著者の所属・活動拠点の国は、イラクです。

掲載誌:World Journal of Experimental Biosciences

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

カンピロバクター・ジェジュニ(Campylobacter jejuni)は、世界で最も多い細菌性胃腸炎の原因の一つです。動物から人へうつる人獣共通感染症の病原体で、鶏などの家禽が主な保菌源とされています。鶏の腸には目立った症状を起こさずに定着するため、食肉の生産過程で人への感染源になりやすいと考えられています。

この菌が腸に定着して病原性を発揮するには、いくつかの遺伝子が関わります。flaA遺伝子は、菌が泳ぐための鞭毛をつくる主要なタンパク質の設計図で、腸の粘液層を通り抜ける運動に欠かせません。cadF遺伝子は、菌が腸の細胞に付着するための外膜タンパク質の設計図です。

腸へ向かう菌は、消化液である胆汁に含まれる胆汁酸塩にさらされます。胆汁酸塩は菌にとってストレスになる一方で、腸に到達したことを知らせる環境の合図にもなりうると考えられています。著者らによると、鶏由来の菌で胆汁に反応して病原性遺伝子の働きが変わることと、菌が外に出す有機酸の変化との関係は、特にイラクではほとんど調べられていませんでした。

そこで研究チームは、イラクのディワニヤ市で採取した鶏関連試料からこの菌を探し、胆汁酸塩のストレスがcadFとflaAの働きにどう影響するか、そしてその変化が有機酸の変化と結びついているかを調べました。

調べた方法

研究チームは、生の鶏枝肉の拭き取り50件、冷凍鶏枝肉の拭き取り40件、肝臓・砂肝40件、外見上健康なブロイラーの総排泄腔の拭き取り30件、合計160件の試料を集めました。低酸素条件での選択培養、生化学的な検査、遺伝子検査を組み合わせ、カンピロバクターを分離して菌種を確認しました。

菌種の判定では、一つの試料からジェジュニとコリ(C. coli)の両方が見つかる場合に備え、別々の集落(コロニー)を複数取り出して純粋に培養し、それぞれを遺伝子検査で調べました。両方の菌種が混在した試料は、その後の実験から除外されました。

cadFとflaAの両方を持つことが確かめられた22株について、42℃で0.15%の胆汁酸塩に6時間さらす実験を行い、同じ株を胆汁酸塩なしで培養した場合と比べました。遺伝子がどれだけ働いているかは、遺伝子の読み取り量を測る方法(RT-qPCR)で調べました。また、菌が培養液中に出した乳酸、酢酸、コハク酸、ギ酸といった有機酸の量を、液体クロマトグラフィー(HPLC)という分析法で測定しました。

主な結果

160件のうち38件(23.8%)からカンピロバクターが見つかりました。陽性率は生の鶏枝肉が36.0%と最も高く、肝臓・砂肝27.5%、総排泄腔20.0%と続き、冷凍の鶏枝肉は7.5%と最も低い結果でした。陽性だった38件のうち、ジェジュニのみが26件(68.4%)、コリのみが8件、両方の混在が4件でした。ジェジュニ26株のうち22株(84.6%)がcadFとflaAの両方を持っていました。

胆汁酸塩にさらすと、22株の平均でcadFの働きは胆汁酸塩なしの約2.36倍、flaAは約2.91倍に高まり、いずれも統計的に意味のある増加でした。増加の幅は、運動に関わるflaAのほうが大きくなりました。

有機酸にもはっきりした変化が見られました。胆汁酸塩にさらした培養液では、酢酸が1リットルあたり平均34.5mgから64.8mgへ、コハク酸が8.9mgから19.6mgへ、ギ酸が12.7mgから24.3mgへと増えました。一方、乳酸は55.2mgから31.7mgへ減りました。

株ごとの値を比べると、cadFの働きが強い株ほど酢酸が多い傾向があり、flaAの働きが強い株ほどギ酸が多く、乳酸が少ない傾向が見られました。これらは統計的な関連であり、一方が他方を引き起こしたことを示すものではありません。

研究が示すこと

著者らは、胆汁酸塩が鶏由来のジェジュニにとって単に増殖を妨げる腸の障壁としてだけ働くのではなく、付着と運動に関わる遺伝子の働きを高め、代謝の変化も同時に引き起こす合図として働く可能性があると結論づけています。こうした協調した適応が、腸への定着や人への感染に役立っているかもしれないという見方です。

ただし著者らも述べているように、この結果は試験管内の実験で、22株、一つの胆汁酸塩濃度と一つのさらし時間、一つの都市の試料に基づくものです。研究チームは、鶏の処理段階での衛生管理、生の鶏肉からの二次汚染の防止、低温管理、十分な加熱調理を支持する結果だと位置づけています。

原著論文の著者・所属:Hussein Kareem(Pathology and Poultry Diseases Department, College of Veterinary Medicine, University of Al-Qadisiyah, Al-Diwaniyah City, Iraq)、Amaar Nabeel Al-Jubouri(Department of Pathological Analysis, College of Science, University of Al-Qadisiyah, Al-Diwaniyah City, Iraq)、Mustafa Sabbar Mhr(Public Health Department, College of Veterinary Medicine, University of Al-Qadisiyah, Al-Diwaniyah City, Iraq)、Mohammed Mahdi Yaseen(Public Health Department, College of Veterinary Medicine, University of Al-Qadisiyah, Al-Diwaniyah City, Iraq)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Hussein Kareem, Amaar Nabeel Al-Jubouri, Mustafa Sabbar Mhr, et al. Bile-Salt Stress Activation of cadF and flaA Virulence Gene Expression in Zoonotic Campylobacter jejuni from Poultry with HPLC-Based Organic Acid Profiling in Al-Diwaniyah City, Iraq. World Journal of Experimental Biosciences 2026-10-12. DOI: 10.65329/wjeb.v14.02.04. 原著ライセンス:CC BY.