日本主導:この研究は、筆頭著者・責任著者、または著者の主要所属が日本の研究機関である研究です。
掲載誌:Current Allergy and Asthma Reports
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
食物繊維が免疫に働く仕組みを探る
著者らは、水溶性食物繊維が食物アレルギーの予防や治療にどう関わり得るかを検討するため、既存の研究をまとめました。対象は、ペクチン、イヌリン、βグルカン、マンナンの4種類です。細胞実験、動物実験、人を対象とした介入研究を取り上げ、腸内細菌やその代謝産物、免疫細胞への作用を整理しています。
背景にあるのは、腸内細菌の種類や量のバランスの乱れが、腸のバリア機能や免疫の調節に関わるという知見です。水溶性食物繊維は、水に溶けたりゲル状になったりする成分で、一般に腸内細菌によって発酵されやすい性質があります。著者らは、この発酵を介した働きと、食物繊維が細胞の受容体に直接働く経路の両方に注目しました。
腸内細菌の代謝産物と免疫の調節
論文では、腸内細菌が生み出す短鎖脂肪酸が、過剰な免疫反応を抑える制御性T細胞を増やすことや、アレルギー反応に関わる細胞の活動を抑えることが紹介されています。短鎖脂肪酸は、腸の粘液や細胞同士の結合を支えるタンパク質にも作用し、食物のアレルゲンが腸の壁を通過するのを防ぐ働きに関わるとされています。
ただし、腸内の代謝産物は、すべて同じ方向に作用するわけではありません。脂肪の吸収を助ける胆汁酸は、腸内細菌によって変化し、その種類によって免疫反応を抑える場合も、アレルギー性の炎症を促す場合もあります。著者らは、食物繊維の働きを理解するには、どのような代謝産物が生じるかを見ることが重要だと整理しています。
実験での抑制効果と、人で得られた知見
ペクチンについては、リンゴ由来の特定のペクチンが、マウスでモモの脂質輸送タンパク質(LTP)による食物アレルギーの発症を抑え、腸内の胆汁酸の組成も変えた研究が紹介されています。また、モモのLTPにアレルギーがある患者を対象に、リンゴ由来または柑橘由来のペクチンを1日20グラム、2か月摂取してもらった試験では、両ペクチン群のそれぞれ半数を超える患者で、食物負荷試験によるLTPへの耐性の向上が報告されました。一方、皮膚反応の検査やLTPに特異的なIgE抗体の値には、介入後の有意な差が認められませんでした。
イヌリンや一部のβグルカンでも、マウスの食物アレルギー反応を抑えた報告があります。しかし、人での食物アレルギーに対する効果は十分に確かめられていません。妊娠中にガラクトオリゴ糖とイヌリンを補給した試験では、子どもの食物アレルギーを予防する効果は認められませんでした。マンナンについては、アレルゲンと結合させて免疫療法に用いる研究が紹介されていますが、食物繊維として摂取した場合の食物アレルギーへの効果を示す情報は限られています。
種類や量によって働きは異なる
著者らが強調するのは、食物繊維の効果を一括りにできないことです。マウスでは、多量のイヌリンがアレルギー性の炎症を促した報告や、ある構造のβグルカンが食物アレルギーを悪化させた報告もありました。同じ名称の食物繊維でも、由来、分子の構造、大きさ、溶けやすさによって作用が異なり、摂取量や腸内細菌の構成も結果に関わると論文はまとめています。
この総説は、水溶性食物繊維が腸内細菌と免疫をつなぐ成分であることを示しています。一方、人での臨床的な根拠はまだ限られており、食物繊維を増やせば一律に食物アレルギーを防げる、あるいは治療できるという結論ではありません。
著者:Masako Toda(Laboratory of Food and Biomolecular Science, Graduate School of Agricultural Science, Tohoku University, Sendai, Japan. [email protected])、Andrea Wangorsch(Molecular Allergology, Paul-Ehrlich-Institut, Langen, Germany)、Yui Yajima(Laboratory of Food and Biomolecular Science, Graduate School of Agricultural Science, Tohoku University, Sendai, Japan)、Yingnan Guo(Laboratory of Food and Biomolecular Science, Graduate School of Agricultural Science, Tohoku University, Sendai, Japan)、Chaoqi He(Current Address: Cancer Center, Department of Breast Surgery, Zhejiang Provincial People's Hospital (Affiliated People's Hospital), Hangzhou Medical College, Hangzhou, China)、Stefan Vieths(Molecular Allergology, Paul-Ehrlich-Institut, Langen, Germany)、Stephan Scheurer(Molecular Allergology, Paul-Ehrlich-Institut, Langen, Germany. [email protected])
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Masako Toda, Andrea Wangorsch, Yui Yajima, et al. Immunomodulatory Function of Soluble Dietary Fiber: Toward Application for Prevention and Treatment of Food Allergies. Current Allergy and Asthma Reports 2026-09-29. DOI: 10.1007/s11882-026-01292-3. 原著ライセンス:CC BY.