8月3日は「八(はち)・三(みつ)」の語呂合わせにちなむ「はちみつの日」でした。少し過ぎてしまいましたが、夏の疲れが出てくるのはむしろこれからです。やさしい甘さでほっとひと息つかせてくれるはちみつを、あらためて見直してみましょう。
花の種類によって香りも味も変わるのがはちみつの面白いところで、市販品の多くは数種類の蜜をミックスして作られています。同じ名前でも、採れた花によって表情が変わります。一瓶ごとに個性のある食品です。
甘さの主役は、ぶどう糖ではなかった
はちみつと聞いて「ぶどう糖の甘さ」を思い浮かべる人は多いはずです。ところが成分表を開くと、主役は別にいました。100gあたりで最も多い糖は果糖の39.7g。次いでぶどう糖33.2g、麦芽糖1.5g、しょ糖0.3gの順で、量の上ではっきり果糖が支えています。
この果糖には、面白い性質があります。温度が低いほど甘みが強くなるのです。冷やしたヨーグルトやかき氷にかけたはちみつが、常温より甘く感じられるのはこのためです。冷菓に果糖がよく使われるのも同じ理由でしょう。
なお果糖を多量に摂り続ける食生活については、いくつかの研究で糖代謝への影響が指摘されており、日々の食事の中で適量を意識することが大切とされています。はちみつは大さじやカップで使うものではなく、ひとさじで足りる甘味です。その使い方であれば、量の心配より先に味わいのほうを楽しめます。
ぶどう糖は、脳を支える縁の下の力持ち
量で二番手のぶどう糖も、決して脇役ではありません。脳・神経組織・赤血球など、通常はぶどう糖しかエネルギー源として使えないとされる組織があるからです。砂糖の60%程度の甘みしか持たないのに、体の土台を担っています。
脳は体重のわずか2%程度の重さしかないのに、基礎代謝量の約20%を消費すると考えられており、その量は1日あたり約300kcal、ぶどう糖にして約75gに相当するとされます。小さじ1杯(6.9g)のはちみつに含まれるのは、果糖約2.7gとぶどう糖約2.3g。ひとさじの甘みの中に、脳を動かし続けるための小さな燃料が仕込まれている、という見方もできそうです。
ひとさじの使いどころ
はちみつはカルシウムや鉄などのミネラル、ビタミンB群のナイアシンも含みます。ただしエネルギー329kcal・炭水化物81.9gに対して、たんぱく質は0.3g(日本人の食事摂取基準で女性30〜49歳の推奨量50g/日のわずか0.6%)、脂質はTr(微量)、食物繊維は含まれないと推定されており、立ち位置は明確です。栄養を摂りにいく食品ではなく、甘みで食卓を彩る調味料だということです。
だからこそ使い道は広く、酸味のあるヨーグルトやフルーツにひとさじで自然な甘みが乗り、煮物にひとたらしでコクが出ます。大さじ1なら21g、½カップ(100mL)なら140gが目安量なので、料理に応じて使い分けてください。気温が低い場所で白く固まってしまっても、おいしさが落ちたわけではありません。湯せんでゆっくり溶かせば、もとの透き通った甘さが戻ってきます。
ひとつだけ、守っていただきたいことがあります。1歳未満の乳児にははちみつを与えないでください。ボツリヌス菌の芽胞が含まれていることがあり、通常の加熱調理では死滅しないため、乳児ボツリヌス症を起こすおそれがあるとされています(厚生労働省)。シロップや製菓に使う場合も、お子さまに与えるのは1歳以降にしてください。
まとめ
甘さの主役はぶどう糖ではなく果糖でした。冷やすほど甘く感じるのはその果糖の性質によるもので、量では及ばないぶどう糖のほうが脳の燃料を担っています。ひとさじの中に、それだけの仕組みが詰まっているわけです。薬膳・東洋医学では、はちみつは五性「平」・五味「甘」・帰経「脾・肺・大腸」に分類されるとされ、古くから体にやさしい甘味として親しまれてきました。記念日は少し過ぎましたが、だからこそ落ち着いて、その一さじを味わってみてはいかがでしょうか。
※特定の食品の効果・効能を示すものではありません。
※本記事は日本食品標準成分表(八訂)および日本人の食事摂取基準(2025年版)のデータ等をもとに作成しました。
栄養素のはたらき・摂取基準の記述は、次の公的資料に基づきます:厚生労働省 食事摂取基準