著者の所属・活動拠点の国は、韓国です。
掲載誌:Journal of Microbiology and Biotechnology
ライセンス: CC BY 確認元: OpenAlex
研究の目的
肉や代替肉では、脂肪が食感やジューシーさ、口当たり、風味の広がりに大きく関わっています。動物性脂肪を液体の植物油に置き換えようとしても、液体の油は形を保てず、加工中に流れたり移動したりしやすいため、脂肪のような決まった塊として配置することが難しいという課題があります。
そこで注目されているのが、植物油を半固体の状態にまとめる技術です。本研究で扱った「バイゲル」は、水を主体とするゲル(ハイドロゲル)と、油をワックスなどで固めたゲル(オレオゲル)を一つの素材の中に組み合わせたものです。研究チームは、このバイゲルを、ノズルから押し出して層を積み重ねる方式の食品用3Dプリンターで成形することを想定しました。
ただし、調理される食品に使う場合、印刷直後にきれいな形ができても、加熱中に形が崩れたり液体が流れ出たりするおそれがあります。著者らは、室温での印刷のしやすさと、加熱後も形を保てるかどうかを段階的に調整できるかを調べることを目的としました。
何を調べたか
今回のバイゲルでは、水相をもちとうもろこしのでんぷん、κ-カラギーナン、ジェランガムで作り、油相をひまわり油とキャンデリラワックスで作りました。研究は二段階で進められました。
第一段階では、水相と油相の重量比を10:0、7:3、5:5、3:7、0:10と変えたバイゲルを作り、遠心力をかけたときに液体を保持できる割合、変形への強さや流れやすさ、大きく変形させた後に構造がどれだけ回復するかを測定しました。さらに、15×15×10ミリの直方体を印刷し、設計通りの寸法になるかを比べました。
第二段階では、選んだ基本配合の水相に、加熱すると固まる性質をもつジャガイモたんぱく質の精製品を、水相の重量に対して0、3、5、7、10%の濃度で加えました。加熱と冷却を通じた硬さの変化を調べたうえで、印刷した試料を120℃のオーブンで10分間加熱し、寸法の変化と、加熱によって失われた重量の割合(クッキングロス)を評価しました。
主な結果
水相と油相の比率を変えたバイゲルは、いずれも容器を逆さにしても自立し、液体を保持できる割合はすべて90%を超えました。水相と油相を両方含む配合の中では、水相7対油相3の配合が99.43%と最も高く、油相の割合が増えるほど低下しました。油相が多いほど流れやすくなる一方で、弾性の強さや変形後の回復性は下がり、印刷物は横に広がりやすくなりました。水相だけの配合は表面が粗く、設計より小さくなりました。
水相7対油相3の配合は、構造の回復率が88.7%で、水相5対油相5の76.6%より有意に高く、印刷物の幅と長さも設計値に近いものでした。著者らは、この寸法の再現性の高さは、変形し始める力の大きさそのものよりも、押し出された後に構造が回復する力とより明確に関係していたと述べています。この結果から、7対3の配合が基本配合として選ばれました。
次に、この基本配合にジャガイモたんぱく質を加えて加熱試験を行うと、どの配合も55〜63℃付近で大きく柔らかくなりました。たんぱく質を加えない配合は80℃で硬さの指標が約10²パスカルまで低下したのに対し、たんぱく質を加えた配合は10³パスカル程度を保ち、7%と10%の配合では温度上昇とともに再び硬さが増す様子が見られました。著者らは、これをジャガイモたんぱく質が熱で変性し、互いに集まって網目構造を作ったことによる可能性があると解釈しています。
印刷直後の寸法の正確さは、たんぱく質を加えることで長さ・幅・高さのいずれも向上しましたが、濃度に単純に比例するわけではありませんでした。120℃で10分加熱すると、たんぱく質を含まない試料は形が崩れてしまいましたが、たんぱく質を含む試料はすべて立体の形を保ちました。加熱後の長さと幅は、3%の配合では元の約123〜127%に広がったのに対し、10%の配合では約95%と元の寸法に最も近くなりました。高さの保持率も、3%と5%の約60〜64%から、7%と10%では約75〜78%へと高まりました。
クッキングロスは、たんぱく質3%の配合の22.75%から10%の配合の12.89%へと減少し、7%と10%の配合は3%と5%の配合より有意に低い値でした。なお、たんぱく質を含まない試料は加熱中に崩れて広がったため、クッキングロスを信頼できる形で測定できませんでした。
研究が示すこと
この研究は、3Dプリンターでうまく印刷できることだけでは、調理後まで形を保てるとは限らないことを示しています。著者らによれば、水相と油相の比率が押し出しやすさと印刷直後の形の保持のバランスを決め、ジャガイモたんぱく質の濃度が印刷性能と加熱後の安定性を左右していました。著者らは、これらの結果が、加熱調理される植物性食品での脂肪代替を視野に入れた、加熱に強い3D印刷用の油脂素材を開発するための基礎になるとまとめています。
原著論文の著者・所属:Seri Park(Department of Food Science and Biotechnology, Ewha Womans University, Seoul 03760, Republic of Korea)、Jiho Sohn(Department of Food Science and Biotechnology, Ewha Womans University, Seoul 03760, Republic of Korea)、Yourim Oh(Department of Food Science and Biotechnology, Ewha Womans University, Seoul 03760, Republic of Korea; SuFAB Inc., 123 Digital-ro 26-gil, Guro District, Seoul 04790, Republic of Korea)、Jin-Kyu Rhee(Department of Food Science and Biotechnology, Ewha Womans University, Seoul 03760, Republic of Korea; SuFAB Inc., 123 Digital-ro 26-gil, Guro District, Seoul 04790, Republic of Korea)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Seri Park, Jiho Sohn, Yourim Oh, et al. Effects of Hydrogel-to-Oleogel Ratio and Potato Protein Isolate Concentration on the 3D Printing and Post-Heating Properties of Food-Grade Bigels. Journal of Microbiology and Biotechnology 2026-09-04. DOI: 10.4014/jmb.2607.07038. 原著ライセンス:CC BY.