著者の所属・活動拠点の国は、ブラジル、スペインです。

掲載誌:Journal of Food Science

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

捨てられがちな薄皮に着目した研究

コーヒー豆を焙煎すると、生豆を覆っている薄い皮がはがれ落ちます。これは「コーヒーシルバースキン」と呼ばれ、世界の焙煎業界で年間およそ40万トン発生すると見積もられていますが、多くは捨てられたり十分に活用されたりしていません。一方で、シルバースキンにはクロロゲン酸などの抗酸化作用をもつフェノール化合物が含まれ、焙煎中の化学変化(メイラード反応)で生じる成分にも抗酸化性があると報告されてきました。

研究チームが応用先として選んだのはサーモンです。サーモンはオメガ3脂肪酸などの多価不飽和脂肪酸を多く含むため、脂質が酸化しやすく、風味や品質が損なわれやすい食材です。特に、すり身状にした魚肉を酵素で結着させて成形する「再構成」製品は、冷蔵保存中の酸化管理が課題になります。肉製品ではシルバースキンの抗酸化効果が報告されていたものの、魚を使った食品への応用はほとんど調べられていませんでした。

そこで著者らは、シルバースキンが再構成サーモンの酸化劣化を遅らせる天然の抗酸化素材として働くか、また焙煎条件の異なる2種類のシルバースキンで効果に違いが出るかを検証しました。

2種類のシルバースキンとサーモン製品の作り方

比較したのはブラジル産の2種類です。一つは有機栽培の農園で150℃・20分の比較的穏やかな条件で焙煎された「職人的(アルチザン)」なもの、もう一つは大規模工場で平均210℃・20分の条件で焙煎された「工業的」なものです。いずれも細かく粉砕して使いました。

ノルウェー産サーモンをひき肉状にし、塩と、たんぱく質同士をつなぐ酵素トランスグルタミナーゼ、水を加え、シルバースキンを重量の0.5%混ぜて一口大に成形しました。シルバースキンを加えない対照と合わせて3種類の試料を、中心温度72℃前後まで焼いた後、空気に触れる状態で光を遮り3℃で冷蔵し、最長28日間にわたって脂質の酸化度合い、色、食感、脂肪酸の組成などを調べました。脂質酸化の指標には、酸化で生じるマロンジアルデヒド(MDA)の量を測る方法が用いられました。

主な結果:どちらのシルバースキンも脂質酸化を大きく抑制

まず素材そのものの分析では、職人的なシルバースキンのほうがフェノール化合物の総量が多く、ラジカルを消去する力を測る試験(DPPH法・ABTS法)でも高い値を示しました。特にクロロゲン酸は100gあたり257.49mgと、工業的なもの(9.20mg)を大きく上回りました。一方、電子を与えて物質を還元する力を測る試験(FRAP法)では工業的なもののほうが高い値でした。著者らは、強い焙煎でフェノール化合物が分解される一方、メイラード反応由来の還元力の高い成分が増えた可能性を挙げています。ただし、2つの試料は産地や品種、収穫後の処理も異なるため、違いを焙煎の強さだけに帰することはできないとも述べています。

サーモン製品では、シルバースキンを加えた試料でMDAが保存期間を通じて明らかに少なく保たれました。対照ではMDAが1日目の1kgあたり1.894mgから21日目に3.927mgまで上昇したのに対し、シルバースキン入りの2種類はおおむね0.31〜0.48mgの範囲にとどまりました。試験管内の抗酸化試験では差があったにもかかわらず、サーモン製品の中では2種類のシルバースキンがほぼ同等に効果を示した点も特徴です。

このほか、シルバースキンを加えた製品は色が暗くなりましたが、28日間での赤みの低下は対照より小さく抑えられていました。食感の指標には統計的に意味のある差は見られませんでした。また、加熱後の製品では、オメガ3脂肪酸であるEPAとDHAが脂肪酸全体に占める割合が、シルバースキン入りの試料で対照より高くなっていました。

研究が示すこと

この研究は、廃棄されがちなコーヒーの副産物を少量加えるだけで、酸化しやすい再構成サーモンの脂質酸化を冷蔵保存中に抑えられたことを報告しています。焙煎条件の異なるシルバースキンは成分の特徴が違いながらも、魚肉製品の中では同じように酸化を抑えており、フェノール化合物とメイラード反応由来の成分という異なる仕組みが関わっている可能性を著者らは示しています。食品副産物を有効活用する循環型の食品づくりの観点から、シルバースキンが魚肉製品の素材として持つ可能性を具体的に示した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Antonia Dayane Jenyffer de Farias Marques(Department of Food Engineering Technology Centre, Federal University of Paraiba Joao Pessoa Brazil)、Mario Estevez(IPROCAR Research Institute, TECAL Research Group Universidad de Extremadura Cáceres Spain)、José María Martín‐Miguélez(IPROCAR Research Institute, TECAL Research Group Universidad de Extremadura Cáceres Spain)、Andrea Sánchez‐Canales(IPROCAR Research Institute, TECAL Research Group Universidad de Extremadura Cáceres Spain)、Eike Guilherme Torres de Souza(Department of Food Engineering Technology Centre, Federal University of Paraiba Joao Pessoa Brazil)、Sonia Ventanas(IPROCAR Research Institute, TECAL Research Group Universidad de Extremadura Cáceres Spain)、Josué Delgado(IPROCAR Research Institute, TECAL Research Group Universidad de Extremadura Cáceres Spain)、Mercia de Sousa Galvão(Department of Food Engineering Technology Centre, Federal University of Paraiba Joao Pessoa Brazil)、Marcos dos Santos Lima(Department of Food Technology Federal Institute of Sertão Pernambucano Petrolina Brazil)、Taliana Kênia Alencar Bezerra(Department of Food Engineering Technology Centre, Federal University of Paraiba Joao Pessoa Brazil)、David Morcuende(IPROCAR Research Institute, TECAL Research Group Universidad de Extremadura Cáceres Spain)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Antonia Dayane Jenyffer de Farias Marques, Mario Estevez, José María Martín‐Miguélez, et al. Coffee ( Coffea arabica L.) Silverskin: Transforming a Recycled By‐Product Into Natural Antioxidant Ingredients for Ready‐to‐Eat Fish Products. Journal of Food Science 2026-10-01. DOI: 10.1111/1750-3841.71577. 原著ライセンス:CC BY.