著者の所属・活動拠点の国は、アルゼンチン、スペインです。
掲載誌:Frontiers in Nutrition
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
研究の目的:二つの食品副産物を一つの食品に
魚の加工では、頭や骨、皮、切り落とし(トリミング)など、たんぱく質や脂質を豊富に含む部分が十分に活用されずに残ります。論文によると、大西洋サケ(アトランティックサーモン)ではフィレ加工時に原料全体の40〜60%がこうした未利用部分になると見積もられています。一方、植物性飲料の製造が広がるなかで、オーツ麦飲料を搾った後に残る固形分「オーツおから」も大量に生じています。栄養価は高いものの、殺菌処理の影響もあって生地としてのまとまりに乏しく、そのままでは油と水を含む食品を安定させにくいことが課題とされています。
研究チームは、サーモンの切り落としを酵素で分解して得たたんぱく質加水分解物(たんぱく質を小さなペプチドに切り分けたもの)と、同じ工程で回収したサーモン油を、オーツおからと組み合わせることで、なめらかで分離しにくいスプレッド(パンなどに塗る食品)を作れるかを検討しました。著者らは、水にも油にもなじむ性質をもつペプチドと油滴が、植物の細胞壁由来の生地の弱点を補い、合成の食感改良剤に頼らずにまとまりのある構造をつくるという仮説を立てています。
何を調べたか
研究チームは、スペインの加工施設から得たサーモンの切り落としを、二通りの酵素の組み合わせで段階的に分解しました。一つはアルカラーゼの後にフレーバーザイムを用いる方式(システムA)、もう一つはプロタナ・プライムの後にフレーバーザイムを用いる方式(システムB)です。得られた加水分解物については成分や抗酸化性などを、分離された油については回収率、酸化の度合いを示す指標、脂肪酸の組成を調べました。オーツおからについても、繊維などの構成成分を分析しています。
そのうえで、細かく砕いて均一なペーストにしたオーツおからに加水分解物や油を加え、ペプチドの種類と油の組み合わせが異なる4種類のスプレッドと、たんぱく質を加えない対照品を試作しました。配合にはキサンタンガムや塩、香辛料なども使われています。完成品は水分やpH、色、乳化の安定性、機械で測る食感(硬さなど)で比較されました。
主な結果
原料のサーモン切り落としは、乾燥重量あたり約3割が脂質で、たんぱく質も豊富でした。酵素処理では、システムAのほうが溶け出したたんぱく質の量が多く、抗酸化力の指標でも高い値を示したと報告されています。結論では、たんぱく質のおよそ30%が回収されたとまとめられています。
回収された油は、原料に含まれていた脂質のうち、システムAで86.90%、システムBで88.86%にあたりました。酸化の初期段階を示す過酸化物価は両方式とも2 meq/kg未満で、論文が挙げる魚油の許容上限20 meq/kgを大きく下回っていました。また、DHAなどのオメガ3脂肪酸を含む脂肪酸の組成は、酵素処理後も原料とほぼ同じに保たれていました。
スプレッドはいずれも水分16〜19%程度、pHはほぼ中性で、加水分解物を加えるとたんぱく質が増えたことが確認されました。食感については、ペプチドだけを加えると硬さが1.79 Nまで下がり、生地がやわらかくなりました。そこへ回収したサーモン油を3%加えると、硬さはシステムAで3.11 N、システムBで3.94 Nに戻りました。著者らは、細かく分散した油滴が生地の中で「詰め物」のように働き、ペプチドの界面作用に支えられて構造を補強したと解釈しています。対照品(3.83 N)と同程度の硬さでも、元の硬くもろい状態ではなく、まとまりのあるなめらかな乳化構造になったと説明しています。試作品では、目に見える油の分離や水のしみ出しは観察されず、色の明るさはシステムBの加水分解物とサーモン油を組み合わせた配合で最も高くなりました。
研究が示すこと
この研究は、サーモンの加工副産物とオーツ麦飲料の搾りかすという、性質の異なる二つの副産物を組み合わせて、栄養に富むスプレッドを試作できる技術的な可能性を示したものです。酵素処理によって、たんぱく質と酸化の進んでいない油の両方を一つの原料から取り出し、それぞれを食品の構造づくりに役立てられる点が特徴といえます。
一方で著者らは、今回の評価は機器による測定にとどまり、味や消費者の受け入れやすさは調べていないこと、また製造直後の状態を評価したもので、長期保存中の安定性は今後確かめる必要があることを限界として挙げています。
原著論文の著者・所属:Daniela Lorena Lamas(Institute of Marine and Coastal Research IIMyC-CONICET)、Ingrid Aguiló-Aguayo(IRTA, Postharvest, Fruitcentre, Lleida, Catalonia, Spain)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Daniela Lorena Lamas, Ingrid Aguiló-Aguayo. Salmon protein hydrolysates and upcycled oil as functional ingredients for hybrid oat okara spreads: a circular marine by-product valorization approach. Frontiers in Nutrition 2026-08-17. DOI: 10.3389/fnut.2026.1914478. 原著ライセンス:CC BY.