著者の所属・活動拠点の国は、エジプトです。
掲載誌:Food systems
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
病気を起こさない微生物や、その微生物が作る抗菌性の物質を使って食品を長持ちさせる考え方は「バイオ保存」と呼ばれます。乳酸菌が作る抗菌性のタンパク質性物質「バクテリオシン」はその候補の一つです。論文によると、バクテリオシンは米国食品医薬品局(FDA)で一般に安全と認められており、幅広いpHや温度で安定です。一方で、主に効くのはグラム陽性菌で、グラム陰性菌は外側の膜の構造のため効きにくいとされています。
研究チームは、乳酸菌の一種ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis subsp. lactis)が脱脂乳の中で作るバクテリオシンの量を増やすことを目指しました。著者らによれば、牛乳には菌がすぐに使える遊離の窒素源が少なく、この菌の仲間は牛乳のタンパク質を分解する力が弱いと報告されています。そこで、外から加える微生物由来のタンパク質分解酵素(プロテアーゼ)で脱脂乳をあらかじめ処理することに着目しました。著者らは、この酵素前処理を最適化の条件の一つとして組み込んだ報告は、自分たちの知る限りこれまでにないと述べています。
何をどのように調べたか
まず、5種類の乳酸菌株を比べました。その結果、ラクトコッカス・ラクティスの株が、試した指標菌の多くに対して最も強い抗菌活性を示しました。この株を脱脂乳、乳酸菌用の培地(MRS)、ホエイの3種類で育てて比べたところ、脱脂乳で育てた場合に最も高い活性が得られ、ホエイでは活性がかなり低くなりました。
抗菌活性は、寒天培地に作った小さな穴に試料を入れ、周りで標的の菌が育たなくなった円(阻止円)の直径をミリメートルで測る方法で評価しました。主な標的には、グラム陽性菌の黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)とグラム陰性菌の大腸菌(Escherichia coli)が使われました。
最適化は2段階で行われました。第1段階では、発酵時間、発酵前のpH、酵素前処理の濃度を一つずつ変えて影響を調べました。酵素には麹菌(Aspergillus oryzae)由来のプロテアーゼを使い、脱脂乳に加えて37℃で短時間作用させた後、加熱して反応を止め、殺菌してから乳酸菌を植え付けました。
第2段階では「応答曲面法」と呼ばれる統計的手法を使いました。これは複数の条件を同時に組み合わせて少ない回数の実験を行い、その結果から条件と効果の関係を表す数式(モデル)を作って最も良い条件を探す方法です。研究チームは「中心複合計画」という実験の組み方で19通りの条件を試し、酵素濃度、発酵時間、pHの3つが阻止円の大きさにどう影響するかを解析しました。
主な結果
第1段階では、発酵48時間、pH 6.0、酵素2.5%の前処理で、黄色ブドウ球菌に対して20.5mm、大腸菌に対して16.0mmの阻止円が得られたと報告されています。酵素で前処理した脱脂乳では、処理しない場合より菌の増殖も多く、いずれの条件でも抗菌活性は48時間前後で最大となり、その後は低下しました。著者らは、発酵が長すぎるとバクテリオシンが分解されたり働きを失ったりする可能性を挙げています。
第2段階で作った数式は、実験結果とよく一致していました。当てはまりの良さを示す決定係数(R²、1に近いほど良い)は、黄色ブドウ球菌で0.9932、大腸菌で0.9807でした。3つの条件のうち抗菌活性への影響が最も大きかったのは発酵時間で、次が酵素前処理、最も小さかったのがpHでした。
モデルから導かれた最適条件は、酵素1.5%の前処理、発酵44.9時間、pH 6.3でした。この条件で実際に確かめたところ、阻止円は黄色ブドウ球菌で21.2mm、大腸菌で15.7mmとなり、予測値(20.1mmと14.6mm)に近い値でした。研究チームは、2段階の最適化により抗菌活性が全体でそれぞれ31.7%、11.4%高まったと報告しています。どの段階でも、大腸菌より黄色ブドウ球菌に対する効果が大きく、これはバクテリオシンが主にグラム陽性菌に効くという既知の傾向と一致すると著者らは述べています。
この研究が示すこと
この研究は、脱脂乳を前もってタンパク質分解酵素で処理するという工夫と、統計的な条件探索を組み合わせることで、乳酸菌が作る抗菌物質の活性を高められることを示しました。特に発酵時間の調整が重要であることも明らかになりました。著者らは、こうした手法が食品の保存に役立つバクテリオシン生産を改善する可能性を持つとしています。
原著論文の著者・所属:W. A. Bazaraa(Department of Food Science, Faculty of Agriculture, Cairo University)、R. M. Mohamed(Department of Food Science, Faculty of Agriculture, Cairo University)、S. N. Abdel-Khader(Department of Food Science, Faculty of Agriculture, Cairo University)、T. G. Abedelmaksoud(Department of Food Science, Faculty of Agriculture, Cairo University)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):W. A. Bazaraa, R. M. Mohamed, S. N. Abdel-Khader, et al. Response surface optimization for enhanced bacteriocins production by Lactococcus lactis subsp. lactis. Food systems 2026-10-22. DOI: 10.21323/2618-9771-2026-9-3-386-394. 原著ライセンス:CC BY.