著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Food Chemistry X
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
香りの成り立ちを整理するという目的
イチゴは甘酸っぱい味や色とともに、香りが高く評価される果物です。ただし香りの成分は、熟していく過程や収穫後の保存、加工の段階で変化し、香りが失われたり質が落ちたりすることがあります。著者らはこの点を踏まえ、香りがどのように作られ、どう調節されるのかを明らかにすることが重要だと述べています。
この論文は、新しい実験データを示すものではなく、これまでの研究をまとめた総説です。著者らは、香り成分を特定する技術と、遺伝子や代謝物を網羅的に調べる「マルチオミクス」と呼ばれる手法による知見を組み合わせて整理しました。そのうえで、イチゴの香りに実際に効いている成分、その成分ができる仕組みと変化、香りに影響する要因、分析技術をまとめています。著者らは、香りの化学的な土台と、それを調節する経路とを結びつける枠組みを示すことを目指しています。
「検出された」ことと「香りに効いている」ことは別
論文によると、イチゴからはこれまでに360種類を超える揮発性の化合物が見つかっています。ただし著者らは、ある成分が検出されたり多く含まれていたりしても、それが香りの感じ方に大きく寄与しているとは限らないと指摘しています。
成分ごとの香りへの寄与を見積もる目安として、論文では「におい活性値」が紹介されています。これは、成分の濃度を、その成分のにおいを人が感じ取れる最低濃度(閾値)で割った値です。この値が1を超える成分は、香りに関わる可能性が高いとみなされるのが一般的です。一方で、閾値は食品の性質や実験条件によって変わります。また、多くの成分が混ざったときの感じ方は、この値だけでは説明しきれません。そのため著者らは、人が実際ににおいを嗅いで成分を確かめる方法や、成分を組み合わせて香りを再現したり特定の成分を抜いたりする実験による裏づけも役立つとしています。
イチゴの香りを形づくる主な成分と、その作られ方
論文によれば、香りの中心となるのは「エステル」と呼ばれる成分のグループです。エステルは揮発性成分全体のおよそ40〜62.5%を占め、果物らしい香りや花のような香りと深く結びついています。代表例として、酢酸ヘキシルや酪酸エチル、カプロン酸エチルなどが挙げられ、リンゴやパイナップルなどを思わせる香りを持ちます。また、アントラニル酸メチルは野生のイチゴに特徴的な成分で、野生種と栽培種の香りを分ける鍵になると紹介されています。ココナッツやミルクのような香りを持つ「ラクトン」類は、桃のような香りを持つ野生種などで重要な役割を果たしているとされます。
「アルデヒド」類は、主に二つの経路で作られます。一つは、リノール酸などの脂肪酸が酵素によって分解されてできる経路です。ここから生じる炭素6個のアルデヒドは、熟す前のイチゴの青っぽい香り、つまり草や葉のような新鮮な香りの主な源になります。もう一つはアミノ酸を出発点とする経路です。例えば、フェニルアラニンというアミノ酸からは、アーモンドやチェリーのような香りのベンズアルデヒドや、バニラやクリームのような香りのバニリンができます。
「フラノン」類も、イチゴの香りの要となる成分です。代表的なフラノン類は、濃度が低いときには果物のような香りとして感じられる一方、濃度が高いとカラメルのような香りになるものがあると紹介されています。このグループは糖の代謝物から作られ、その合成で中心となる酵素はFaQRと呼ばれる酵素だとされています。このほか、花や柑橘を思わせる香りを持つ「テルペン」類も重要です。リナロールやネロリドールがその代表例で、品種によって含まれ方が異なると報告されています。
品種・環境・保存加工と分析技術、そして残された課題
著者らは、香りの形成に影響する要因として、品種や遺伝的な違い、環境や栽培の条件、果実の熟し具合、収穫後の保存条件、加工方法を挙げています。香りを調べる道具としては、果実から立ちのぼる香り成分を捕まえて分離・同定する方法が広く使われています。さらに、遺伝子の働きと代謝物を組み合わせて解析する方法が、香り成分の特定と変化の追跡に活用されていると紹介されています。
論文は、イチゴの香りの研究が「どんな成分があるか」を調べる段階から、「なぜその成分ができるのか」という仕組みを探る段階へ移りつつあると位置づけています。その一方で、香り成分の合成や代謝を支える分子レベルの仕組みには、まだ分かっていない部分が多く残っています。著者らは、それらがどのようにつながって調節されているのかについて、全体像の体系的な解析がなお必要だとしています。イチゴの香りは多数の成分が重なり合って生まれ、品種や扱われ方によって変わり得ます。この総説は、その複雑さを化学と調節の両面から整理したものといえます。
原著論文の著者・所属:Su Xu(School of Food Science and Engineering, Guizhou Engineering Research Center for Characteristic Flavor Perception and Quality Control of Drug-Food Homologous Resources, Guiyang University, Guiyang 550005, China)、Jinjin Jiang(School of Food Science and Engineering, Guizhou Engineering Research Center for Characteristic Flavor Perception and Quality Control of Drug-Food Homologous Resources, Guiyang University, Guiyang 550005, China)、Guangcan Tao(School of Food Science and Engineering, Guizhou Engineering Research Center for Characteristic Flavor Perception and Quality Control of Drug-Food Homologous Resources, Guiyang University, Guiyang 550005, China)、Qiang Fei(School of Food Science and Engineering, Guizhou Engineering Research Center for Characteristic Flavor Perception and Quality Control of Drug-Food Homologous Resources, Guiyang University, Guiyang 550005, China)、Lingshuai Meng(School of Food Science and Engineering, Guizhou Engineering Research Center for Characteristic Flavor Perception and Quality Control of Drug-Food Homologous Resources, Guiyang University, Guiyang 550005, China)、Qinglong Meng(School of Food Science and Engineering, Guizhou Engineering Research Center for Characteristic Flavor Perception and Quality Control of Drug-Food Homologous Resources, Guiyang University, Guiyang 550005, China)、Liang Zhao(National Engineering Research Center for Fruit and Vegetable Processing, Key Laboratory of Fruit and Vegetable Processing, Key Laboratory of Food Non-Thermal Processing, Ministry of Agricultural and Rural Affairs, College of Food Science & Nutritional Engineering, China Agricultural University, Beijing 100083, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Su Xu, Jinjin Jiang, Guangcan Tao, et al. Recent developments in strawberry aroma: Essential aroma-active components and their formation mechanisms, influencing factors, and analytical technologies. Food Chemistry X 2026-10-29. DOI: 10.1016/j.fochx.2026.104710. 原著ライセンス:CC BY.