掲載誌:Theory and practice of meat processing
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
なぜ発酵ソーセージにプロバイオティクスなのか
プロバイオティクスとは、摂取することで健康に良い働きをもたらすとされる生きた微生物のことです。著者らは、こうした微生物を含む食品の摂取が、消化や腸内細菌叢の支援から代謝、免疫、心理・情緒面まで幅広い健康上の利点につながると紹介しています。
サラミのような乾燥発酵ソーセージにプロバイオティクスを取り入れる研究は、前世紀末から行われてきました。しかし、こうした製品はまだ大量生産に至っていません。著者らはその理由として、従来の乾燥ソーセージへの根強い需要と、肉製品に適した市販のプロバイオティクス微生物が不足していることを挙げています。さらに近年は加工肉の健康面への見方が変わり、伝統的な発酵肉製品に健康上の利点を加える方法への研究者の関心が高まっているといいます。
この論文は新たな実験を行った研究ではなく、2016〜2026年に発表された実験研究の結果を体系的に整理し評価したレビューです。菌株の選び方と肉への適応、レシピや製造条件への影響、消費者の健康への効果を示す根拠をまとめることを目的としています。
どのように文献を選んだか
研究チームは学術データベースのScienceDirectで「probiotic dry fermented sausages」というキーワードを使い、過去10年間の文献を検索しました。最初に見つかったのは362件でした。この分野の発表件数は年々増えており、研究への関心の高まりがうかがえるとしています。
実際にソーセージを開発・分析して得られた一次データを検討するため、レビュー論文やオープンアクセスでない論文は除外されました。残った171件の研究論文に、菌株の選定、レシピと製法、菌の生存と健康への影響、消費者にとっての品質改善といった内容面の基準を当てはめ、最終的に17件が分析の対象になりました。選定は2人の著者がそれぞれ独立して行い、意見が分かれた場合は他の著者と話し合って決めたとされています。
主な結果:菌の選び方、レシピ、生き残り
17件の研究では、ビフィズス菌、腸球菌、ラクトコッカス、乳酸桿菌など11種のプロバイオティクス微生物が使われていました。最も多かったのはL. rhamnosusとL. plantarumで、それぞれ29%の研究で使われていました。L. caseiが24%で続きます。菌の入手先は、健康効果が長く確かめられてきた市販品が35%で最も多く、公的なコレクションからの菌株が24%でした。肉に由来する菌株は18%、ヒト由来とチーズ由来はそれぞれ12%でした。遺伝子組換え菌株を使った研究は見当たらなかったと報告されています。
使い方には大きく2つの考え方がありました。1つは、発酵を進める「スターター」の役割と健康上の役割を1つの菌で兼ねる方法です。もう1つは、健康のためだけに加え、食べるまで製品の中で生き残ることを主な役割とする方法です。全体の65%の研究は前者を選んでいました。
レシピでは、脂肪を減らす傾向がはっきり見られました。従来の乾燥ソーセージでは赤身と脂肪の比が70:30程度ですが、この比率を使った研究は12%にとどまりました。一方、80:20またはさらに赤身の多い配合は59%の研究で採用されていました。食塩も減らす傾向があり、10年前には原料肉100kgあたり2.7〜3.5kgとされていた添加量が、最近の研究では1.8〜3.0%程度になっています。著者らは、これは栄養面の流れに加えて、プロバイオティクスが育ち生き残りやすい環境をつくる狙いもあると説明しています。ただし安全性を確保するため、88%の研究では亜硝酸塩などの発色剤が従来どおり使われていました。
製造中の菌の数について、B. animalis、L. acidophilus、L. plantarum、L. caseiの菌株は肉の中で生き残るだけでなく、1gあたりの生きた菌数が10の2乗倍(100倍)以上に増えたと報告されています。一方、B. longum、E. durans、Lc. lactisでは菌数が減ったり死滅したりしたといいます。著者らはこれらについて、製品への利用は難しいか、肉の中で育つ条件を整える必要があると述べています。また、いずれの研究も、菌の特性に合わせて製造条件そのものを最適化することは検討していなかったと指摘しています。
論文の要旨では、長期間の製造と保存を経ても、1gあたり10の6乗〜10の8乗個の生きた菌を含む発酵ソーセージを作り、保つことができるとまとめています。さらに、1日30gの発酵肉製品を食べる場合、菌数が1gあたり10の6乗個未満でもプロバイオティクスとしての効果が見られるとも述べています。
この研究が伝えること
このレビューから見えてくるのは、発酵ソーセージを「伝統食品」から「健康を意識した食品」へ近づけようとする各国の研究の流れです。発酵をうまく制御する利点と健康上の利点を、1つの菌株で両立させる方向が特に注目されています。脂肪や食塩を減らすレシピの工夫もその一部です。
一方で著者らは、その実現には製造や保存の厳しい条件に耐えられる菌株の選定が欠かせないと強調しています。肉製品に適した菌株を選んでスターターとして整え、それを使う発酵工程の技術基準をつくることが、重要な研究領域として示されています。
原著論文の著者・所属:A. A. Semenova(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)、A. A. Motovilina(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)、T. V. Vasileva(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)、E. R. Vasilevskaya(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)、M. A. Grudistova(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)、Yu. K. Yushina(V. M. Gorbatov Federal Research Center for Food Systems)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):A. A. Semenova, A. A. Motovilina, T. V. Vasileva, et al. Improving consumer characteristics of fermented sausages with probiotics using. Theory and practice of meat processing 2026-10-11. DOI: 10.21323/2414-438x-2026-11-3-274-286. 原著ライセンス:CC BY.