著者の所属・活動拠点の国は、スロベニアです。

掲載誌:Journal of Xenobiotics

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ビスフェノールA(BPA)は、エポキシ樹脂やポリカーボネート樹脂の原料として広く使われている化学物質です。食品や飲料の保存・加熱に使うプラスチック製品、感熱紙、哺乳瓶やおもちゃの部品などから放出されることがあり、体内でエストロゲン(女性ホルモン)に似た働きをする「内分泌かく乱化学物質」の一つとされています。

これまでの研究で、妊娠中のBPAばく露と妊娠合併症との関連が報告されてきました。一方で、妊婦の腎臓や肝臓の働きや、生まれてくる子どもの特徴への影響については、あまり分かっていません。そこで研究チームは、健康な妊婦の尿に含まれるビスフェノール類(BPA、およびその類似物質であるBPFとBPS)の量を測り、特に多く見られたBPAが、母親の血液・尿の検査値や出産・新生児の特徴とどのように関連するかを調べました。

どのように調べたか

この研究は、介入を行わずに状況を観察する「観察研究」です。2021年9月から2024年10月にかけて大学病院の産科で実施され、妊娠37〜41週(妊娠後期)の単胎妊娠の女性80人が参加しました。参加者の多くは、主に以前の帝王切開を理由として、予定帝王切開のために入院した人たちでした。糖尿病や腎臓・肝臓の病気などの慢性疾患がある人や、妊娠高血圧症候群などの合併症がある人は対象から除かれています。

参加者からは、少なくとも6時間の絶食後に尿と血液を1回ずつ採取しました。尿中のビスフェノール類は、ガスクロマトグラフィー・タンデム質量分析という高感度の分析法で測定しました。そのうえで、腎臓や肝臓の機能、脂質代謝、AMH(卵巣の働きの目安とされるホルモン)、ビタミンDなどの検査値や、出産時の週数、新生児の体重・身長・頭囲といった情報との関連を統計的に分析しました。

主な結果

尿中に検出されたビスフェノール類は圧倒的にBPAが多く、BPFとBPSはまれにしか検出されませんでした。著者らによると、今回の妊婦のBPA濃度は、世界の他の研究で報告された妊婦と比べて比較的低い水準でした。

そうした比較的低い濃度でも、尿中BPAが高いほど、腎臓の働きの目安となる血清クレアチニンが高いという関連が見られ、この関連は複数の要因を同時に考慮する多変量解析でも確認されました。生まれた子どもの性別で分けて分析すると、この関連は男児を出産した妊婦のグループでのみ統計的に有意でした。このグループでは、BPAが10%増えるごとに血清クレアチニンがおよそ2.0µmol/L高くなる関係に相当すると報告されています。ただし、性別によって関連の強さが異なるかを確かめる検定では有意な差は示されず、著者らは、性別による違いが統計的に確認されたわけではないとしています。

このほか、尿中BPAとAMH、妊娠期間、出生体重や頭囲などとの間にも相関が見られましたが、多変量解析では確認されませんでした。著者らは、これらの結果を、BPAとの独立した関連の証拠とはみなさず、慎重に解釈すべきだとしています。

研究が示すこと

著者らは、妊娠中は腎臓の血流やろ過の働きが大きく変化するため、母体の検査値の解釈はもともと複雑であると述べています。また、BPAは体内から比較的早く排出されるため、1回の尿検査では最近のばく露しか反映されない可能性があることを、重要な限界として挙げています。

そのうえで、この研究は、比較的低いばく露水準であっても、妊娠後期の尿中BPAが母体の腎臓関連の指標と関連していたことを示しました。著者らは、この観察が、妊娠中の低用量の内分泌かく乱化学物質へのばく露にも生物学的な意味がありうるという知見を支えるものだと位置づけています。ただし、示されたのは関連であり、BPAが原因で変化が起きたことを確かめたものではありません。

原著論文の著者・所属:Senka Imamović Kumalić(Division of Obstetrics and Gynecology, Department of Perinatology, University Medical Centre Ljubljana, Šlajmerjeva 3, 1000 Ljubljana, Slovenia)、Gorazd Kavšek(Division of Obstetrics and Gynecology, Department of Perinatology, University Medical Centre Ljubljana, Šlajmerjeva 3, 1000 Ljubljana, Slovenia)、Mateja Sladič(Division of Obstetrics and Gynecology, Department of Perinatology, University Medical Centre Ljubljana, Šlajmerjeva 3, 1000 Ljubljana, Slovenia)、Tanja Premru-Sršen(Division of Obstetrics and Gynecology, Department of Perinatology, University Medical Centre Ljubljana, Šlajmerjeva 3, 1000 Ljubljana, Slovenia; Medical Faculty, University of Ljubljana, 1000 Ljubljana, Slovenia)、Irma Virant-Klun(Clinical Research Centre, University Medical Centre Ljubljana, Vrazov Trg 1, 1000 Ljubljana, Slovenia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Senka Imamović Kumalić, Gorazd Kavšek, Mateja Sladič, et al. Potential Adverse Effects of Urinary Bisphenol A Concentrations on Renal Function, Gestation, and Newborn Characteristics in Healthy Pregnant Women. Journal of Xenobiotics 2026-09-24. DOI: 10.3390/jox16060180. 原著ライセンス:CC BY.