著者の所属・活動拠点の国は、ポーランドです。

掲載誌:Nanotechnology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

化学肥料は効率が悪いことが多く、何度も大量に施す必要があり、栄養分が土壌へ流れ出る原因にもなります。研究チームは、ナノテクノロジーによって肥料をゆっくり、制御しながら放出できれば、植物の養分吸収を高め、必要な肥料の総量も減らせる可能性があると位置づけています。この研究で注目したのは、植物に必要な微量栄養素の一つである銅です。著者らは銅をナノメートル(10億分の1メートル)規模の粒子にし、さらに別の素材で包んだ複合材料を作りました。そして、その性質と植物の成長への影響を調べています。

材料の作り方と調べた内容

著者らはまず、穀物に病気を起こすカビの一種であるフザリウム・グラミネアルムを使いました。このカビの細胞が自ら分解してできた液(自己消化物)を用いて、銅ナノ粒子を合成しています。次に、牛乳に含まれるたんぱく質カゼインが作る小さな粒(カゼインミセル)と銅ナノ粒子を結びつけました。最後に、それを炭酸カルシウムの複合微小球の中に閉じ込めています。こうして、銅ナノ粒子、カゼインと結合させたもの、炭酸カルシウム微小球に封入したものの3種類の材料ができました。

植物試験では、植物の栽培試験で広く使われる養分を含んだ溶液(ホーグランド液)を用いました。この溶液に含まれる銅の供給源を、3種類の材料のいずれかに置き換えてトウモロコシを処理しています。30日後に苗を収穫し、長さ、生重量(収穫直後の重さ)、乾燥重量、銅の含有量、葉の葉緑素(クロロフィル)量を測定しました。

主な結果

抄録によると、合成した銅ナノ粒子は小さな球形で、マイナスの電気を帯びていました。結晶は立方晶の構造を示し、表面には生体分子が付いていました。微生物の増殖を抑える作用も有望な水準で示されたと報告されています。カゼインと結合させた粒子は球形で、平均直径は133.65ナノメートルでした。炭酸カルシウム微小球は内部に細かな孔を多く持つ構造で、平均の大きさは1.09マイクロメートルでした。

トウモロコシへの影響として、カゼインと結合させた粒子では、茎と根の生重量が15〜20%増えました。炭酸カルシウム微小球では、葉・茎・根の生重量と葉の乾燥重量が14〜32%増えたと報告されています。3種類の材料はいずれも葉緑素量を9〜24%高めました。一方、銅の濃度が15〜42%高まったのは、銅ナノ粒子をそのまま与えた場合でした。

研究が示すこと

著者らは、カゼインのミセルと炭酸カルシウム微小球が銅ナノ粒子を包み込み、その分解を遅らせる運搬材料として有効に働くと結論づけています。また、銅ナノ粒子を使った複合材料がトウモロコシの生育と葉緑素量を高めたことから、環境に配慮したナノ肥料として農業に応用できる可能性があると述べています。今回の結果は、ホーグランド液で処理して30日後に収穫したトウモロコシの苗で得られたものです。カビを利用して作った銅ナノ粒子を身近な素材で包むという発想が、肥料の新しい設計の一案として示された研究といえます。

原著論文の著者・所属:Julia Nadrowska(Nicolaus Copernicus University in Toruń)、Joanna Trzcińska-Wencel(Nicolaus Copernicus University in Toruń)、Patrycja Golińska(Nicolaus Copernicus University in Toruń)、Marek Wiśniewski(Nicolaus Copernicus University in Toruń)、Sudhir Shende(Nicolaus Copernicus University in Toruń)、Aniket Gade(Nicolaus Copernicus University in Toruń)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Julia Nadrowska, Joanna Trzcińska-Wencel, Patrycja Golińska, et al. Calcium carbonate casein-based composite microspheres with mycogenic copper nanoparticles: synthesis, characterization and plant growth promotion. Nanotechnology 2026-08-14. DOI: 10.1088/1361-6528/ae99eb. 原著ライセンス:CC BY.