著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Antioxidants
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:果実の細胞壁という「壁」をどう崩すか
食品や医薬品の分野では、植物由来の天然の抗酸化成分への関心が高まっています。論文によれば、植物からポリフェノールなどの成分を取り出す従来の抽出法には、長い処理時間、高い温度、大量の有機溶媒が必要になることが多いという問題があります。熱に弱い成分が分解されるおそれもあります。さらに果実の組織は丈夫な細胞壁に囲まれており、その細胞壁ではセルロースの繊維がペクチンなどの多糖に埋め込まれています。この細胞壁が溶媒の浸透を妨げることが、抽出の大きな障害になっています。
超音波を当てて抽出を促す方法は、有望な代替手段の一つです。ただ著者らは、ペクチンやセルロースの多い果実では、超音波だけでは細胞壁を十分に壊せない場合があると指摘しています。そこで注目されるのが、細胞壁の成分を分解する酵素を先に作用させる方法です。代表例は、ペクチンを分解するペクチナーゼと、セルロースを分解するセルラーゼです。
著者らによると、これまでの研究の多くは、総ポリフェノール量などの限られた指標を使って抽出条件を最適化することに集中していました。酵素の種類や組み合わせによってどの種類の成分が多く取り出されるのかは、ほとんど調べられていません。研究チームは、中国・新疆で広く栽培されるナツメの品種「駿棗(Junzao)」を対象に選びました。駿棗は果肉が厚く、ペクチンやセルロースが多い品種です。この果実を使い、酵素の使い方の違いが抽出物の成分構成と抗酸化能にどう影響するかを調べました。
何を調べたか:4通りの抽出法と網羅的な成分分析
研究チームは、新疆ホータン地区で収穫した駿棗の果実を使いました。果実は種を除いて乾燥させ、粉末にしてから実験に用いています。比較した抽出法は4つです。1つ目は酵素による前処理を行わない対照(N)です。2つ目と3つ目は、2種類の単一酵素による前処理(GとX)です。4つ目は、ペクチナーゼとセルラーゼを組み合わせた複合酵素による前処理(GX)です。いずれの酵素処理の後にも、超音波による抽出が組み合わされています。
得られた抽出物については、まず総ポリフェノール量と総フラボノイド量を測りました。次に、液体クロマトグラフィーと高分解能質量分析を組み合わせた装置を使い、「非標的メタボロミクス」を行いました。これは、あらかじめ対象成分を絞らずに、抽出物に含まれる多数の小さな分子(代謝物)をまとめて検出し、種類を推定する手法です。さらに、フリーラジカルを消去する力などを調べる4種類の試験管内の化学試験で、抗酸化能を評価しました。最後に、どの成分の増減が抗酸化能の高さと連動しているかを統計的に調べています。
主な結果:酵素処理で成分の「顔ぶれ」が変わった
総ポリフェノール量は、4つの抽出法の間で、乾燥重量1グラムあたり24.27〜33.42ミリグラム(没食子酸換算)の範囲でした。総フラボノイド量は、乾燥重量1グラムあたり5.92〜7.70ミリグラム(ルチン換算)の範囲でした。どちらの指標でも、酵素を使った3つの方法はすべて対照より高い値を示しました。最も高かったのは、複合酵素を使ったGXでした。
網羅的な分析では、合計839種類の代謝物が推定されました。多くを占めたのは、脂質やそれに類する分子、アミノ酸とその誘導体、有機酸、アルカロイドなどです。データ全体を統計的に見比べると、酵素処理をした3つのグループは対照と明確に分かれました。研究チームはこの結果について、酵素の前処理が抽出物の成分構成を全体として大きく変えたことを示すものと解釈しています。
対照と比べて量が有意に変わった代謝物は、3つの比較を合わせて107種類でした。その多くはポリフェノールやフラボノイドではなく、アミノ酸、有機酸、アルカロイド、脂質などでした。3つの酵素処理すべてで共通して多く抽出された成分は、1種類だけでした。それぞれの酵素処理に特有の変化が多く見られたことから、著者らは、酵素の種類によって取り出されやすい成分が異なると述べています。ナツメの代表的な成分でも傾向は同じでした。たとえば環状AMP(cAMP)はすべての酵素処理で多く抽出されましたが、多くの成分では有意な差がありませんでした。論文は、酵素による細胞壁の破壊がすべての成分を一様に増やすのではなく、成分ごとに選択的に働くとしています。
抗酸化能の4つの試験では、GXの抽出物が最も高い活性を示しました。ただし、単一酵素による処理の効果は試験によってまちまちでした。2つの試験では、GやXと対照との間に有意な差がありませんでした。また、多く抽出された代謝物のうち8種類が、複数の抗酸化指標と統計的に正の相関を示しました。著者らはこの結果を、仮説を立てるための手がかりと位置づけており、標準物質を使った確認が必要だとしています。
研究の意味:量だけでなく「何が出てきたか」を見る評価へ
著者らは、総ポリフェノール量のようにまとめた指標だけでは、実際にどの成分が抽出され、どの成分が活性に関わっているのかが分からないと指摘しています。今回の研究は、網羅的な代謝物分析を抽出法の比較に取り入れました。これにより、酵素の使い方の違いが抽出物の成分構成をどう変えるかを、より細かく示しました。研究チームは、ペクチンの多い果実からの抽出では、2種類の酵素を組み合わせた超音波抽出が有望な方法であると結論づけています。
一方で論文は、研究の限界もはっきり示しています。成分の同定は、データベースとの照合による推定にとどまります。量の比較も相対的なものです。抗酸化能は試験管内の化学試験だけで評価されており、細胞や生体を使った実験は行われていません。また、結果は一つの産地の一品種から得られたものです。この研究は、果実の細胞壁をどう崩すかによって取り出される成分の顔ぶれが変わることを、多数の成分を一度に見る手法で示したものと言えます。
原著論文の著者・所属:Yahui Yan(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China; Postdoctoral Station of Horticulture, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Chaoming Zhang(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Dan Rui(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Yongxia Tao(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)、Zuoshan Feng(College of Food Science and Pharmacy, Xinjiang Agricultural University, Urumqi 830052, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Yahui Yan, Chaoming Zhang, Dan Rui, et al. Enzyme-Assisted Ultrasound Extraction of Bioactive Compounds from Ziziphus jujuba Mill. cv. ‘Junzao’ Fruits: Untargeted Metabolomic Profiling Reveals Enhanced Antioxidant Capacity. Antioxidants 2026-09-26. DOI: 10.3390/antiox15101244. 原著ライセンス:CC BY.