著者の所属・活動拠点の国は、ボスニア・ヘルツェゴビナ、スイス、セルビアです。

掲載誌:Works of the Faculty of Agriculture and Food Sciences University of Sarajevo

ライセンス: CC BY-SA 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

牛乳を飲むとお腹がゴロゴロする、という経験がある方は少なくないでしょう。これは「乳糖不耐症」と呼ばれる現象に関係していると言われています。乳糖(ラクトース)は哺乳類の乳だけに含まれる炭水化物で、母乳や牛乳の重要な成分の一つです。人がこれを摂取すると、小腸にある「 β-ガラクトシダーゼ(ラクターゼ)」という酵素が水の働きを借りて乳糖をブドウ糖とガラクトースに分解します。しかし、この酵素の働きは成長とともに低下したり消失したりすることがあり、大人になってから乳糖をとると消化不良を起こす場合があるとされています。今回紹介するのは、こうした乳糖の消化の仕組みを整理したうえで、ボスニア・ヘルツェゴビナの住民を対象に乳糖不耐症の実態を調べた研究です。

研究でわかったこと

この論文では、まず文献データをもとに、世界には年齢を重ねても乳糖を問題なく消化できる人々と、そうでない人々がいる理由が解説されています。ラクターゼの働きが大人になっても持続する「ラクターゼ活性持続(lactase persistence)」という現象は遺伝的に決定されていることが、これまでの多くの研究で示されてきたとされ、特にヨーロッパの人々にこの特性が見られ、年齢に関わらず大量の乳糖を消化できるとされています。あわせて、牛乳や乳製品の代わりになり得る食品についても触れられています。

そのうえでこの論文の主眼は、ボスニア・ヘルツェゴビナの住民を対象にアンケート調査を行い、乳糖不耐症がどの程度みられるか、また乳製品の中でどれが最も消化トラブルを引き起こしやすいかを明らかにすることでした。調査の結果、回答者100人のうち58人は乳糖をよく耐容する(問題なく消化できる)と答えた一方、乳糖を耐容できないと答えたのは20人にとどまり、全体として乳糖不耐症とみられる人の割合は比較的低いと報告されています。乳糖不耐と答えた人々に詳しく尋ねたところ、牛乳と乳製品の中では、乳糖含有量が最も多い牛乳そのものが消化不良などの不調を最も引き起こしやすいと答えたとされています。一方で、ケフィアやアイラン、ヨーグルトといった発酵乳製品では、そうした不調を訴える人が有意に少なかったと報告されています。

この研究の位置づけ・読むうえでの注意

この論文はボスニア・ヘルツェゴビナという特定の地域の住民を対象とした調査であり、要旨には対象者の詳しい選定方法や調査の規模についての詳細は記載されていません。また、乳糖不耐症の有無はアンケートによる自己申告に基づくものと考えられ、医学的な検査結果そのものではない可能性がある点にも留意が必要です。ラクターゼ活性持続についての遺伝的背景の説明は、あくまで先行研究のレビューに基づくものとされています。一つの研究であり、この結果がすべての地域や集団に当てはまるかどうかは、この要旨だけからは判断できません。

まとめ

今回紹介した研究では、ボスニア・ヘルツェゴビナの住民を対象とした調査を通じて、乳糖不耐症とみられる人の割合が全体としては少なく、乳製品の中では牛乳が最も消化トラブルを起こしやすく、ケフィアやアイラン、ヨーグルトなどの発酵乳製品は比較的問題が少ないことが示唆されました。乳糖の消化に関する体質は個人差が大きいテーマであり、今後もさまざまな地域でのさらなる研究が期待されるところです。

※本記事は下記の原著論文を紹介するものです。出典(原著論文):ボスニア・ヘルツェゴビナ住民における乳糖不耐症の発生率(サラエボ大学農食科学部研究紀要・2026年07月)

原著論文の著者・所属:Naida Mahmić(University of Sarajevo, Faculty of Agriculture and Food Sciences)、Enida Šabanović-Rovčanin(University of Sarajevo, CIS)、Sanja Oručević Žuljević(University of Sarajevo, Faculty of Agriculture and Food Sciences)、Irzada Taljić(University of Sarajevo, Faculty of Agriculture and Food Sciences)、Edita Sarić(Federal Institute for Agriculture)、Miroljub Barać(University of Belgrade, Faculty of Agriculture)、Nevena BARAĆ(University of Belgrade, Faculty of Agriculture)、Zlatan Sarić(University of Sarajevo, Faculty of Agriculture and Food Sciences)