日本関連:この研究は海外機関を中心とする国際共同研究で、日本の研究機関に所属する共著者が参加しています。参加国はインドネシア、日本、アメリカです。

掲載誌:Foods

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

鉄、亜鉛、ヨウ素、ビタミンAなどの微量栄養素の不足は、世界で20億人以上に影響する公衆衛生上の課題です。対策の一つが、広く食べられている主食や調味料に微量栄養素を加える「大規模食品強化」です。インドネシアでは、塩へのヨウ素添加、小麦粉への鉄添加、食用油へのビタミンA添加が義務づけられています。

ただし、強化が栄養面で役立つかどうかは、その食品が実際にどれだけ食べられているかに左右されます。研究チームは、義務的な強化の対象であっても、食品ごとに人々への行き渡り方は同じではないと指摘しています。そこで著者らは、小麦粉とその加工品、パーム食用油、塩の3品目について、世帯がどれだけ購入・消費しているか、そして価格や家計の支出が変わったときに消費がどう反応するかを、所得層や都市・農村の違いに注目して調べました。論文は、Susenas 2024を用いてこれらの品目の需要の反応の大きさを推計した最初の研究だとしています。

どのように調べたか

使われたのは、インドネシア統計局が2024年3月に実施した全国社会経済調査(Susenas)の世帯データで、38州・514県市にわたる34万3479世帯が含まれます。食品の消費は過去7日間の思い出し方式で記録されており、支出額を購入量で割った値を価格の代わりとして用いています。麺やパン、ビスケットなどの小麦加工品は、小麦粉に換算して集計されました。

世帯は支出額の大きさで5つの層(第1五分位が最も支出の少ない層、第5五分位が最も多い層)に分けられ、都市と農村でも比較されました。価格や支出の変化に対する消費の反応は「弾力性」という指標で表されます。たとえば価格弾力性がマイナス0.5なら、価格が1%上がると消費がおよそ0.5%減ることを意味し、絶対値が1未満の場合は価格の変化ほどには消費が動かない「非弾力的」な需要とされます。著者らは、経済学で広く使われる需要分析の枠組み(AIDSモデル)を用いてこれらの値を推計しました。

なお、この調査では強化された製品とそうでない製品を区別できません。そのため研究の結果は、強化製品が実際に届いている割合や栄養素の摂取量ではなく、対象食品そのものの消費と「届きうる範囲」を示すものだと論文は強調しています。また、加工食品や外食に含まれる塩や油は十分に把握できず、これらの消費量は過小評価されている可能性があるとしています。

主な結果

3品目はいずれも、ほぼすべての世帯で消費されていました。全国で消費している世帯の割合は、小麦粉とその加工品が99.3%、塩が97.5%、パーム食用油が96.2%で、都市と農村の差も小さいものでした。

一方、消費量の分布は品目によって異なりました。小麦粉とその加工品の1人あたり年間消費量は、最も支出の少ない層の13.99kgから最も多い層の25.47kgへと大きく増え、所得による差が最もはっきりしていました。パーム食用油も7.19kgから11.56kgへと増えましたが、差は小麦より緩やかで、都市と農村ではほぼ同じ(9.53kgと9.52kg)でした。塩は所得層を通じて0.99〜1.16kgとほぼ一定で、農村の方が都市より多く消費されていました。

食費に占める割合は、小麦粉とその加工品が全国で6.1%、パーム食用油が1.1%、塩が0.1%でした。支出の少ない世帯ほど、これらの品目に食費の大きな割合を充てていました。

需要の推計では、小麦粉とその加工品の価格弾力性は全国でマイナス0.848で、需要は非弾力的ながら価格にある程度反応することが示されました。最も支出の少ない層ではマイナス1.043と、価格の変化により敏感に反応する傾向が見られました。支出弾力性は全国で0.988で、支出の少ない層ほど高く、最も支出の多い層では0.855でした。ただし著者らは、層の間の差を統計的に検定したわけではなく、記述的な傾向として解釈すべきだとしています。パーム食用油の価格弾力性は全国でマイナス0.499で、価格の変化に対する反応は比較的小さいという結果でした。

この研究が示すこと

この研究は、義務的な強化の対象である3品目がいずれも国内で幅広く消費されている一方で、食べられる量や価格への反応の仕方は品目や所得層によって異なることを示しました。特に小麦粉は、支出の少ない世帯ほど消費量が少なく、価格の変化にも敏感である傾向が見られ、消費が広く行き渡っていても、所得層の間で同じだけの量が届くとは限らないことがうかがえます。

著者らは、強化政策の届く範囲や公平性を考える際には、消費している世帯の割合だけでなく、消費量や価格・支出への反応も合わせて見る必要があり、性質の異なる複数の対象食品を組み合わせて考えることに意味があるとしています。同時に、これらの結果は強化製品の実際の普及や栄養上の効果を直接示すものではない点も、論文は明記しています。

原著論文の著者・所属:Drajat Martianto(Division of Food and Nutrition Policy, Faculty of Medicine and Nutrition, IPB University, Bogor 16680, Indonesia)、Azis Boing Sitanggang(Division of Food Science and Technology, Faculty of Engineering and Technology, IPB University, Bogor 16680, Indonesia; Graduate School of Agricultural Science, Tohoku University, Sendai 980-8572, Miyagi, Japan)、Jonathan Louis Gorstein(Gates Foundation, Seattle, WA 98109, USA)、Nina Sardjunani(Indonesian Nutrition Foundation for Food Fortification (KFI), Komplek Bappenas A1, Jl. Siaga Raya, Pejaten Barat, Jakarta Selatan 12510, Indonesia)、Roza Kartika(Indonesian Nutrition Foundation for Food Fortification (KFI), Komplek Bappenas A1, Jl. Siaga Raya, Pejaten Barat, Jakarta Selatan 12510, Indonesia)、Elsa Fajriah(Indonesian Nutrition Foundation for Food Fortification (KFI), Komplek Bappenas A1, Jl. Siaga Raya, Pejaten Barat, Jakarta Selatan 12510, Indonesia)、Milatul Mustaqimah(Indonesian Nutrition Foundation for Food Fortification (KFI), Komplek Bappenas A1, Jl. Siaga Raya, Pejaten Barat, Jakarta Selatan 12510, Indonesia)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Drajat Martianto, Azis Boing Sitanggang, Jonathan Louis Gorstein, et al. Mandatory Food Fortification Vehicles in Indonesia: Consumption Patterns and Demand Elasticities from Susenas 2024. Foods 2026-09-15. DOI: 10.3390/foods15183253. 原著ライセンス:CC BY.