著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Animals

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

質の高い羊肉への需要が高まるなか、抗生物質に頼らずに家畜の健康と肉質を高める方法として、植物由来の飼料添加物が研究されています。その一つが、伝統的な生薬「黄耆(おうぎ)」の原料となるキバナオウギ(Astragalus membranaceus)です。キバナオウギには多糖類やサポニン類、フラボノイドなどの成分が含まれ、これまでの羊やヤギの研究では、肉の色の安定性や保水性などへの好ましい影響が報告されてきました。

一方で、こうした肉質の変化が筋肉の中でどのような分子の変化を伴って起きているのかは、ほとんど分かっていませんでした。著者らは、羊の筋肉について、たんぱく質と小さな代謝物の両面から体系的に調べた研究はまだないと指摘しています。そこで研究チームは、中国の羊肉生産で重要な交雑種であるオーストラリアンホワイト種と湖羊(フー種)の交雑雄羊を対象に、キバナオウギの粉末を飼料に加えたときの肉質と筋肉の分子の変化を調べました。

どのように調べたか

試験は中国甘粛省の標高約2153メートルにある施設で行われました。生後80日、平均体重約24キログラムの雄の子羊96頭を4つのグループに分け、混合飼料(風乾物ベース)に対してキバナオウギ粉末を0%、2%、4%、6%の割合で加えて与えました。各グループは4頭ずつの囲い6つで構成され、10日間の慣らし期間の後、70日間の本試験が行われました。

試験の終わりに、各囲いから無作為に1頭を選び、背中に沿って走る背最長筋という筋肉を調べました。肉の色、硬さを示すせん断力、pH、肉汁の流出量、加熱したときに失われる水分などの量(加熱損失)といった一般的な肉質の指標を測定しました。

あわせて、筋肉に含まれるたんぱく質を網羅的に調べる「プロテオミクス」と、アミノ酸や脂質などの小さな分子(代謝物)を網羅的に調べる「メタボロミクス」を行い、粉末を加えた各グループと無添加グループとで量が大きく異なる分子を探しました。さらに、それらの分子と肉質の指標との間の相関関係も分析しました。なお著者らは、代謝物の同定はデータベースとの照合による推定であり、探索的な研究であるため、見つかった候補にはさらなる確認が必要だと述べています。

主な結果

肉質の指標のうち、統計的に意味のある差が見られたのは加熱損失だけで、6%のグループでのみ無添加グループより少なくなりました。肉の色、せん断力、pH、肉汁の流出量などには有意な差は見られませんでした。著者らは、別の研究の飼料摂取量データをもとに、6%グループでの粉末摂取量を1頭あたり1日約87グラムと見積もっており、検出できるほどの効果には比較的多い摂取量が必要だったと考察しています。

代謝物では、無添加グループと比べて量が異なる代謝物が、2%、4%、6%のグループでそれぞれ24、33、86種類見つかりました。2%と4%のグループでは主にアミノ酸の合成や分解に関わる経路に変化が集まっていましたが、6%のグループではそれに加えて、アルギニン・プロリンの代謝、パントテン酸と補酵素Aの合成、細胞内の信号伝達に関わるcAMP/cGMPの経路などにも変化が広がっていました。著者らはこれを、高い添加量でより全体的な代謝の変化が起きたことを示すものと解釈しています。

たんぱく質の変化は代謝物に比べて控えめで、量が異なるたんぱく質は各グループでそれぞれ11、7、19種類でした。6%のグループでは、コラーゲンの仲間のたんぱく質が減っていましたが、肉の硬さ(せん断力)は変わりませんでした。著者らは、肉の硬さはコラーゲンの量だけでなく、その結びつき方や熟成期間にも左右されるため、今回の条件では差が現れなかった可能性を挙げています。

相関分析では、6%のグループで加熱損失と、脂肪酸の分解(β酸化)の途中で生じる物質や、細胞内の酸化・還元のバランスに関わる物質などとの間に関連が見られました。

研究から分かること

この研究は、キバナオウギ粉末の添加量を段階的に変えたとき、羊の筋肉で分子レベルの変化が最もはっきり現れたのは6%の添加量だったことを、たんぱく質と代謝物の両面から示しました。肉質の変化が確認されたのは加熱損失の一項目に限られていました。

著者らは、今回の結果は相関に基づくもので因果関係を示すものではなく、調べた筋肉は一種類、時点も一回だけであり、示された仕組みについての解釈は仮説の段階にとどまると強調しています。そのうえで本研究は、キバナオウギ粉末が羊肉の質に及ぼす影響を理解するための分子レベルの手がかりを提供するものだとしています。

原著論文の著者・所属:Xia Lang(Institute of Animal & Pasture Science and Green Agriculture, Gansu Academy of Agricultural Science, Lanzhou 730070, China)、Yidan Xu(College of Life Science and Agri-Forestry, Southwest University of Science and Technology, Mianyang 621010, China)、Bin Dao(College of Life Science and Agri-Forestry, Southwest University of Science and Technology, Mianyang 621010, China)、Wangsheng Zhao(College of Life Science and Agri-Forestry, Southwest University of Science and Technology, Mianyang 621010, China)、Jingjing Li(College of Life Science and Agri-Forestry, Southwest University of Science and Technology, Mianyang 621010, China)、Cailian Wang(Institute of Animal & Pasture Science and Green Agriculture, Gansu Academy of Agricultural Science, Lanzhou 730070, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Xia Lang, Yidan Xu, Bin Dao, et al. Proteomics- and Metabolomics-Based Investigation of the Effects of Astragalus membranaceus Powder on Meat Quality and Molecular Profiles of Longissimus dorsi Muscle in Ao-Hu Crossbred Rams. Animals 2026-08-10. DOI: 10.3390/ani16162479. 原著ライセンス:CC BY.