著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Research International
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
研究チームは、中国・新疆ウイグル自治区のうち、生態環境が対照的な二つの地域で生産された「ドーラン羊」の肉を比べました。一つは新疆北部の温帯大陸性気候の地域で生産された羊肉(論文では「BDL」)、もう一つは新疆南部の乾燥砂漠地域で生産された羊肉(「NDL」)です。研究の目的は、両者の風味のもとになる成分や、加熱後の香りにどのような違いがあるかを調べることでした。
肉の味や香りは、生の肉に含まれる脂肪酸、アミノ酸、うま味に関わる核酸関連物質などが、加熱中に変化したり反応したりして生まれます。こうした成分は「風味前駆物質」と呼ばれます。研究チームは、これらの前駆物質に加えて、脂質の酸化の程度と、実際に香りに寄与する成分を合わせて分析しました。
何を調べたか
抄録によると、生肉の分析には背中の筋肉である背最長筋が使われました。生肉では、脂肪酸、遊離アミノ酸、うま味に関わる核酸関連物質(ヌクレオチド)を測定したほか、含まれる代謝物を網羅的に調べる「メタボロミクス」解析を行いました。脂質の酸化の程度を示すTBARS値も測っています。
さらに、決められた条件で肉をゆで、そのゆで汁を電子舌(味に反応するセンサーを使った測定機器)で測定しました。ゆでた肉からは揮発性の香り成分を分析し、そのうち実際に香りとして働く成分を確認しています。
主な結果
北部の温帯地域の羊肉(BDL)は、脂肪酸の総量が100グラムあたり1976.03ミリグラムで、南部の乾燥砂漠地域の羊肉(NDL)の879.10ミリグラムを上回りました。飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸もBDLのほうが多くなっていました。一方、NDLは不飽和度の高い脂質組成を示し、多価不飽和脂肪酸は100グラムあたり152.76ミリグラムと、BDLの96.56ミリグラムより多く、特にC20:3n-6やC20:4n-6(アラキドン酸)と呼ばれる脂肪酸が多くなっていました。脂質の酸化を示すTBARS値の平均はNDLのほうが高かったものの、統計的に意味のある差ではありませんでした。
味に関わる成分では、NDLの生肉に甘味を持つアミノ酸や、うま味に関わるIMP、GMP、AMPといった核酸関連物質が多く含まれ、うま味の強さを換算した指標(等価うま味濃度)も高い値でした。NDLのゆで汁では、電子舌による甘味、うま味、コクに関連する応答が高くなっていました。ただし、これは人が味わった評価ではなく機器による測定結果です。
香りでは、どちらの羊肉でもアルデヒド類が揮発性成分の中心を占めていました。ヘキサナール、1-オクテン-3-オール、(E,E)-2,4-デカジエナールは両者に共通して、ゆでた羊肉の香りに寄与する成分であることが確認されました。一方、(Z)-6-ノネナール、3,5-オクタジエン-2-オン、(E,E)-2,4-ノナジエナールはNDLの香りに、(E)-2-ノネナールはBDLの香りに、より関わりが深いとされています。
メタボロミクス解析では、これらの違いがグリセロリン脂質、リノール酸、アラキドン酸、ヒスチジン、β-アラニンの代謝と関連づけられました。
研究が示すこと
著者らは、それぞれの生産環境で育った二つの産地のドーラン羊肉の間で、生肉に含まれる風味前駆物質と、加熱後の香りの特徴が異なっていたとまとめています。同じドーラン羊肉でも、産地によって風味の成り立ちに違いが見られることを、脂質、味成分、香り成分、代謝の各側面から示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Bin Chen(College of Animal Science, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Maomao Zeng(School of Food Science and Technology, Jiangnan University, Wuxi 214122, China)、Xing Shen(College of Resources and Environment, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Wujun Liu(College of Animal Science, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China. Electronic address: [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Bin Chen, Maomao Zeng, Xing Shen, et al. Flavour signatures of Duolang lamb from arid-desert and temperate regions: precursor chemistry, aroma validation and metabolomic links. Food Research International 2026-08-17. DOI: 10.1016/j.foodres.2026.120406. 原著ライセンス:CC BY.