著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

食品包装には石油由来のプラスチックが広く使われていますが、自然界で分解されにくく、環境中への蓄積や食品安全上のリスクが指摘されています。そこで、生物由来の素材で包装材を作る研究が進められています。その代表的な素材が、カニやエビの殻に含まれるキチンから得られる多糖類「キトサン」です。キトサンは生分解性があり、毒性が低く、抗菌性やフィルムを作りやすい性質を持ちます。一方で、水に溶けにくく、抗菌力もそれほど強くないという課題がありました。

研究チームは、海藻のヒジキ(Sargassum fusiforme)から得たポリフェノールに注目しました。ヒジキの多くは食用として直接消費されており、ポリフェノール成分はあまり活用されていません。著者らは、このポリフェノールをキトサンに加えた食べられるフィルム(可食フィルム)を作りました。そして、フィルムの構造や物性、抗菌・抗酸化作用を調べ、冷蔵した魚の切り身の品質保持にどの程度役立つかを評価しました。対象の魚は、中国南東部沿岸や東南アジアで養殖されているゴールデンポンパノです。肉質が良く人気の魚ですが、保存や輸送の間に微生物汚染や脂質の酸化で品質が落ちやすいことが問題とされています。

何を調べたか

研究チームはまず、ヒジキから抽出・精製したポリフェノールの成分を質量分析で調べ、ラジカル(物質を酸化させる反応性の高い分子)を消去する能力を測りました。次に、このポリフェノールの添加割合を変えたキトサンフィルムを作り、厚さ、強度と伸び、水蒸気の通しにくさ、透明度、フィルム原液の粘り気と粒子の大きさを測定しました。電子顕微鏡でフィルムの微細な構造も観察しています。

抗菌性は、食中毒などに関わる6種類の細菌で調べました。さらに、ゴールデンポンパノの切り身をフィルムで覆って4℃で保存し、pH、細菌数、腐敗の指標となる揮発性塩基窒素(タンパク質が分解されて生じるアンモニアなどの量)、重量の減少、硬さや弾力、色の変化を追跡しました。

主な結果

ヒジキのポリフェノールは13種類の低分子化合物からなり、そのうち11種類が褐藻特有のポリフェノールであるフロロタンニン、2種類がフラボノイドでした。ラジカル消去能は濃度が高いほど強まり、50μg/mLでは一方の測定法においてビタミンCと同程度だったと報告されています。

フィルムでは、ポリフェノールを加えると引っ張り強度と伸びが低下しました。添加割合が1.0〜2.0%のとき、純粋なキトサンフィルムと比べて強度は約21〜27%、伸びは約18〜26%下がっています。一方で水蒸気の通しにくさは向上しました。純粋なキトサンフィルムの水蒸気透過性は0.32でしたが、添加割合1.5%では0.17、2.0%では0.16(単位はいずれもmm/kPa·h·m²)に下がりました。フィルムは不透明になり着色も強まりました。著者らは、この性質が光による食品の変色や酸化を防ぐのに役立つ可能性を指摘しています。顕微鏡では、添加量が増えるにつれて表面が粗くなり、細かな孔が現れる様子が観察されました。

抗菌試験では、黄色ブドウ球菌やリステリア菌などのグラム陽性菌のほうが、大腸菌やサルモネラ菌などのグラム陰性菌より強く増殖を抑えられました。ただし、添加割合が1.5%を超えると抗菌効果は頭打ちになりました。

切り身の保存試験では、ポリフェノールを含むフィルムが、キトサンだけのフィルムに比べて揮発性塩基窒素の増加を抑え、身の硬さと弾力の低下も防ぎました。色については、保存終了時点で明るさが対照群より有意に高く保たれました。黄色みの増加を遅らせる効果は、添加割合1.5%と2.0%で最も大きかったと報告されています。

研究の意味

著者らは、物性・バリア性・光学特性・生理活性の結果を総合して、ポリフェノールの最適な添加割合を1.0〜2.0%と結論づけました。ヒジキの成分を加えることで、強度はやや落ちる一方、水蒸気を通しにくく抗菌・抗酸化作用を持つフィルムが得られ、冷蔵した魚の切り身の品質劣化を遅らせられることが示されました。

ただし、この最適条件は実験室規模で得られたものです。著者らは、工業生産への拡大のしやすさ、経済性、加工工程との相性、フィルムの長期安定性は評価していないと明記し、すぐに実用的な包装技術になるとは言えないと述べています。今回の成果は、食用が中心だったヒジキの成分を食品包装に活かせる可能性を、原理の段階で示したものと位置づけられます。

原著論文の著者・所属:Le Li(College of Food Science & Nutritional Engineering, China Agricultural University, No. 17 Tsinghua Dong Road, Beijing 100083, China; School of Environmental and Quality Testing, Chongqing Chemical Industry Vocational College, No. 2009, East Bodhi Road, Changshou District, Chongqing 401228, China)、Zhiqing Liu(School of Food Science and Engineering, South China University of Technology, No. 381 Wushan Road, Guangzhou 510640, China)、Siting Wang(College of Food Science & Nutritional Engineering, China Agricultural University, No. 17 Tsinghua Dong Road, Beijing 100083, China)、Quanhong Li(College of Food Science & Nutritional Engineering, China Agricultural University, No. 17 Tsinghua Dong Road, Beijing 100083, China)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Le Li, Zhiqing Liu, Siting Wang, et al. Chitosan–Sargassum fusiforme Polyphenol Edible Films: From Physicochemical and Bioactive Characterization to Shelf-Life Extension of Refrigerated Golden Pompano Fillets. Foods 2026-10-16. DOI: 10.3390/foods15203688. 原著ライセンス:CC BY.