著者の所属・活動拠点の国は、インドです。

掲載誌:Frontiers in Marine Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的:酸化しやすい魚油を守る「殻」の材料を探す

魚油には、オメガ3系と呼ばれる長鎖の多価不飽和脂肪酸が含まれます。一方で酸化しやすいため、食品やサプリメントなどの製品に加えにくいという課題があります。

この課題への対策として、論文はマイクロカプセル化に注目しています。マイクロカプセル化とは、油を微小な粒の中に閉じ込め、周りを「壁材」で包む技術です。壁材が酸素などの外部要因から油を隔てる物理的なバリアになります。代表的な製法は噴霧乾燥(スプレードライ)で、液体を細かい霧にして熱風で一気に乾かし、粉末にします。著者らによると、この方法は操作が簡単で費用面でも有利で、規模を拡大しやすい手法です。

ただし、噴霧乾燥による魚油のカプセル化で検討されてきた壁材は限られています。著者らは、分子量の異なるキトサン(この研究ではエビの殻由来)をたんぱく質や多糖類と組み合わせたとき、イワシ油カプセルの安定性がどう変わるかは十分に分かっていないと指摘します。そこで研究チームは、低分子量と中分子量のキトサンに牛ゼラチンとマルトデキストリン(でんぷん由来の糖質)を組み合わせた壁材でイワシ油のカプセルを作り、その性質を比べました。

何を調べたか:4種類の配合を作り、保存中の酸化を追跡

研究チームは、キトサンの種類(低分子量か中分子量か)と配合の割合を変えて、4種類のイワシ油乳化液(SE1〜SE4)を作りました。乳化液とは、油を水の中に細かく分散させた液体です。SE1とSE2には低分子量キトサン、SE3とSE4には中分子量キトサンを使っています。これらを噴霧乾燥して粉末状のカプセルにしました。

作った粉末は密閉容器に入れ、室温(約28℃)と冷蔵(4℃)の2条件で21日間保存しました。1週間ごとに取り出して性質を調べています。なお、湿度は個別に管理せず、通常の実験室環境で保管したと論文には記されています。

主な評価項目は次のとおりです。乳化液の段階では、油滴の大きさとそのばらつき、粘度を測りました。粉末については、水分量、カプセル化効率、粉の流れやすさ、保存中の酸化の進み具合を調べました。カプセル化効率は、油のうちどれだけが表面に露出せず粒の内部に保持されているかを示す指標です。酸化の進み具合は、TBARS値で評価しました。TBARS値は、脂質が酸化してできる分解物の量を測る指標で、値が低いほど酸化が進んでいないことを意味します。

主な結果:中分子量キトサンを使ったSE3が最も酸化に強かった

乳化液の段階では、キトサンの分子量が大きいほど油滴が大きく、大きさのばらつきも広がる傾向がありました。粘度にもはっきりした差が出ています。低分子量キトサンのSE1・SE2は約9cPでしたが、中分子量キトサンのSE3・SE4は約94cPと大幅に高い値でした。

粉末の水分量は2.49〜4.23%でした。著者らは、噴霧乾燥した油脂粉末として一般に許容される範囲内だと述べています。カプセル化効率は配合によって53.26〜82.06%と大きく異なり、SE3が最も高く(82.06%)、SE2が最も低い値でした。

粉の流れやすさは、カー指数とハウスナー比という2つの指標で評価しました。どちらも、ゆるく詰めたときと、たたいて締め固めたときのかさの差から求め、値が低いほど流れやすいことを示します。4種類のうちSE3が最も低い値(カー指数26.93、ハウスナー比1.37)を示しました。ただし著者らは、基準に照らすと全試料が「流れにくい」区分に入ったと報告しています。

保存試験では、SE3が室温・冷蔵のどちらの条件でも、21日間を通して一貫して最も低いTBARS値を示しました。室温ではおおむね0.41〜0.54、冷蔵では0.44〜0.60mg MDA/kgの範囲です。ほかの配合では、時期によって2〜3mg MDA/kg台まで上がるものもありました。また論文は、冷蔵保存によってすべての試料で安定性がさらに高まったとしています。

研究が示すこと

著者らは、中分子量キトサン、牛ゼラチン、マルトデキストリンを組み合わせたSE3の壁材が、イワシ油の担体として効果的だと結論づけています。考察では、中分子量キトサンの膜をつくる性質によって緻密な壁ができ、油の保持と酸化の抑制につながった可能性を挙げています。

この研究は、同じ材料の組み合わせでも、キトサンの分子量や配合を変えるだけでカプセルの性質や酸化のしにくさが大きく変わることを示しました。あわせて、保存温度も品質を左右する重要な要因であることが分かりました。著者らは、こうしたカプセルを、オメガ3脂肪酸を食品などに加えるための素材として有望だと位置づけています。

原著論文の著者・所属:Annamalai Jeyakumari(Fish Processing Division, Indian Council of Agricultural Research (ICAR)-Central Institute of Fisheries Technology)、Vinod Abhiroop(Fish Processing Division, Indian Council of Agricultural Research (ICAR)-Central Institute of Fisheries Technology)、Krishnamoorthy Elavarasan(Fish Processing Division, Indian Council of Agricultural Research (ICAR)-Central Institute of Fisheries Technology)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Annamalai Jeyakumari, Vinod Abhiroop, Krishnamoorthy Elavarasan. Microencapsulation of sardine fish oil using different molecular weight chitosan and polymer blends: a comparative study on oxidative stability and encapsulation characteristics. Frontiers in Marine Science 2026-10-15. DOI: 10.3389/fmars.2026.1906530. 原著ライセンス:CC BY.