著者の所属・活動拠点の国は、ロシアです。
掲載誌:Medical Immunology (Russia)
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
イチゴは身近な果物ですが、人によっては食べたときに口や喉にかゆみなどが出る「口腔アレルギー症候群」を起こすことがあります。こうした反応は、IgEと呼ばれるアレルギーに関わる抗体を介して起こります。著者らによると、イチゴアレルギーの主な原因となるのは「Fra a 1」というタンパク質です。
Fra a 1は、植物が病原体などへの防御に使う「PR-10」と呼ばれるタンパク質の仲間です。シラカバ花粉の主要アレルゲン「Bet v 1」と構造がよく似ており、アミノ酸配列の57%が一致すると論文は紹介しています。このため、シラカバ花粉に対してできたIgE抗体がイチゴのFra a 1にも反応する「交差反応」が起こり、花粉症の人にイチゴアレルギーが多い理由と考えられています。
IgE抗体が結合するアレルゲン上の目印の多くは、タンパク質の立体的な形に依存しています。そのため、加熱などで形が崩れると、アレルギーを起こす力が弱まる場合があります。ただし、同じPR-10の仲間でも、熱への強さはタンパク質ごとに異なることが知られています。研究チームは、Fra a 1がどの程度アレルギーを起こしうるかを評価し、加熱がその構造や性質にどう影響するかを調べることを目的としました。
何を調べたか
研究チームはまず、大腸菌を使ってFra a 1を人工的に作り出しました。こうして得たタンパク質は、分子の重さや端のアミノ酸配列、立体構造の目安となる測定結果が、天然のFra a 1と一致したと報告されています。
次に、このタンパク質がさまざまな脂肪酸と結合できるかを、蛍光を使った測定で調べました。さらに、光の吸収の違いからタンパク質の骨組みの状態を読み取る「円二色性」という方法で、加熱による構造の変化を観察しました。
アレルギーとの関わりについては、煮沸(99℃で15分)したFra a 1と加熱していないFra a 1で、抗体との結合の強さを比べました。用いたのは、Bet v 1に対してウサギで作られ、Fra a 1にも交差反応する抗体と、花粉と食物のアレルギーをもつ患者の血清に含まれるIgE抗体です。
加えて、試験管内で胃と腸での消化を模した条件をつくり、胃の消化酵素ペプシン、続いて腸の酵素であるトリプシンとキモトリプシンでFra a 1がどれだけ分解されるかを調べました。また、ヒトの免疫細胞の一種であるマクロファージから取り出した「リソソーム」という細胞内の分解装置の酵素を使い、細胞の中での分解されやすさも検討しました。
主な結果
Fra a 1が幅広い脂肪酸と結合できることが、この研究で初めて示されたと著者らは述べています。飽和脂肪酸では、結合の強さが炭素鎖の長さに応じて山なりに変化し、パルミチン酸で最も強くなりました。全体として最も強い結合を示したのはオレイン酸でした。
加熱の実験では、98℃まで温めてもFra a 1は完全には壊れませんでした。一方で、その後20℃まで冷やしても元の構造には戻らず、加熱による構造の変化は元に戻らないものだったと報告されています。
抗体との結合では、煮沸によってウサギの抗体との結合は統計的に意味のある程度に低下しましたが、その低下は最大でも30%程度にとどまりました。患者血清のIgE抗体との結合が統計的に意味のある程度に低下したのは、調べた血清の半数だけでした。著者らは、短時間加熱したイチゴでもアレルギー反応が起こりうる可能性を示すものと考察しています。
消化を模した実験では、加熱していないFra a 1はペプシンで速やかに分解され、30分後には検出されなくなりました。事前に加熱しても、分解の速さに統計的に意味のある変化は見られませんでした。これに対し、マクロファージのリソソーム酵素による分解は比較的ゆっくりでした。比較対象のシラカバ花粉のBet v 1と大豆のアレルゲンGly m 4は最初の24時間以内に完全に分解されたのに対し、Fra a 1は48時間後でもわずかに検出されました。
研究から見えてきたこと
著者らは、Fra a 1は熱に弱いとされるPR-10の仲間でありながら部分的に熱に強く、煮沸後もおよそ半数の患者の血清のIgE抗体と結合し続けたことから、加熱したイチゴでも反応が起こる可能性があると指摘しています。また、細胞内で分解されにくいという性質については、免疫の反応を引き起こす力に影響する可能性があり、Bet v 1よりもアレルギーを起こさせる力が弱いことを示唆するのではないかと考察しています。
論文は、Fra a 1のアレルギーを起こす力は、シラカバ花粉との交差反応だけでなく、熱や細胞内での分解に対するタンパク質自身の安定性によっても左右されると結論づけています。イチゴアレルギーを理解するうえで、アレルゲンそのものの性質に目を向ける必要があることを示した研究といえます。
原著論文の著者・所属:D. N. Melnikova(Moscow Institute of Physics and Technology; Shemyakin-Ovchinnikov Institute of Bioorganic Chemistry, Russian Academy of Sciences)、E. I. Finkina(Moscow Institute of Physics and Technology; Shemyakin-Ovchinnikov Institute of Bioorganic Chemistry, Russian Academy of Sciences)、I. V. Bogdanov(Shemyakin-Ovchinnikov Institute of Bioorganic Chemistry, Russian Academy of Sciences)、T. V. Ovchinnikova(Moscow Institute of Physics and Technology; Shemyakin-Ovchinnikov Institute of Bioorganic Chemistry, Russian Academy of Sciences)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):D. N. Melnikova, E. I. Finkina, I. V. Bogdanov, et al. Characteristics of allergenic potential of clinically significant class PR-10 strawberry allergen. Medical Immunology (Russia) 2026-10-29. DOI: 10.15789/1563-0625-coa-3360. 原著ライセンス:CC BY.