養殖魚のエサには、これまで魚粉や大豆などのタンパク質原料が広く使われてきましたが、資源の持続性という点で課題も指摘されています。こうした背景から、微生物を利用してつくる「細菌タンパク質ミール(BPM)」が新しい代替タンパク源として注目されています。今回紹介する研究は、シンガポールのTemasek Life Sciences Laboratoryの研究グループが、ビール醸造の副産物からつくられた細菌タンパク質ミールを実際に魚へ与え、どの程度きちんと消化・吸収されるのかを調べたものです。
この研究がポイントとするのは「消化率」です。新しい原料がどれだけ栄養価に優れていても、魚の体内でうまく消化されなければ意味がありません。研究チームは、温水性の養殖魚として重要なバラマンディ(Lates calcarifer)とモザンビークティラピア(Oreochromis mossambicus)を対象に選び、それぞれ150匹ずつ2つのグループを用意し、汽水(塩分濃度5ppt、水温28度)の閉鎖循環式水槽で2回の独立した試験を行いました。魚の体重はバラマンディが平均48.9グラム、ティラピアが平均48.7グラムでした。
細菌タンパク質ミールはどれだけ消化されたのか
研究では、通常のエサに細菌タンパク質ミールを一部置き換える「飼料置換法」という手法を用い、42種類の脂肪酸と17種類のアミノ酸について、それぞれがどの程度消化・吸収されたかを示す「原料見かけの消化率(IADC)」を測定しました。
その結果、タンパク質の消化率はティラピアで71.8±5.3%、バラマンディで88.1±0.9%、エネルギーの消化率はティラピアで64.0±4.3%、バラマンディで75.1±4.5%と報告されています。同じ原料でも魚の種類によって消化のされやすさに差が見られた形です。ティラピアでは、必須アミノ酸の消化率はアラニン、ヒスチジン、トレオニン、バリンを除いておおむね85%を超えていたとされています。また、脂質や脂肪酸の消化率については、細菌タンパク質ミールを加えたことによる影響はほとんど見られなかったと述べられています。
消化酵素の働きにも大きな乱れなし
研究チームは消化率だけでなく、魚の腸から抽出したトリプシン、キモトリプシン、ロイシンアミノペプチダーゼという3種類の消化酵素の働き方も調べています。酵素が基質をどれだけ効率よく捉えるかを示すKm値は、通常のエサを与えた場合、ティラピアでそれぞれ0.01、0.24、0.13ミリモル、バラマンディで0.02、0.43、0.07ミリモルだったとされています。
細菌タンパク質ミールを含むエサに切り替えると、酵素の最大反応速度(Vmax)とKm値の両方に変化が見られましたが、これは酵素の働き方が食事内容に応じて調整される「消化酵素の柔軟性」を示すものと考察されています。こうした調整はバラマンディの方がティラピアよりも顕著だったと報告されています。全体として、細菌タンパク質ミールが腸の消化機能に大きな悪影響を及ぼした様子はうかがえなかったとされています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
この研究は、ビール醸造由来の細菌タンパク質ミールという特定の原料を、特定の条件(水温28度、塩分濃度5ppt)で2種類の魚に与えた結果に基づくものです。魚種によって消化率に差が見られたことからもわかるように、他の魚種や飼育条件でも同様の結果が得られるとは限りません。また、今回の研究はあくまで消化率と酵素反応という指標を対象にしたものであり、成長性や健康への影響を直接評価したものではない点にも留意が必要です。一つの研究であり、これをもって細菌タンパク質ミールの実用化が確定したというわけではありません。
まとめ
今回の研究では、ビール醸造副産物からつくられた細菌タンパク質ミールが、バラマンディとモザンビークティラピアの両方で比較的高い消化率を示し、消化酵素の機能にも大きな乱れを与えなかったことが報告されました。研究チームは、この結果が商業的な養殖飼料への配合に適していることを支持するものだとしています。持続可能な養殖用タンパク源をめぐる研究の一つの成果として、今後の展開が注目されます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。参考文献:R. Le Boucher, C. Wu, W. Chung, et al. Evaluation of a bacterial protein meal as a novel aquafeed ingredient for warmwater species: Barramundi (Lates calcarifer) and Mozambique tilapia (Oreochromis mossambicus). アクアカルチャー・リポーツ (2026). DOI: 10.1016/j.aqrep.2026.103829. 原著ライセンス: cc-by.