掲載誌:CyberLeninK (CyberLeninka)

ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: DataCite

研究の目的

養殖の規模が大きくなると、餌の食べ残しや魚の排せつ物に含まれる過剰な金属などが水域を汚染するおそれがあります。研究チームは、新しく開発される飼料添加物も環境面から評価する必要があると考えました。その対象として取り上げたのが、ごく小さな金属粒子を使った「ナノ複合体」です。

ナノ複合体は粒子が非常に小さく、表面積が大きいため、従来の金属塩より反応しやすく、体に取り込まれやすいとされています。そのため少ない量で済み、環境への流出を抑えられる可能性があります。一方で、毒性への懸念もあります。銅は魚の成長や発育に関わる必須の微量元素ですが、銅の微粒子には抗菌作用があるため、腸内の微生物に影響するおそれがあります。魚の腸内細菌への影響は、まだ十分に調べられていませんでした。

そこで著者らは、炭素を土台にした銅のナノ複合体(Cu—C)を飼料1kgあたり0.2mgまたは0.4mg与えた場合に、コイの体と腸内細菌の集まり(マイクロバイオーム)からなる系がどう変化するかを評価しました。

どのように調べたか

実験には体重40〜45gの1歳魚のコイ30匹を用いました。似た個体同士を組み合わせて10匹ずつ3群に分け、300Lの水槽で飼育しました。対照群にはナノ粒子を含まない飼料を与え、二つの試験群にはCu—Cをそれぞれ飼料1kgあたり0.2mgと0.4mg加えました。使用した粒子の大きさは40〜60ナノメートルです。粒子は生理食塩水に分散させてから、飼料に吹き付けました。

飼育期間は準備期間の7日間を含めて63日間で、水温は22±2℃に保ちました。餌は自動給餌器で1日5回、体重の5%を与えました。研究チームは、DNA解析で腸内細菌の種類と構成を調べ、ICP-MSという高感度な分析法で筋肉に含まれる元素の量を測りました。体重は毎週1匹ずつ測定しました。

主な結果

対照群の腸内では、フソバクテリア門(Fusobacteriota)が約50%、シュードモナス門(Pseudomonadota)が約41%を占めていました。ナノ複合体を与えた二つの群では、細菌の多様性(アルファ多様性)が高まりました。多様性の指標であるシャノン指数は、対照群の1.27に対して0.2mg群で1.94、0.4mg群で1.78でした。一方、細菌群集の全体的な構造(ベータ多様性)には、統計的に有意な差は見られませんでした。著者らはこの結果から、群集の基本的な骨組みは保たれていたと述べています。

ただし、魚の腸の重要な共生菌とされるフソバクテリア門の割合は減りました。0.2mg群では約23%まで低下し、0.4mg群では対照群より37%少なくなりました。0.4mg群ではシュードモナス門が34%増え、シュワネラ科の細菌は120%増えました。著者らは、フソバクテリア門がビタミンB12の合成や病原菌の抑制に関わることから、その減少がこれらの働きに影響しうると指摘しています。

筋肉の元素では、カルシウムが0.2mg群で46.7%、0.4mg群で63.7%減りました。0.2mg群では、論文の要旨で毒性上重要な変化はなかったと報告されています。この群では、毒性の高い金属であるカドミウムが98.9%、スズが41.2%減少しました。なお著者らは、スズはカドミウム・水銀・鉛・ヒ素と比べると毒性が低い元素だと説明しています。本文の測定値では、0.2mg群で鉛・アルミニウム・ベリリウムの増加も報告されています。0.4mg群では、必須微量元素のセレンが11.5%、マンガンが50%減り、ヒ素が72.4%、鉛が43.8%増えました。元素量が変化した仕組みはまだ分かっていません。著者らは、腸内細菌の変化が影響した可能性を推測として挙げています。

成長については、実験の終わりの時点で、体重が対照群より0.2mg群で15.3%、0.4mg群で10.8%上回りました。

研究が示すこと

この研究は、銅のナノ複合体を飼料に加えると、コイの成長が良くなる一方で、腸内細菌の構成や体内の元素バランスも変わることを示しました。変化の大きさは量によって異なっていました。著者らは、0.4mgでは腸内細菌と魚の体の系を不安定にする影響が見られたと評価しています。そのうえで、0.2mgのほうが養殖での環境安全性の点からより許容しやすいと結論づけました。飼料添加物を評価する際には、成長だけでなく、腸内細菌や体内の元素といった目に見えにくい変化も併せて調べることが大切だと分かります。

原著論文の著者・所属:Буланин Д. И.、Мирошникова Е. П.、Мингазова М. С.、Килякова Ю. В.、Аринжанов А. Е.

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Буланин Д. И., Мирошникова Е. П., Мингазова М. С., et al. Экологическая оценка воздействия нанокомпозита Cu—C на элементный статус и микробиом кишечника карпа (Cyprinus carpio). CyberLeninK (CyberLeninka) 2026-10-02. DOI: 10.24412/1816-1863-2026-2-6-14. 原著ライセンス:CC BY.