著者の所属・活動拠点の国は、タイ、ベトナムです。
掲載誌:Antibiotics
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
カンピロバクターは、世界で細菌性胃腸炎(食中毒)の主な原因の一つとされる細菌です。人への感染源として最も重要なのは鶏で、汚染された鶏肉を食べたり扱ったりすることで主にうつるとされています。近年はこの菌の中で抗菌薬が効きにくい「薬剤耐性菌」が増えています。特に、フルオロキノロン系という抗菌薬が効かない株は、監視と対策を急ぐべき病原体と位置づけられています。
タイでは大規模な商業養鶏とともに、農村部などで家庭規模の小さな養鶏も広く営まれています。こうした農場では獣医師の関与や抗菌薬の適正使用の管理が十分でない場合があります。研究チームによると、タイ南部の小規模農場について、菌の耐性の性質、耐性や病原性に関わる遺伝子、抗菌薬の使い方、衛生対策などの農場要因をまとめて調べた研究は限られていました。そこで研究チームは、小規模養鶏場の鶏が持つカンピロバクターについて、薬剤耐性の実態と、耐性や菌の検出に関わる要因を明らかにすることを目指しました。
どのように調べたか
調査は2025年3月から6月に、タイ南部ナコーンシータンマラート県で行われました。対象は、在来種の鶏を主に肉用として500羽未満で飼い、手作業で給餌や給水をする小規模農場です。研究チームは12農場を、一つの飼育サイクルの中で3回訪問しました。毎回10羽ずつの総排泄腔(腸の出口)をぬぐって試料を採り、合計358試料を集めました。
分離した菌は、6種類の抗菌薬に対して、どのくらいの濃度で増殖が止まるかを測りました。これにより耐性の有無を判定しました。さらに、PCRという遺伝子検出法を用いて、耐性に関わる遺伝子の変異や遺伝子の有無を調べました。鶏への定着や細胞の傷害に関わるとされる病原性関連遺伝子の有無も確認しました。また、薬が効かないという性質と遺伝子の検出結果がどの程度一致するかを統計的に評価しました。農場主への聞き取りで、飼育規模、敷料、ふんの管理、衛生対策、抗菌薬の使用などの情報も集め、菌の検出や耐性と関連する要因を分析しました。
主な結果
358試料のうち151試料(42.2%)からカンピロバクターが見つかりました。農場ごとの飼育羽数の違いを補正した推定保有率は53.56%でした。この値は、1回目48.43%、2回目53.14%、3回目59.11%と、飼育が進むにつれて高くなっていました。菌の種類は、カンピロバクター・ジェジュニ(142株)がほとんどで、カンピロバクター・コリは11株でした。
ジェジュニでは、キノロン系・フルオロキノロン系の薬への耐性が非常に多く見られました。代表的な薬であるシプロフロキサシンへの耐性率は、補正後で91.44%でした。テトラサイクリン系への耐性も64.22%と多く見られました。一方、マクロライド系のエリスロマイシンには、両方の菌種で耐性株がまったくありませんでした。研究チームは、マクロライド系が重いカンピロバクター感染症の治療で第一に選ばれる薬であることから、この感受性が保たれている点は臨床的に重要だと述べています。
遺伝子の分析では、gyrA遺伝子の特定の変異がジェジュニの約92%に見つかりました。この変異は、シプロフロキサシンへの耐性と高い一致を示しました。テトラサイクリン耐性に関わるtet(O)遺伝子は約80%に見られ、耐性の有無とは中程度の一致でした。一方、マクロライド耐性に関わるとされる23S rRNAの変異(A2075G)は、ジェジュニの全株で検出されました。それにもかかわらず、エリスロマイシン耐性は見られませんでした。研究チームはこの予想外の不一致について、慎重に解釈し、遺伝子配列の解読で確認する必要があるとしています。また、調べた病原性関連遺伝子は、ジェジュニではほぼすべての株で検出されました。
農場の要因については、菌が見つかることと関連していた要因が三つありました。飼育羽数が60羽を超えること、ふんの管理が不十分なこと、抗菌薬を使っていることです。一方、シプロフロキサシンとテトラサイクリンの両方に耐性を示すことと関連していたのは、農場の所在地、農場主の年齢、テトラサイクリンの使用でした。
研究が示すこと
研究チームは、菌の検出には主に農場の管理や衛生対策が関わり、耐性の傾向には抗菌薬の使用がより強く関わっていると見ています。そのため、ふんの管理などの衛生対策と、抗菌薬の適正使用を組み合わせることが重要だと述べています。
ただし、この研究は観察に基づくもので、対象も一地域の12農場に限られています。研究チームは、示された関連は記述的・探索的なもので、因果関係を示すものではないとしています。また、調査した農場や地域以外にそのまま当てはまるものでもないと強調しています。そのうえで、小規模養鶏場がカンピロバクター、特に薬剤耐性菌の重要な保有源となりうることを示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:Nguyen Thi My Nhan(Akkhraratchakumari Veterinary College, Walailak University, Nakhon Si Thammarat 80160, Thailand; Doctoral Program in Health Sciences, College of Graduate Studies, Walailak University, Nakhon Si Thammarat 80160, Thailand; Faculty of Animal Science and Veterinary Medicine, Nong Lam University, Ho Chi Minh City 71309, Vietnam)、Doan Hoang Phu(Department of Agriculture, Nong Lam University, Gia Lai Campus, Pleiku 61125, Vietnam; Faculty of Animal Science and Veterinary Medicine, Nong Lam University, Ho Chi Minh City 71309, Vietnam)、Phitchayapak Wintachai(School of Science, Walailak University, Nakhon Si Thammarat 80160, Thailand)、Thotsapol Thomrongsuwannakij(Akkhraratchakumari Veterinary College, Walailak University, Nakhon Si Thammarat 80160, Thailand; Centre for One Health, Walailak University, Nakhon Si Thammarat 80160, Thailand)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nguyen Thi My Nhan, Doan Hoang Phu, Phitchayapak Wintachai, et al. Molecular Characteristics and Factors Associated with Antimicrobial Resistance in Campylobacter Isolates from Small-Scale Chicken Farms in Southern Thailand. Antibiotics 2026-08-05. DOI: 10.3390/antibiotics15080756. 原著ライセンス:CC BY.