この研究は、アメリカの研究機関の研究論文です。

掲載誌:Future Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

なぜ培養肉の「質」を問うのか

培養肉とは、動物から採取した細胞を培養液の中で増やし、筋肉や脂肪の細胞へと育てて作る肉のことです。増え続ける肉の需要に、より持続可能で動物にも配慮した形で応える方法の一つとして提案されてきました。著者らによると、2025年10月時点で、シンガポール、米国、イスラエル、オーストラリア・ニュージーランド、英国などで、鶏肉、牛肉、豚脂、サケなどの培養製品が販売に必要な規制上の承認を受けたり、承認手続きが進んだりしています。

一方で、培養肉が市場で受け入れられるには、量産やコストの課題を解決するだけでは足りません。従来の肉に期待される風味や食感、栄養を備えている必要があります。このレビュー論文はこの点に注目し、これまでに発表された培養肉の試作品と従来の肉との差を、風味・食感・栄養の三つの面から整理しました。差を洗い出すのは技術の可能性を否定するためではなく、どこを研究すれば効率よく改善できるかを見極めるためだと著者らは述べています。また、近い将来の培養肉は、植物性たんぱく質を主体に培養細胞を加えて風味や食感、栄養を補う「ハイブリッド製品」が中心になると想定し、その前提で議論を進めています。

肉の風味はどこから生まれるのか

論文はまず、従来の肉の風味がどのように生まれるかを確認しています。舌で感じる味では、グルタミン酸などのアミノ酸や核酸系の成分によるうま味が中心で、これに弱い苦味、酸味、甘味、塩味が加わります。一方、肉らしい香りの多くは生の状態にはなく、加熱調理の過程で生じます。

香りを生む主な反応として、著者らは次の三つを挙げています。アミノ酸と糖が反応して焼き色や香ばしさを生むメイラード反応、脂質の酸化、そしてビタミンB1(チアミン)の分解です。脂肪は鶏・豚・牛といった動物種ごとの特有の風味に特に関わるとされ、なかでも細胞膜を構成するリン脂質の役割が大きい可能性を示す証拠もあると紹介されています。

培養肉の風味について分かってきたこと

著者らによると、人が実際に食べて風味を評価した研究はまだごく少数です。多くの研究は、電子舌(味に関わる成分を測る装置)やガスクロマトグラフィー質量分析(香り成分を分離・同定する方法)といった機器による測定にとどまっています。初期の試食では「肉らしい」「牛肉らしい」という感想が得られました。ただしこれらは、参加者がそれぞれ3人で、何を食べているかを伏せずに行われたものでした。市販品の試食会では、面接を受けた18人中11人が「おいしかった」と答えた一方、15人中11人が「改善してほしい」と答えています。別の培養鶏肉製品では、107人の回答による「おいしさ」の平均は5点満点中4.21点でした。

より厳密な比較の例もあります。何を食べているかを伏せたうえで、大豆たんぱくに培養鶏脂を加えたハイブリッド製品と、同じ大豆たんぱくだけで作った製品を比べた試験では、参加者30人の67%がハイブリッド製品を選びました。豚の培養細胞を加熱して作った香り成分の抽出物を、培養細胞1.2%相当の量だけ餃子に加えた研究では、6人の評価者が、従来の豚肉餃子との類似度を抽出物入りで78.5%、植物性のみで42.5%と評価しました。わずかな量の培養細胞でも、植物性のみの製品より風味の面で利点がありうることを示す結果です。

培養豚脂と従来の豚脂の香りを比べた研究では、全体として両者は非常によく似ていました。好ましさの平均評価(55人)は従来品の方がわずかに高かったものの、その差は統計的に有意ではありませんでした。ただし「かび臭い」「家畜小屋のような」という表現は、培養品に対して有意に多く使われました。

電子舌による複数の研究を比べると、明確な傾向はあまり見られませんでした。うま味が過剰と測定された例は多いものの、逆の結果の研究もありました。塩味がずれていた研究は5件ありましたが、強すぎるか弱すぎるかは一定しませんでした。このため著者らは、味の調整は製品ごとに進める必要があるだろうと述べています。複数の研究に共通していたのは、培養肉では鶏らしさや豚らしさといった動物種特有の風味が弱いという点でした。

風味を改善する手がかり

著者らは、培養液の組成を比較的単純に変えるだけで香りを調整できる可能性を示す研究を紹介しています。例えば、豚の脂肪細胞を育てる培養液に、肉の赤い色素たんぱく質であるミオグロビンを加えた研究では、加熱後に30種類の香り成分が有意に増え、2種類が減りました。ただし、これらの成分が実際の香りの感じ方にどう影響するかは、人による官能評価で確かめる必要があると著者らは指摘しています。

論文では、香りを改善するための進め方も整理されています。まず官能評価と機器分析を組み合わせて、不快な香りや足りない香りと、その原因となりうる成分を特定します。次に、その成分が調理中にどう生じるか、元になる物質が細胞内でどう作られるかを既存の知見から推測し、培養条件を調整したうえで再び評価します。具体例として著者らは、「家畜小屋のような」「かび臭い」香りとの関連が示唆されたヘキサン酸を挙げています。また、量によって好ましい香りにも不快な香りにもなりうる2-ペンチルフランについても検討しています。ただしこれらは限られた研究に基づく暫定的な仮説であり、研究の優先課題を示すものではなく、考え方の枠組みを示す例だと位置づけています。

このレビューが示すこと

著者らによると、培養肉の証拠の質や現時点での出来は、風味・食感・栄養の分野ごとにばらつきがあり、技術全体としてはまだ初期段階にあります。それでも、個々の指標で従来の肉にかなり近い試作品はすでに作られており、培養液や工程といった基本的な部分の改善によって、風味や栄養をさらに高める余地は大きいとされています。

このレビューは、培養肉の「おいしさ」や「肉らしさ」を、成分のでき方から順に理解し、培養条件の調整によって改善していくための見取り図を示しています。製品の完成度を高める責任は主に各企業にありますが、分野全体に共通する課題の解明には学術研究が重要な役割を担い、組織工学、材料科学、食品科学、官能科学などの分野をまたいだ協力が必要だと著者らは述べています。

著者:Molly Friedman(Department of Science and Technology, The Good Food Institute, PO Box 96503 PMB 42019, Washington, DC 20090-6503, USA)、Claire Bomkamp(Department of Science and Technology, The Good Food Institute, PO Box 96503 PMB 42019, Washington, DC 20090-6503, USA)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Molly Friedman, Claire Bomkamp. Ensuring quality in cultivated meat: A review of recent developments in flavor, texture, and nutrition. Future Foods 2026-09-30. DOI: 10.1016/j.fufo.2026.101214. 原著ライセンス:CC BY.