フマル酸という名前を聞いたことがある人は少ないかもしれません。これは体の中にもともと存在する有機酸の一種で、エネルギーを作り出す仕組みの中で働く成分です。体内の代謝経路では、コハク酸が変化してフマル酸になり、さらにリンゴ酸へと姿を変えていきます。いわば、エネルギー産生というリレーの中継地点にいる成分です。個々の有機酸には「1日にどれだけ摂るとよいか」という国の摂取基準は定められていませんが、「どの食品に多いのか」を数字で見ていくと、思わぬ発見があります。

成分表でフマル酸の含有量(100gあたり)を比べると、乾しいたけ 乾が0.5gで単独の1位です。そこから少し離れて、ぶなしめじ 素揚げ生しいたけ(菌床栽培)の天ぷらぶなしめじ 天ぷら乾しいたけ ゆでの4品が、いずれも0.1gで横並びの2位タイに続きます。乾しいたけだけが頭ひとつ抜けて、あとは団子状態という顔つきです。

1位も2位タイも、有機酸の内訳ではリンゴ酸が上回る

ここで気になるのが「フマル酸が多いなら、この食品の有機酸の中心はフマル酸なのか」という点です。ところが各食品の内訳を見ると、答えは意外なものになります。1位の乾しいたけでは、リンゴ酸が1.0gと、フマル酸の0.5gを上回っています。リンゴ酸はりんごやぶどうに多い代表的な酸味成分で、食品の呈味にかかわる主要な有機酸のひとつとして知られています。つまり乾しいたけでも、量としてはフマル酸よりリンゴ酸のほうが多く、フマル酸はその陰に控える脇役という立ち位置です。

この構図は2位タイの4品でも変わりません。乾しいたけ ゆでではリンゴ酸0.2g(推定値)がフマル酸0.1g(推定値)を上回り、素揚げのぶなしめじではリンゴ酸0.3gがフマル酸0.1gを上回ります。天ぷらにした2品(生しいたけぶなしめじ)だけはリンゴ酸とフマル酸がともに0.1gと並びますが、それでもフマル酸だけが突出して多い食品はひとつもありません。フマル酸が最も多い乾しいたけでさえ、有機酸の顔ぶれとしてはリンゴ酸のほうが量が多い——これが、上位5食品を貫く隠れた共通点です。

まとめ

乾しいたけは、100gあたりで見るとフマル酸もリンゴ酸も他を引き離す、有機酸の濃い食材です。これは乾燥によって水分が減った分、100gあたりの数値が高く出ていることも踏まえておきたいところです。実際の料理では、だしや煮物に数個まとめて使うことが多い食材でもあります。フマル酸はどの食品でも量としては主役ではなく、リンゴ酸という先輩格の酸味成分に寄り添う脇役でした。もし今後、他のきのこや食品でフマル酸のデータが増えていけば、この「リンゴ酸が必ず上回る」という顔ぶれが崩れる食品が見つかるかもしれません。そのときはまた、数字を覗きに来たくなりそうです。

※本記事は日本食品標準成分表(八訂)のデータ等をもとに作成しました。