この研究は、エチオピア、ケニア、イギリス、ドイツの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Scientific Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
鶏の肉や卵にオメガ3系脂肪酸を多く含ませたいという消費者の関心が高まっており、その手段として飼料への亜麻仁(フラックスシード)の添加が広く用いられています。亜麻仁はα-リノレン酸を豊富に含む油糧種子で、鶏はこれを体内でEPAやDHAといった長鎖脂肪酸へ変換できると報告されています。
ただし研究チームは、亜麻仁を多く与えると肉や卵の品質にも影響が及ぶ点を課題として挙げています。不飽和脂肪が増えることで酸化(脂質の劣化)を受けやすくなり、肉のドリップロス(保存中に流れ出る肉汁の量)が増えるなど、物理的な性質や消費者の受け入れが損なわれる懸念があるためです。そこで著者らは、抗酸化作用をもつ植物由来のポリフェノール抽出物を亜麻仁入り飼料に加えることで、肉と卵の機能的な品質や消費者の評価を改善できるかどうかを検証しました。
何をどのように調べたか
対象は35週齢のサッソーT451A種(肉と卵の両方に用いられる兼用種)の雌鶏126羽です。研究チームはこれらを6つの飼料区に分け、8週間にわたって飼育しました。飼料区は、亜麻仁も抗酸化物質も加えない対照区(NC)、飼料1kgあたり亜麻仁75gのみを加えた区(FS)、そして亜麻仁75gに加えて1kgあたり800mgのα-トコフェロール(ビタミンE、VE8)または3種の植物ポリフェノール抽出物のいずれかを添加した区です。用いられた植物は、エチオピアで古くから栽培・利用されてきたウコン(Curcuma domestica、CD8)、エチオピア固有種で茶や香辛料、保存料として使われるThymus schimperi(TS8)、熱帯・亜熱帯に広く分布するDodonaea angustifolia(DA8)の3種でした。
調べた項目は、体重や枝肉の重さといった生産面の指標に加え、胸肉についてはドリップロス、加熱による重量減少(クッキングロス)、pH、色調です。卵については重量や卵白・卵黄の重さ、卵白の高さ、卵黄の色、pH、そして卵の新鮮さを示すハウユニット(卵重と卵白の高さから計算される指標)が測定されました。さらに、アディスアベバ大学の官能評価室で60名の一般の参加者が、加熱した胸肉とゆで卵について香り、味、風味、異臭、やわらかさ、総合的な好ましさを採点しました。参加者には事前に説明が行われ、同意を得たうえで試験が実施されています。
主な報告結果
生産面では、体重、枝肉の歩留まり、胸肉の重さのいずれにも飼料区による有意な差は認められませんでした。卵についても、産卵率、卵重、卵白重、卵黄重などに有意差は見られていません。
一方、肉の機能的な品質には違いが表れました。亜麻仁のみを与えたFS区では胸肉のドリップロスが高まりましたが、ウコン抽出物を加えたCD8区では有意に低く抑えられ、1.39%に対し0.74%という値が報告されています。胸肉のpHもFS区で上昇した一方、ポリフェノール抽出物を加えた区では低下しました。著者らは、いずれの値も鶏肉の通常の範囲内にあるとしたうえで、低めのpHは機能的な品質として望ましい特性とみなされると述べています。クッキングロスと肉の色調については、飼料区による有意な差はありませんでした。
卵では、卵白の高さとハウユニットに改善が見られました。ハウユニットはFS区の75.4に対しCD8区で77.5、TS8区で81.2へと有意に上昇し、卵の新鮮さの指標が高まったと報告されています。そして消費者評価では、亜麻仁区・ポリフェノール添加区のいずれの卵も良好に受け入れられ、異臭は検出されませんでした。
この研究が示すこと
著者らは、亜麻仁入り飼料に800mg/kgの植物ポリフェノール抽出物を加えることで、消費者が感じる官能的な特性を損なうことなく肉と卵の機能的な品質が高まり、亜麻仁給与に伴う不利な影響が緩和されたと結論づけています。
同時に研究チームは、抽出物ではなく植物そのものを丸ごと与えた場合にどうなるかは、今後検討すべき点として残されていると述べています。オメガ3強化をめざす飼料設計において、身近な植物の抗酸化成分が品質面の課題への一つの手がかりになりうることを示した報告といえます。
著者:Desalew Tadesse(Center for Food Science and Nutrition, Addis Ababa University, Addis Ababa, Ethiopia)、Negussie Retta(LiveGene, International Livestock Research Institute (ILRI), Addis Ababa, Ethiopia)、Kelbessa Urga(LiveGene, International Livestock Research Institute (ILRI), Addis Ababa, Ethiopia)、Nicholas Ndiwa(Research Methods Group, International Livestock Research Institute (ILRI), Nairobi, Kenya)、Olivier Hanotte(Center for Tropical Livestock Genetics and Health (CTLGH), The Roslin Institute, Edinburgh, UK)、Paulos Getachew(LiveGene, International Livestock Research Institute (ILRI), Addis Ababa, Ethiopia)、Dirk Dannenberger(Research Institute for Farm Animal Biology (FBN), Dummerstorf, Germany)、Steffen Maak(Research Institute for Farm Animal Biology (FBN), Dummerstorf, Germany)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Desalew Tadesse, Negussie Retta, Kelbessa Urga, et al. Physical, functional quality and consumer acceptance of meat and eggs from Sasso chicken fed plant polyphenols and flaxseed enriched diets. Scientific Reports 2026-08-27. DOI: 10.1038/s41598-026-67740-2. 原著ライセンス:CC BY.