著者の所属・活動拠点の国は、トルコです。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
加熱でおいしくなる反応の裏側で生じるもの
食品を加熱すると、糖とアミノ酸などが反応して香りや焼き色が生まれます。この「メイラード反応」は風味を高めますが、同時に終末糖化産物(AGEs)と呼ばれる化合物群も生じさせます。AGEsは、糖の反応性の高い部分がたんぱく質や脂質、核酸のアミノ基と結びつくことでできる物質で、食品中だけでなく人の体内でも作られます。
著者らによると、体内でAGEsが増えると酸化ストレスや炎症、たんぱく質の機能低下と関係し、糖尿病や心血管疾患、腎臓病などとの関連が指摘されています。ただし、体内のAGEsのうち食事由来と体内生成のどちらがどれだけ寄与するかは、まだ議論が続いていると論文は述べています。現時点の知見では、高血糖や酸化ストレスによる体内生成が主な供給源となる場合が多いとされ、食事からの摂取を減らす取り組みは、体内生成を抑えることの代わりではなく補完的な方策と位置づけられています。
この総説は、果物や野菜、茶などに含まれる植物由来の化合物「ポリフェノール」に注目し、AGEsの生成を抑える働きについて、食品モデルでの実験、食品加工への応用、作用の仕組み、体内での吸収・代謝の制約、人での臨床研究までを一つの枠組みで整理することを目的としています。
どのように文献を調べたか
研究チームは、主にPubMedとScopusという論文データベースを用い、2026年1月までに公開された文献を対象に検索しました。終末糖化産物、ポリフェノール、食事由来AGEs、食品加工、糖化阻害物質、植物抽出物などの語を組み合わせ、重要論文の参考文献からも関連研究を拾い上げています。原著論文、実験研究、臨床研究、質の高い総説を優先し、テーマと直接関係しないものや方法の情報が不十分な研究は除外しました。
総説では、まずAGEsが生じる化学的な道筋と食品中の含有量の傾向を確認し、そのうえでポリフェノールの作用の仕組み、食品への添加実験、試験管内(in vitro)と動物などの生体内(in vivo)の研究、吸収と代謝の問題、人を対象にした試験、そして疾患との関係を順に検討しています。
報告された主な内容
食品中のAGEsについて、著者らは、焼く・揚げる・ローストするといった水分の少ない高温の加熱で多く生じ、ゆでる・蒸す・煮込むといった水を使う加熱では少ない傾向があると整理しています。代表的な指標物質であるカルボキシメチルリシン(CML)は、焼いたり炒めたりした肉で、ゆでたり煮込んだりした肉より高い値が一貫して見られると報告しています。一方で、加熱時間や食品の組成などによって結果はばらつき、新しい調理技術の効果についても証拠はまだ限られていると述べています。
ポリフェノールの働きとしては、AGEsの前段階となる反応性の高い物質(メチルグリオキサールなど)を捕らえる、活性酸素を消す、酸化を促す金属を抱え込む、たんぱく質の糖化や架橋を妨げる、AGEsが細胞の受容体に結合した後の炎症の信号を弱める、といった複数の仕組みが挙げられています。種類別では、フラボノイドが複数の仕組みを併せ持つため最も強い抑制活性を示す傾向があり、構造の違いが効果を左右すると論文は整理しています。
食品への応用では、ポリフェノールを多く含む植物抽出物や単一の化合物を肉製品やパン・焼き菓子に加えると、AGEsの量が減ったとする研究が多数紹介されています。ただし効果は使う抽出物の種類や量によって異なり、量が増えるほど一直線に効くわけではないと報告されています。また、抽出方法や添加量の表し方が研究ごとに違うため比較が難しく、実験で使われた濃度が日常の食事で得られる量に対応するとは限らないこと、ある食品で見られた効果を別の食品にそのまま当てはめられないことも指摘されています。
体内での効果については大きな制約があると著者らは強調しています。ポリフェノールの多くは腸や肝臓ですぐに別の形に変えられ、腸内細菌によっても分解されます。試験管内の実験では数十マイクロモル以上の濃度が使われることが多い一方、食事後に血中を巡る元の形の濃度はおおむねナノモルの水準にとどまるため、実験結果が体内でそのまま再現されるかには疑問が残ります。さらに、血中に多く存在する代謝物自体に同様の抑制作用があるかは十分に調べられていないとしています。
人を対象にした研究は少数・小規模で、結果も一様ではありません。健康な高齢者が柑橘とザクロのポリフェノールを4週間摂取した試験では血漿中のメチルグリオキサールが9.8%減ったと報告され、ケルセチンを4週間摂取した別の試験では同物質が開始時から11%低下した一方、ほかの前駆物質やAGEs自体は変わらず、エピカテキンではどの指標にも変化が見られませんでした。ポリフェノールとL-シトルリンを6週間組み合わせた試験では皮膚のAGEsに有意な変化はなかったとされています。糖尿病や心血管疾患、腎臓病とAGEsの関係についても、人のデータは主に観察研究による関連の段階で、因果関係を確かめるには対照を置いた介入研究が不足していると論文はまとめています。
この総説が示すこと
この総説からは、ポリフェノールが食品の加熱加工中にAGEsの生成を抑える素材として実験的な裏付けを積み重ねている一方、体内でAGEsの蓄積を減らす効果については、吸収や代謝の壁のため人での証拠がまだ限られている、という現状が浮かび上がります。試験管内で一貫して見られる効果と臨床での効果との間には隔たりがあり、それをどう埋めるかが残された課題であることを、著者らは食品から健康までの知見を通して整理しています。
原著論文の著者・所属:Seray Akalin-Saygili(Department of Nutrition and Dietetics, Faculty of Health Sciences, Hacettepe University, Ankara 06100, Turkey)、Aylin Ayaz(Department of Nutrition and Dietetics, Faculty of Health Sciences, Hacettepe University, Ankara 06100, Turkey)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Seray Akalin-Saygili, Aylin Ayaz. Plant-Based Approaches for Inhibition of Advanced Glycation End Products Formation: Dietary Polyphenols. Molecules 2026-08-21. DOI: 10.3390/molecules31162928. 原著ライセンス:CC BY.