著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:Food Science & Nutrition

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究のねらい

アイスクリームは、空気の泡、脂肪の粒、氷の結晶、そして凍りきらない水分が入り混じった複雑な食品です。そのため、保存中に形や食感を安定して保つことは製造上の難しい課題とされています。一般にはグアーガムやカラギーナンなどの多糖類が安定剤として加えられますが、量や他の原料との組み合わせによっては、ガムのような好ましくない食感につながることもあるといいます。

そこで研究チームが注目したのが、ヒアルロン酸です。ヒアルロン酸は糖がつながった鎖状の分子で、多くの水を抱え込み、液体にとろみを与える性質があります。牛乳やプロセスチーズでは保水性や構造への影響がすでに報告されていますが、分子の大きさ(分子量)によって働きが変わることも知られています。著者らによれば、ヒアルロン酸の分子量がアイスクリームの性質にどう影響するかについては、これまで情報が限られていました。なお論文は、米国食品医薬品局(FDA)がヒアルロン酸をすべての食品分類で使える一般的な食品添加物としては承認していない一方、日本、韓国、中国、欧州連合の一部などでは食品への使用が認められていると紹介しています。

この研究の目的は、分子量の異なるヒアルロン酸を安定化のための原料として使ったとき、アイスクリームの物理的・化学的な性質、流れや変形のしかた、食感がどう変わるかを調べることです。従来の安定剤をそのまま完全に置き換えられると示すことは目的としていない、と著者らは明記しています。

どのように調べたか

研究チームは、クリーム、脱脂乳、脱脂粉乳、砂糖、粉末コーンシロップを基本とする同じ配合でアイスクリームを作りました。比較の基準となる対照には、市販の安定剤を0.3%加えました。この安定剤には、グアーガムなどの安定剤成分に加え、乳化剤(油と水をなじませる成分)も含まれています。一方、試験用の試料では、この市販品の代わりに、分子量が320、980、1550、2550キロダルトンの4種類のヒアルロン酸を、それぞれ同じ0.3%で使いました。ヒアルロン酸の試料には乳化剤を加えていません。

凍らせる前の液体(アイスクリームミックス)については、4℃で21日間保存したときの分離の程度を調べました。脂肪分が上に浮いて水分の層が分かれる度合いを「クリーミング指数」として表し、値が高いほど分離が進んでいることを示します。あわせて、ミックスの粘り気(粘度)と、弾性的な性質と液体的な性質の強さを専用の装置で測りました。

できあがったアイスクリームについては、空気をどれだけ含んだかを示す「オーバーラン」、マイナス20℃での硬さと付着性、そして25℃の室内で溶けていく速さを測定しました。

主な結果

21日間の保存では、すべてのミックスで分離が徐々に進みました。21日目に分離の程度が最も大きかったのは、対照と320キロダルトンの試料で、クリーミング指数は40%を超えました。これに対し、1550キロダルトンと2550キロダルトンの試料では値が大幅に低く、2550キロダルトンでは21日後もほとんど分離が見られなかったと報告されています。

ミックスの粘度と弾性・液体的性質の強さは、ヒアルロン酸の分子量が大きいほど高くなる傾向がはっきり見られました。最も高かったのは2550キロダルトンの試料で、320キロダルトンの試料と対照では明らかに低い値でした。粘度が最も低かったのは対照でした。

アイスクリームとしての性質では、含まれる空気の量(オーバーラン)は約29〜31%で、試料間に意味のある差はありませんでした。硬さについては、980、1550、2550キロダルトンの3試料が、対照と320キロダルトンの試料よりも明らかに硬く、この3試料どうしには差がありませんでした。付着性には差が見られませんでした。溶ける速さは、1550キロダルトンと2550キロダルトンの試料が、対照や320キロダルトンの試料より明らかに遅かったと報告されています。

著者らは、これらの違いの背景として、分子量の大きいヒアルロン酸がもつ高い保水性や粘度が関わっている可能性を挙げています。ただし、そうした仕組みはこの研究では直接測っておらず、仮説の段階だとしています。

この研究が示すこと

今回の結果から、ヒアルロン酸は分子量によってアイスクリームへの影響が大きく異なり、特に分子量の大きいものほど、ミックスの分離しにくさ、粘り、硬さ、溶けにくさといった性質に変化をもたらすことが示されました。著者らは、分子量の大きいヒアルロン酸が、冷凍乳製品デザートの構造を整える原料、あるいは部分的な代替原料となる可能性があるとしています。

一方で著者らは、対照には乳化剤が含まれ、ヒアルロン酸の試料には含まれていなかった点を重要な限界として挙げています。観察された違いには乳化剤の有無も関わっている可能性があり、この結果は従来の安定剤・乳化剤を完全に置き換えられることを示すものではないと述べています。この研究は、食品原料としてのヒアルロン酸を考えるうえで「分子の大きさ」が重要な条件になることを具体的に示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Rutvi Joshi(Dairy and Food Science Department, Midwest Dairy Foods and Research Center South Dakota State University Brookings South Dakota USA)、Mahmoud E. A. Hamouda(Dairy and Food Science Department, Midwest Dairy Foods and Research Center South Dakota State University Brookings South Dakota USA)、Prafulla Salunke(Dairy and Food Science Department, Midwest Dairy Foods and Research Center South Dakota State University Brookings South Dakota USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Rutvi Joshi, Mahmoud E. A. Hamouda, Prafulla Salunke. Effect of Hyaluronic Acid Molecular Weight on Physicochemical and Rheological Properties of Ice Cream. Food Science & Nutrition 2026-10-01. DOI: 10.1002/fsn3.72444. 原著ライセンス:CC BY.