この研究は、イラン、スペインの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Foods
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: Crossref
研究の目的——壊れやすい成分をどう守るか
トウモロコシの粒の外側を覆る外皮(コーンブラン)には、フェノール酸と呼ばれる生理活性成分が多く含まれています。著者らによれば、こうした成分には抗酸化や抗炎症などの働きが報告されてきました。ところが、熱・光・酸素にさらされると分解しやすく、口から取り込んだあとも胃の酸性環境や小腸のアルカリ性環境、消化酵素の影響を受けて性質が変わってしまうことがある、と論文は説明しています。
研究チームは以前の研究で、コーンブランを発酵させると総フェノール含量と抗酸化活性が高まることを示していました。発酵は植物組織に結合した状態のフェノール成分を遊離させ、抽出物を成分豊富なものにするためです。しかし成分そのものの壊れやすさは残ります。そこで本研究では、この発酵コーンブラン抽出物を「ニオソーム」という微小な小胞に閉じ込め、安定性を高めて放出を制御できるかを検討しました。
ニオソームとは、非イオン性界面活性剤が自己組織化してできる袋状の微粒子です。論文では、よく知られたリポソーム(リン脂質でできた小胞)と比べて、化学的に安定で製造コストが低く、水に溶ける成分と油に溶ける成分の両方を包めるといった利点が挙げられています。著者らの知る限り、発酵コーンブラン由来の成分をニオソームに封入した報告はこれまでなかったとされています。
何をどう調べたか
抽出物は、コーンブランに乳酸菌(Lactobacillus reuteri)を接種して37℃で72時間発酵させ、水で抽出したうえで遠心分離・凍結乾燥して得たものです。ニオソームは、成分を有機溶媒に溶かして薄い膜を作り、それを水で戻す「薄膜水和法」で調製し、最後に超音波で粒子を細かくしました。
製剤を決める鍵として、著者らは二つの条件に注目しました。一つは界面活性剤のHLB値(分子のうち水になじむ部分と油になじむ部分のバランスを表す指標)で、水になじみにくいSpan 60と、なじみやすいTween 20を単独または混合して4.5〜16.5の範囲を設定しています。もう一つはコレステロールの添加量(25〜125 mg)で、膜の性質を整える役割を担います。この二条件を五水準で組み合わせた13通りの試験を行う実験計画(中心複合計画)を用い、応答曲面法という統計手法で、封入効率(抽出物のうちどれだけが小胞に取り込まれたかの割合)と小胞サイズが最もよくなる条件を探りました。
得られた製剤については、赤外分光(FT-IR)で成分の化学構造に変化がないかを確認し、透過型電子顕微鏡で形と大きさを観察しています。抗酸化力はDPPH法とABTS法という二種類の試験で評価し、放出の様子は透析膜を使って37℃・pH 7.4のリン酸緩衝液中で48時間追跡しました。論文は、この条件は消化管全体を再現するものではなく、腸に近いpHの水環境での放出挙動を見るためのものだと明記しています。保存安定性は4・25・45℃で2か月間、またpH 3・5・7の条件で1か月間調べられました。
報告された主な結果
統計モデルによれば、HLB値が高いほど小胞は小さくなり、コレステロール量が増えるほど小胞は大きくなる傾向が示されました。封入効率については、HLBとコレステロール量の間に相乗的な働きがあり、ただしHLB値が一定以上に高くなると、水になじむ部分が大きくなりすぎて安定な小胞を作りにくくなり、かえって封入効率が下がると説明されています。
最適条件はHLB値13.5、コレステロール92 mg(総モル量に対しておよそ70.5 mol%)と算出され、封入効率56%、粒子径205 nmが予測されました。実際に作って測定した値は予測とよく一致したと報告されています。電子顕微鏡でも直径およそ200 nmの小胞構造が観察され、光散乱法による205 nmという値と整合しました。粒度分布のばらつきを示す指標(PdI)は0.25で、比較的そろった分布とされています。赤外分光では、抽出物・コレステロール・界面活性剤それぞれの特徴的なピークがそのまま現れ、新たなピークや明確なずれは見られなかったことから、封入によって大きな化学変化は起きていないと著者らは述べています。ただし水素結合のような弱い相互作用は、この測定だけでは完全には否定できないとも付記されています。
抗酸化試験では、二つの方法で異なる結果が出ました。DPPH法では封入した抽出物と遊離のままの抽出物で活性がほぼ同等でした。この試験ではエタノールなどの有機溶媒によって小胞の構造が崩れ、フェノール成分が放出されて働くためだと説明されています。一方、水中で行うABTS法では、封入したもののほうが活性が低くなりました。著者らはこれを、抗酸化能そのものが失われたのではなく、水環境では小胞が壊れずに成分が放出されにくいため——つまり膜が成分を守っている結果だと解釈しています。
放出試験では違いがはっきり表れました。遊離の抽出物は6時間でほぼ100%が放出されたのに対し、封入したものは同じ6時間で約22%にとどまりました。最初の2時間で約10%が放出される以外は急激な放出(バースト)はなく、48時間かけて最大50%が放出される、なだらかな持続的放出が観察されています。保存試験では、4℃では封入効率に有意な変化が見られませんでしたが、25℃では30日後、45℃では15日後に有意な低下が認められました。論文は、より高い温度や酸性のpH条件が封入効率に不利に働くと結論部で述べています。
この研究が示すこと
この研究は、食品加工の副産物であるコーンブランという、そのままでは使いみちの限られる素材から取り出した成分を、ニオソームという担体で安定化できることを実験的に示したものです。とりわけ、界面活性剤のHLB値とコレステロール量という二つの設計変数が、封入効率と小胞サイズをどう左右するかを整理した点が、複雑な植物抽出物を扱う製剤設計の手がかりになると著者らは位置づけています。
抗酸化力を保ったまま、急激ではなくゆるやかに成分を放出させられたこと、そして冷蔵保存であれば性能が維持されたこと——これらは、壊れやすく放出が早いというフェノール成分の扱いにくさに、設計で応えられる余地があることを示しています。農業由来の副産物をより有効に使う道筋を、材料と製剤の側から具体的に描いた研究だと言えます。
著者:Mehdi Akbari(Bioprocess Engineering Laboratory (BPEL), Department of Food Science, Engineering and Technology, College of Agriculture and Natural Resources, University of Tehran, Karaj 31587-77871, Iran)、Clara Gomez-Urios(Nutrition and Food Science, Faculty of Pharmacy and Food Science, University of Valencia, Avenida Vicent Andrés Estellés, 22, 46100 Burjassot, Spain)、Seyed Hadi Razavi(Bioprocess Engineering Laboratory (BPEL), Department of Food Science, Engineering and Technology, College of Agriculture and Natural Resources, University of Tehran, Karaj 31587-77871, Iran)、María J. Esteve(Nutrition and Food Science, Faculty of Pharmacy and Food Science, University of Valencia, Avenida Vicent Andrés Estellés, 22, 46100 Burjassot, Spain)、Jesús Blesa(Nutrition and Food Science, Faculty of Pharmacy and Food Science, University of Valencia, Avenida Vicent Andrés Estellés, 22, 46100 Burjassot, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Mehdi Akbari, Clara Gomez-Urios, Seyed Hadi Razavi, et al. Niosomal Encapsulation of Phenolic-Rich Extract from Fermented Corn Bran: Optimization, Characterization, and In Vitro Evaluation. Foods 2026-08-01. DOI: 10.3390/foods15173071. 原著ライセンス:CC BY.