チーズ製造時に大量に発生する副産物「ホエイ(乳清)」は、栄養価の高いタンパク質を含みながらも廃棄や飼料利用にとどまることが多く、食品への有効活用が課題とされてきました。ホエイをアイスクリームの原料として使う試みはその一つですが、乳脂肪や乳タンパクを主体とする従来のアイスクリームと比べて、食感や安定性の面で差が出やすいことが知られています。今回紹介する研究は、ポーランドのワルシャワ生命科学大学(SGGW)のAnna Kamińska‐Dwórznicka氏らのグループが、ホエイベースのアイスクリームに「微生物トランスグルタミナーゼ(MTGase)」という酵素を添加することで、物理化学的な性質や構造がどう変わるかを調べたものです。
MTGaseはタンパク質同士を結びつける働きを持つ酵素で、食品分野ではかまぼこなどの結着剤として知られています。研究チームは、この酵素をホエイベースアイスクリームに加えた試料と加えていない試料を用意し、さらに安定剤の有無も組み合わせて比較しました。評価した項目は、凍結温度、密度、融解にかかる時間、エマルション(乳化)の安定性、粒子の大きさの分布、粘度、そして氷の結晶構造と多岐にわたります。
研究でわかったこと
まず凍結温度については、各試料とも平均でおよそマイナス3.0℃となり、安定剤を加えずに酵素だけを添加した群を除いて、グループ間に明確な差は見られませんでした。一方で品質面に関わる変化として、MTGaseを添加した試料ではエマルションの安定性が高まり、保存中に氷の結晶が大きく成長する「再結晶化」が遅くなる傾向が確認されました。保存開始から24時間後と1か月後を比べた結晶サイズの差は1.0〜1.5マイクロメートルにとどまり、酵素を加えない場合よりも結晶の粗大化が抑えられたことが示されています。氷の結晶が小さく保たれることは、なめらかな食感を保つうえで重要な要素とされます。
粘度については、安定剤とMTGaseの両方を加えた試料が最も高い値を示し、エージング(熟成)前で351.10 mPa·s、エージング後には581.80 mPa·sに達しました。研究チームはこの結果について、タンパク質と安定剤が複合体を形成し、遊離した水分を取り込む能力が高まったためではないかと考察しています。これらの結果を踏まえ、著者らはMTGaseがホエイベースアイスクリームの粘度、乳化安定性、再結晶化への耐性といった品質特性を高めるうえで有効なバイオテクノロジー的手法であり、最終製品の質を損なうことなくホエイタンパク質を活用できる可能性を示すものだと結論づけています。
この研究の位置づけと読むうえでの注意
今回の内容は、特定の配合・条件のもとで行われた一つの実験研究の結果であり、あらゆるホエイ製品や酵素添加量に一般化できるとは限りません。また、報告されているのはあくまで物理化学的な特性や構造上の変化であり、風味の評価や、実際に商品として市場に出た際の受け入れられやすさについて述べたものではない点にも留意が必要です。健康への効果を評価した研究でもないため、ホエイアイスクリームやMTGase添加食品の摂取が特定の健康効果をもたらすと示唆するものではありません。
まとめ
この研究は、チーズ製造の副産物であるホエイを活用したアイスクリームにおいて、微生物トランスグルタミナーゼという酵素を加えることで、エマルションの安定性が高まり、保存中の氷結晶の粗大化が抑えられ、粘度も上昇する傾向が報告されたというものです。ホエイの有効活用という観点から興味深い知見ですが、一つの研究による結果であり、今後さらなる検証が積み重ねられていく分野だといえます。
※本記事は原著論文の翻訳ではなく、研究内容を独自に解説したものです。出典(原著論文):Anna Kamińska‐Dwórznicka, Anna Kot, Vitaliy Kolotylo, et al. Evaluation of the Properties of Whey Ice Cream by Adding Microbial Transglutaminase. 食品バイオプロセス技術誌 (2026). DOI: 10.1007/s11947-026-04544-2. 原著ライセンス: cc-by.