魚介類や肉、卵などの食品は傷み始めるとアンモニアなどの揮発性物質を発生させます。この性質を利用して、パッケージの色が変わることで食品の鮮度低下を知らせる「インテリジェント包装」の開発が近年進んでいます。トルコのブルサ工科大学などの研究グループが、食品用フィルムの素材として広く使われるゼラチンに、コバルトを含む金属有機構造体(MOF)を組み込んだ複合フィルムを開発し、その性質とアンモニア検知能力を調べた研究をポリマーズ誌に発表しました。

従来、色の変化で鮮度を知らせる仕組みにはアントシアニンなどの天然色素がよく使われてきましたが、抽出の手間やコスト、光や熱に対する不安定さといった課題があったといいます。そこで注目されているのがMOFと呼ばれる多孔質の結晶構造体です。MOFは金属イオンと有機物(リガンド)が結びついてできる構造で、表面積が大きく、ガスに反応しやすい性質を持つことが知られています。今回の研究では、リガンドとして没食子酸(ガリック酸)という植物由来のポリフェノールが使われました。没食子酸はカルボン酸基とフェノール性水酸基を複数持ち、金属イオンと結合しやすいことから、食品と接する用途により適したMOFを作れる可能性があるとされています。

どのように作り、何を調べたのか

研究チームはまず、硝酸コバルト六水和物と没食子酸を溶媒中で混ぜ、120℃で12時間反応させることでコバルトMOF(Co-MOF)を合成しました。次に、ウシ由来のゼラチン溶液にこのCo-MOFをゼラチン重量に対して2.5%、5%、7.5%、10%の割合で加え、流延法(溶液を板に広げて乾燥させる方法)でフィルムを作製しました。Co-MOFを含まないゼラチンフィルムを対照(G/Co-MOF0)として比較しています。

できあがったフィルムについて、厚さ・水分含量・膨潤度・溶解度・水蒸気透過性といった基本的な物性に加え、走査型電子顕微鏡(SEM)による断面や表面の観察、赤外分光(FTIR)、X線回折(XRD)、示差走査熱量測定(DSC)による構造・熱的性質の分析、引張強度などの力学試験、そしてアンモニアガスに触れさせたときの色の変化(ΔE、色差の指標)まで、幅広い項目を系統的に調べています。

研究でわかったこと

Co-MOFを加えると、フィルムの水分含量は対照の14.47%から13.25〜13.58%へと低下し、水を含んだときの膨潤度も599.37%から484.88〜547.30%の範囲に下がりました。一方で、水への溶けやすさ(溶解度)は39.09%から最大48.88%まで上昇し、水蒸気を通す度合い(水蒸気透過性)も1.652から2.054 g・mm/m²・h・kPaへと、Co-MOFの量に応じて増加しました。研究チームは、Co-MOF自体が多孔質で表面積が大きいため、水分子がフィルム中を通り抜けやすくなったと考察しています。この水蒸気透過性の上昇は、一般的な包装材としては欠点になりうるものの、アンモニアなどの気体がフィルム内部に拡散しやすくなることを意味し、むしろセンサーとしての応答の速さにつながる可能性があるとも述べられています。

水分の吸着しやすさをGAB・BETという2つのモデルで解析したところ、Co-MOFを加えたフィルムほど水分子を捉える「比表面積」が大きくなり、356.13から455.74 m²/gまで増加したことが示されました。これはCo-MOFの多孔質構造によって水分子が吸着できる場所が増えたためと説明されています。

電子顕微鏡による観察では、Co-MOFの濃度が2.5〜5%程度までは比較的均一に分散していましたが、7.5%や10%まで増やすと粒子の凝集(かたまり)が見られるようになりました。コバルトの分布を調べる元素マッピングでも同様の傾向が確認されています。色についても、対照フィルムはほぼ無色透明だったのに対し、Co-MOFを加えるとさび赤色を帯び、濃度が上がるほど色が濃く不透明になりました。熱的な安定性はCo-MOFの添加によって高まる一方、力学的な強さ(引張強度など)はわずかに低下する程度にとどまったとされています。

最も注目される結果は、アンモニア蒸気に対する反応です。100ppmのアンモニア溶液を用いた曝露試験で、対照フィルムの色差(ΔE)が120分後も1未満だったのに対し、Co-MOFを2.5%、5%、7.5%、10%含むフィルムではそれぞれ約12、15、24、27まで上昇しました。Co-MOFの含有量が多いフィルムほど反応が速く、色の変化も大きく、目視でも鮮度の変化を判別しやすかったと報告されています。

この研究の位置づけと読むうえでの注意

この研究は、没食子酸由来のCo-MOFをゼラチンフィルムに組み込むという特定の条件のもとで得られた結果であり、一つの研究として、まだ結論が確定したわけではありません。論文では、Co-MOFの添加量を増やしすぎると粒子の凝集が起こり、力学的性質や均一性に影響しうることが示されています。また実験は実験室内でのアンモニア蒸気への曝露によるものであり、実際の食品を用いた保存試験や、他の食品成分・環境条件の影響については、この要旨・本文の範囲では述べられていません。

まとめ

没食子酸を原料に合成したコバルトMOFをゼラチンフィルムに配合することで、アンモニアガスに応じて色が変化する複合フィルムが作製されたことが、この研究で示されました。Co-MOFの添加量に応じて水分特性や熱的性質、色の変化の速さが変わることも確認されており、食品の鮮度や腐敗を見た目で知らせるインテリジェント包装材料としての可能性が示唆されています。

※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:Mahmut Ekrem Parlak, Burcu Demirtaş, Ayşe Neslihan Dündar, et al. Ammonia-Responsive Gelatin/Co–MOF Composite Films Based on Gallic Acid-Derived Metal–Organic Frameworks for Intelligent Food Packaging. ポリマーズ (2026). DOI: 10.3390/polym18161938. 原著ライセンス: cc-by.