この研究は、アメリカ、韓国、シンガポールの研究機関の研究論文です。
掲載誌:Molecules
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的
ママキ(学名 Pipturus albidus)は、ハワイ諸島にだけ自生するイラクサ科の低木です。葉を湯に浸してハーブティーとして飲む習慣が古くからあり、ストレスや不安をやわらげる、アレルギーに用いる、血圧やコレステロールを整えるといった伝統的な用途が記録されてきました。しかし研究チームによれば、この植物にどのような化学成分が含まれ、それぞれがどんな働きを持つのかを体系的に調べた研究はこれまで行われていませんでした。
そこで著者らは、ママキの葉から成分を一つずつ取り出して構造を確かめ、それらの抗酸化のはたらきと、血管の細胞における炎症関連の反応を調べることを目的としました。あわせて、緑茶に多く含まれるカフェインなどの成分がママキにも含まれているのかを測定し、緑茶との違いを明らかにしようとしました。
何をどう調べたか
研究チームはママキの葉のエタノール抽出物を段階的に分けていき、最終的に12種類の化合物を単離しました。核磁気共鳴(NMR)や質量分析といった、分子の構造を読み取るための分析法を用い、既に報告されているデータと照らし合わせて、それぞれがカテキン類、フラボノイド類、フェニルプロパノイド類、桂皮酸・安息香酸の誘導体などに当たることを確認しています。
取り出した化合物については、抗酸化のはたらきを3種類の試験で評価しました。DPPH法は試薬の色の変化から、活性の高い分子(ラジカル)を打ち消す力を測るもの、FRAP法は鉄イオンに電子を渡す力を測るもの、ORAC法はペルオキシルラジカルと呼ばれる種類のラジカルを、時間をかけて打ち消し続ける力を測るものです。いずれも細胞を使わない試験管内の化学反応による評価です。
炎症に関しては、ヒトの大動脈内皮細胞(HAEC、血管の内側を覆う細胞)を使いました。炎症を引き起こす物質であるTNF-αで細胞を刺激すると、IL-8という物質(白血球を呼び寄せるはたらきを持つ)の遺伝子の働きが強まります。著者らは抽出物や単離した化合物を加えたときに、このIL-8の遺伝子発現量がどう変わるかを定量PCRで測定しました。単離量が限られていたため、細胞を使った評価は粗抽出物と、優先した3つの化合物に絞られています。
さらにLC-MS/MS(液体クロマトグラフィーと質量分析を組み合わせた高感度な定量法)で、カフェイン、テオブロミン、テオフィリン、EGCG(緑茶の代表的なカテキン)の含有量を、市販の緑茶抽出物と比べて測定しました。
報告された主な結果
抗酸化試験では、化合物によって成績が大きく異なりました。論文の報告では、シンコナインIa、ビテキシン、および(7S,8R)-ジヒドロデヒドロジコニフェリルアルコールが強いラジカル消去能・還元能を示したとされています。FRAP法ではビテキシンが最も高い還元力を示し、ORAC法ではシンコナインIaと前述のリグナン化合物が粗抽出物を上回りました。一方、最も構造が単純な4-ヒドロキシ安息香酸は、水酸基が一つしかなく分子の広がりも小さいため、どの試験でも最も弱い結果だったと説明されています。
血管内皮細胞での試験では、注目すべき結果が報告されています。粗抽出物とビテキシンでは、TNF-α刺激のみの対照群と比べてIL-8のmRNA量に統計的に意味のある差は見られませんでした。これに対し、カテキン-(7,8-bc)-4a-(3,4-ジヒドロキシフェニル)-ジヒドロ-2(3H)-ピラノンとトランス-フェルラ酸では、IL-8のmRNA発現が有意に増加しました。著者らはこれを、これらの成分が試験した条件下で炎症を促す方向に働いた可能性を示すものと述べ、単離した成分を高用量で摂取する場合の安全面の懸念として指摘しています。
定量分析では、ママキの4つの抽出物すべてで、カフェイン、テオブロミン、テオフィリン、EGCGが検出限界を下回りました。同じ方法で測った緑茶抽出物ではカフェイン5.495%、EGCG 3.496%など、いずれも明確に検出されています。著者らは、この対照試料での結果が分析法の信頼性を裏づけるとしたうえで、ママキが緑茶とは異なる化学的な構成を持つことを示す結果だとしています。
なお著者らは、試験管内の化学的な抗酸化データを、そのまま体内での効果に当てはめることはできないと明記しています。また、EGCGが検出されなかったことは緑茶との成分の違いを示すものであって、ママキの製品の安全性が確かめられたことを意味するものではないとも述べています。
この研究が示すこと
この研究は、伝統的に飲まれてきた植物の中身を化学的に分解して確かめた、最初のまとまった報告です。ママキはカフェインやEGCGを含まない、緑茶とは別系統の成分構成を持つ植物として位置づけられました。
同時にこの研究は、植物由来の成分が一様に「体に良い」わけではないことも示しています。同じ葉から取り出された成分の中に、試験管内では高い抗酸化力を示すものと、血管細胞では炎症関連の指標を押し上げるものが混在していました。植物全体の伝統的な利用と、そこから取り出した単一成分の働きは、別々に検討する必要があるということです。
著者:Pornphimol Meesakul(Department of Pharmaceutical Sciences, Daniel K. Inouye College of Pharmacy, University of Hawai’i at Hilo, 200 W. Kawili St., Hilo, HI 96720, USA)、Kyung Ah Kim(School of Pharmacy, Sungkyunkwan University, 2066 Seobu-ro, Jangan-gu, Suwon 16419, Republic of Korea)、Yaru Si(Department of Biology, University of North Carolina at Greensboro, 321 Mciver St. 312, Greensboro, NC 27412, USA)、Yutaka Kuroki(Delightex Pte. Ltd., 230 Victoria Street, #15-01/08 Bugis Junction Towers, Singapore 188024, Singapore)、Aya Wada(Delightex Pte. Ltd., 230 Victoria Street, #15-01/08 Bugis Junction Towers, Singapore 188024, Singapore)、Kaitlin Villafuerte(Department of Pharmaceutical Sciences, Daniel K. Inouye College of Pharmacy, University of Hawai’i at Hilo, 200 W. Kawili St., Hilo, HI 96720, USA)、Zhenquan Jia(Department of Biology, University of North Carolina at Greensboro, 321 Mciver St. 312, Greensboro, NC 27412, USA)、Ki Hyun Kim(School of Pharmacy, Sungkyunkwan University, 2066 Seobu-ro, Jangan-gu, Suwon 16419, Republic of Korea)、Shugeng Cao(Department of Pharmaceutical Sciences, Daniel K. Inouye College of Pharmacy, University of Hawai’i at Hilo, 200 W. Kawili St., Hilo, HI 96720, USA)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Pornphimol Meesakul, Kyung Ah Kim, Yaru Si, et al. Evaluation of Interleukin-8 (IL-8) Expression in Human Aortic Endothelial Cells (HAECs) and Antioxidant Activity of Isolated Compounds from the Endemic Hawaiian Plant Pipturus albidus (Māmaki). Molecules 2026-09-28. DOI: 10.3390/molecules31193449. 原著ライセンス:CC BY.