著者の所属・活動拠点の国は、イタリア、ロシアです。
掲載誌:LWT
ライセンス: CC BY-NC-ND 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
トマトジュースやピューレを作る過程では、皮や種などの副産物が大量に発生します。こうした農産加工の副産物をどう活用するかは、食品産業にとって身近な課題です。今回紹介する研究は、このトマト副産物から得られる「オレオレジン」という抽出成分を、食品を包む生分解性フィルムの材料に混ぜ込み、その性質がどう変わるかを調べたものです。研究はイタリア・ナポリ大学フェデリコ二世の農業科学部の研究者らによって行われました。
カゼイン酸塩とグアーガムのフィルムに何を加えたのか
研究チームは、乳タンパク質由来のカゼイン酸ナトリウムと、多糖類のグアーガムを組み合わせた「SC-GG」フィルムをベースに用いました。このフィルムは微生物由来のトランスグルタミナーゼという酵素で架橋処理されています。通常こうしたフィルムには疎水性(水をはじく性質)を与えるためにミツロウ(BW)が使われますが、この研究ではミツロウの一部を、トマト副産物から得たオレオレジン(TBO)に置き換えたフィルムを作製し、その構造や物性、抗酸化活性への影響を比較しました。
配合によってフィルムの性質はどう変わったか
まず、フィルムを作る前の乳化液(フィルム形成エマルション)の段階で、TBOを加えると粒子の大きさのばらつきが小さくなり、見かけの粘度が0.02~0.13Pa・sの範囲で上昇し、物理的な安定性が高まったことが報告されています。
乾燥させたフィルム自体では、表面の疎水性を示す接触角が54.5度から93.8度へと大きく上昇し、水をはじきやすい表面になったことが示されました。あわせて熱に対する安定性も向上しています。一方で、引張強度は低下し、水への溶けやすさ(水溶性)は上昇したことも確認されており、TBOの添加が良いことずくめではなく、フィルムの機械的な強さとはトレードオフの関係にあることがうかがえます。
FT-IR(赤外分光)による構造解析では、TBOとカゼイン酸塩・グアーガムの高分子マトリックスがよく馴染んでおり(相溶性が良く)、脂質と高分子の間に共有結合を伴わない相互作用があることが示唆されました。さらに、抗酸化活性はオレオレジンの濃度が高いほど強くなる傾向があり、DPPH法によるラジカル阻害率は約36%、ABTS法では約62%に達したと報告されています。
この研究をどう読むか
著者らは、実際の食品を使った包装性能の検証、フィルムから食品側へ成分が溶け出す可能性や安全性の評価、生分解性、保存中の安定性、そして実用化に向けたスケールアップといった点について、今後さらなる検証が必要だとしています。つまり今回の結果は実験室レベルでのフィルムの物性評価であり、実際の食品包装として使えるかどうかを保証するものではありません。
まとめ
この研究では、トマト副産物由来のオレオレジンをカゼイン酸塩とグアーガムのフィルムに配合することで、表面の疎水性や熱安定性、抗酸化活性が高まる一方、引張強度の低下や水溶性の上昇といった変化も生じることが示されました。農産加工の副産物を活用した機能性包装材料の可能性を探る一つの研究段階であり、実食品での有効性や安全性については今後の検証が待たれます。
原著論文の著者・所属:Angela Borriello(Department of Agricultural Sciences, University of Naples Federico II, piazza Carlo di Borbone, 80055, Portici (NA))、Stefania Volpe(Department of Agricultural Sciences, University of Naples Federico II, piazza Carlo di Borbone, 80055, Portici (NA))、Nicoletta A. Miele(Department of Agricultural Sciences, University of Naples Federico II, piazza Carlo di Borbone, 80055, Portici (NA))、Mariavittoria Verrillo(Department of Agricultural Sciences, University of Naples Federico II, piazza Carlo di Borbone, 80055, Portici (NA))、Elena Torrieri(Department of Agricultural Sciences, University of Naples Federico II, piazza Carlo di Borbone, 80055, Portici (NA))、Silvana Cavella(Department of Agricultural Sciences, University of Naples Federico II, piazza Carlo di Borbone, 80055, Portici (NA))
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Angela Borriello, Stefania Volpe, Nicoletta A. Miele, et al. Caseinate–guar gum films enriched with tomato by-product oleoresins as potential active food packaging materials. エルダブリューティー(LWT) (2026). DOI: 10.1016/j.lwt.2026.119870. 原著ライセンス: cc-by-nc-nd.