著者の所属・活動拠点の国は、中国です。
掲載誌:Israeli Journal of Aquaculture - Bamidgeh
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
抗生物質に代わる手段を探る
魚の養殖では、密度を高めた飼育で病気が起こりやすくなります。抗生物質は一時的な対策にはなりますが、薬の効かない病原体を生み、環境汚染や食品安全上の懸念にもつながります。そこで代わりの手段として、体によい働きをする微生物「プロバイオティクス」が注目されています。中でも、加熱して菌を死滅させた「加熱不活化プロバイオティクス」は、安全性と扱いやすさの面で利点があるとされています。
研究チームが対象にしたのは、中国南東部沿岸で重要な養殖魚であるフウセイ(Larimichthys crocea、大黄魚とも呼ばれる)です。この魚の養殖は、成長の遅さや病気の多発に悩まされてきました。著者らによると、加熱不活化した乳酸菌をフウセイの飼料に加えた場合の効果や、その仕組みを調べた研究はまだ少ないといいます。そこで本研究では、フウセイの腸から分離された乳酸菌 Lactobacillus acidophilus AC 株を加熱不活化して与え、成長と腸の状態への影響を調べました。
2つの濃度で56日間与えて比較
研究チームは、培養した菌液を70℃で10分間加熱し、菌が増殖しなくなったことを確認しました。この菌液を市販の配合飼料に吹き付けて、2種類の試験飼料を作りました。菌の量は、生きた菌の数の目安となる単位CFU(コロニー形成単位)で、飼料1グラムあたり100億(1×10の10乗)CFUのグループと、1000億(1×10の11乗)CFUのグループです。比較対照のグループには、菌を含まない緩衝液を吹き付けた飼料を与えました。
稚魚は海上の生けすで、各グループ3つの生けす(1つに30尾)に分けて飼育し、56日間給餌しました。試験後、体重の増え方や肥満度(体重と体長の関係から見た太り具合)を調べました。さらに、腸の組織を顕微鏡で観察したほか、腸内細菌の構成を遺伝子解析で調べ、腸の中の代謝物(体内の化学反応で作られる物質)を網羅的に分析しました。
体重の増加に差はなく、腸の構造や代謝物に変化
体重の増加率や1日あたりの成長率は、菌の濃度が高いほど上がる傾向を示しましたが、対照グループとの差は統計的に意味のあるものではありませんでした。一方、肥満度は100億CFUのグループで対照より有意に高くなりました。
腸の組織では、栄養を吸収する突起である「絨毛」が、100億CFUのグループで対照より長くなりました。また、腸の表面を守る粘液を分泌する「杯細胞」の数は、1000億CFUのグループで多くなりました。
腸内細菌については、細菌の種類の数を示す指標にはグループ間で差がありませんでした。ただし、多様性を表す指標の一つが1000億CFUのグループで有意に低下しました。著者らは、この差はごく小さいと述べています。菌を与えたグループでは、放線菌門と呼ばれる細菌グループが増える傾向が見られ、スフィンゴモナス属などの細菌もやや多くなりました。
代謝物の分析では、対照と比べて、100億CFUのグループで17種類が増え48種類が減りました。1000億CFUのグループでは3種類が増え61種類が減りました。どちらの濃度でも、変化した代謝物は共通して、胆汁酸の合成、ステロイドの合成、ポルフィリン代謝という3つの代謝経路に関係していました。100億CFUのグループでは、細胞膜の成分であるリン脂質などが増えていました。1000億CFUのグループでは、脂質の消化に関わる胆汁酸の仲間が減っていました。
成長を直接高めるより、腸の状態と代謝を整える
著者らは、加熱不活化したこの乳酸菌は成長を直接押し上げるのではなく、腸の構造や代謝のバランスを整えることで間接的に働いていると解釈しています。濃度による違いについては、100億CFUで最も好ましい反応が見られたと結論づけています。1000億CFUに増やしても追加の利点は見られず、脂質代謝への影響など、むしろ好ましくない兆候も現れたと報告しています。
この研究は、加熱して死滅させた乳酸菌でもフウセイの腸に変化をもたらしうることを示しました。あわせて、与える量は多ければよいわけではなく、適切な量を見極める必要があることも示しています。
原著論文の著者・所属:Linfeng Huang(College of Marine Science and Technology, Zhejiang Ocean University, Zhoushan, 316022, China)、Jiahang Xu(College of Marine Science and Technology, Zhejiang Ocean University, Zhoushan, 316022, China)、Zhiqiang Ran(College of Marine Science and Technology, Zhejiang Ocean University, Zhoushan, 316022, China)、Shanshan Wang(College of Marine Science and Technology, Zhejiang Ocean University, Zhoushan, 316022, China)、Haoyu Qiu(College of Animal Sciences Zhejiang University, Hangzhou, 310058, China)、Chenzhi Tao(College of Marine Science and Technology, Zhejiang Ocean University, Zhoushan, 316022, China)、Ping Wang(College of Marine Science and Technology, Zhejiang Ocean University, Zhoushan, 316022, China)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Linfeng Huang, Jiahang Xu, Zhiqiang Ran, et al. Effects of heat-inactivated Lactobacillus acidophilus AC on growth performance and intestinal health of Larimichthys crocea. Israeli Journal of Aquaculture - Bamidgeh 2026-08-06. DOI: 10.46989/001c.166215. 原著ライセンス:CC BY.