著者の所属・活動拠点の国は、ボスニア・ヘルツェゴビナ、セルビアです。
掲載誌:Notulae Botanicae Horti Agrobotanici Cluj-Napoca
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ジャガイモの品質は品種だけで決まるわけではなく、どこでどのような年に育てたかによっても変わります。さらに、ある品種は特定の環境でよく育ち、別の品種は別の環境に強いというように、品種と環境の組み合わせによって結果が変わることがあります。これを「遺伝子型×環境の交互作用」と呼びます。この交互作用があるため、条件の異なる産地のどこでも安定して良い品質を示す品種を選ぶことは簡単ではありません。
研究チームは、ボスニア・ヘルツェゴビナの栽培条件が大きく異なる地域で市販品種を育て、塊茎(食用にするイモの部分)の品質が環境と品種の組み合わせによってどう変わるか、また気候とどのような関連がみられるかを調べました。紹介する内容は論文の抄録に基づいています。
何を調べたか
対象としたのは、アグリア、ファルカ、ケネベック、クロダ、デジレの5品種です。2016年から2018年の3年間、立地条件の異なる国内3地点で栽培し、各地点では区画の配置による偏りを抑える乱塊法という設計を用いて4反復で試験しました。
品質の指標として、乾物(水分を除いた固形分)、灰分(ミネラル分の目安)、タンパク質、デンプン、アスコルビン酸(ビタミンC)の含量を分析しました。品種・地点・年の影響を比べる分散分析に加え、品種と環境の交互作用を整理するAMMI分析、品種ごとの安定性を数値化する指標(ASV)、多数の項目を少数の軸にまとめる主成分分析を用いました。また、3年×3地点の計9通りの環境について、気候と品質の関連を探索的に調べました。
主な結果
著者らによると、環境の影響と品種×環境の交互作用がどの程度品質の違いに寄与するかは、指標ごとに異なっていました。
気候と品質の関連については、多重比較の補正(ホルム補正)をかけた10組の相関のうち、統計的に有意なまま残ったのは、生育期間の平均気温とデンプン含量の負の関連だけでした(相関係数 r = −0.872、補正後のP値 0.022)。つまり、平均気温が高い環境ほどデンプン含量が低い傾向がみられたということです。ただし著者らは、これは関連を示すもので、因果関係を証明するものではないとしています。また、各環境には季節の天候だけでなく、標高、土壌の種類やpH、肥沃度、土性、栽培管理など地点特有の要因が重なっているため、気候の影響と土壌の影響を切り分けることはできなかったと述べています。
品種の安定性は指標によって異なりました。安定性指標による評価では、乾物とタンパク質ではファルカ、灰分とビタミンCではアグリア、デンプンではデジレが最も安定していると順位づけられ、ケネベックはすべての指標で安定した品種とはみなされませんでした。主成分分析では、最初の2つの軸で標準化した全体のばらつきの65.94%が説明されました。
この研究が示すこと
この研究は、どの品質指標に注目するかによって「安定した品種」が入れ替わることを示しており、一つの品種があらゆる面で安定するとは限らないことを伝えています。一方で著者らは、環境の数が9通りと少ないこと、植物の生理状態を直接測定していないことを限界として挙げ、より広い推奨を行う前には、さらに多くの年と地点で、気候条件の反復を増やし土壌の要因も明示的に扱った検証が必要だとしています。
原著論文の著者・所属:Branka Govedarica(University of East Sarajevo, Faculty of Agriculture, Vuka Karadžića 30, 71123 East Sarajevo)、Vesna Milić(University of East Sarajevo, Faculty of Agriculture, Vuka Karadžića 30, 71123 East Sarajevo)、Igor Đurđić(University of East Sarajevo, Faculty of Agriculture, Vuka Karadžića 30, 71123 East Sarajevo)、Milomirka Madić(University of Kragujevac, Faculty of Agronomy, Cara Dušana 34, 32000 Čačak)、Nevena Rističević(University of East Sarajevo, Faculty of Agriculture, Vuka Karadžića 30, 71123 East Sarajevo)、Saša Lalić(Ministry of Agriculture, Forestry and Water Management, Trg Republike Srpske 1, 78000 Banja Luka)、Bojana Vuković(Agricultural Institute of Republic of Srpska, Knjaza Miloša 17, 78000 Banja Luka, Republic of Srpska)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Branka Govedarica, Vesna Milić, Igor Đurđić, et al. Impact of Climate Variability on the Tuber Quality of Potato Cultivars Grown under Contrasting Agroecological Conditions in Bosnia and Herzegovina. Notulae Botanicae Horti Agrobotanici Cluj-Napoca 2026-09-22. DOI: 10.15835/nbha54315441. 原著ライセンス:CC BY.