央値とどう関係するかを、年齢、性別、学歴、職業、同居状況、喫煙、身体活動、総エネルギー摂取量、採血時の絶食状況を考慮したうえで推定しています。3つの食事パターン×54指標の計162回の検定を行うため、偶然による見かけ上の関連を抑える多重比較の補正も適用されました。

主な報告結果

補正後も統計的に有意だった関連は10件でした。AMEDへの準拠度が高いほど、葉酸の値が高く、GFAP(グリア線維性酸性タンパク質。脳のグリア細胞の活性化や神経炎症を反映する指標)の値が低いという関連が報告されています。AHEIへの準拠度が高いほど、葉酸が高く、GDF15(細胞のストレスや炎症に応じて増えるサイトカインで、加齢に関わる指標として知られる)が低いという関連がみられました。

最も広い範囲の指標と関連していたのはrEDII、すなわち炎症を起こしにくい食事です。準拠度が高いほど、レプチン、インスリン、GDF15、アルカリホスファターゼ、TNFRSF1B(炎症性サイトカインの受容体)、白血球数という6つの指標が、いずれも低い値と関連していました。著者らは、EDIIがもともと炎症マーカーのデータから経験的に導かれた指標であることが、この幅広さに部分的に反映されている可能性を挙げています。

複数のパターンにまたがって有意だった指標は葉酸とGDF15の2つだけで、他の関連はパターンごとに異なっていました。著者らはこれを、3つとも健康的な食事とされる一方で、それぞれが重視する食品の組み合わせを通じて、部分的に異なる生物学的プロセスに関わっている可能性を示すものと解釈しています。また媒介分析では、rEDIIとインスリン・レプチンの関連にはBMIが、白血球数やアルカリホスファターゼなど6指標との関連には慢性疾患の数が、それぞれ間接的に関与していることが示されました。rEDIIとGDF15の関連については、慢性疾患の少ない人に限った解析では有意でなくなっており、著者らは疾患負荷の少なさがこの関連を生んでいる可能性を指摘しています。

この結果が示すこと

著者らは、この研究が横断的な設計であるため因果関係は判断できないと明記しています。食事が指標を変化させたのか、健康状態が食事の選択に影響したのかは、このデータからは区別できません。対象が都市部の教育水準・経済水準の高いスウェーデン人に偏っていること、質問票による自己申告には想起の誤りが伴うこと、サプリメント使用のデータがないことも限界として挙げられています。

そのうえで、この研究は、健康的とされる複数の食事パターンへの準拠度が、代謝・炎症を中心とする幅広い血液指標のより良好な値と結びついていることを、高齢者集団で同時に比較して示しました。食事全体の質という視点を、加齢に関わる複数の生物学的プロセスと結びつけて捉える手がかりを与える報告といえます。

著者:Rachel Ann DaCosta(Aging Research Center, Department of Neurobiology, Care Sciences and Society, Karolinska Institutet and Stockholm University, Stockholm, Sweden)、Caterina Gregorio(Aging Research Center, Department of Neurobiology, Care Sciences and Society, Karolinska Institutet and Stockholm University, Stockholm, Sweden)、Amaia Calderón-Larrañaga(Aging Research Center, Department of Neurobiology, Care Sciences and Society, Karolinska Institutet and Stockholm University, Stockholm, Sweden)、Alice Margherita Ornago(Aging Research Center, Department of Neurobiology, Care Sciences and Society, Karolinska Institutet and Stockholm University, Stockholm, Sweden)、Anja Mrhar(Aging Research Center, Department of Neurobiology, Care Sciences and Society, Karolinska Institutet and Stockholm University, Stockholm, Sweden)、Rosario Ortolá(Center for Networked Biomedical Research in Epidemiology and Public Health (CIBERESP), Madrid, Spain)、Claudia Fredolini(Affinity Proteomics Unit, KTH Royal Institute of Technology, SciLifeLab, Solna, Sweden)、Davide Liborio Vetrano(Aging Research Center, Department of Neurobiology, Care Sciences and Society, Karolinska Institutet and Stockholm University, Stockholm, Sweden)、Adrián Carballo‐Casla(Aging Research Center, Department of Neurobiology, Care Sciences and Society, Karolinska Institutet and Stockholm University, Stockholm, Sweden)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rachel Ann DaCosta, Caterina Gregorio, Amaia Calderón-Larrañaga, et al. Biological signature of dietary patterns in older adults: findings from a population-based study. BMC Medicine 2026-09-15. DOI: 10.1186/s12916-026-05202-2. 原著ライセンス:CC BY.