著者の所属・活動拠点の国は、インドです。

掲載誌:Cureus

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

慢性肝疾患は、肝臓の構造や働きが6か月以上にわたって損なわれた状態を指します。進行すると肝硬変に至り、さらに病状が悪化した「非代償期」には、肝性脳症などの合併症が起こることがあります。肝性脳症は、弱った肝臓がアンモニアなどの神経に有害な物質を十分に処理できず、それが体内にたまって意識や精神の働きに異常が生じる状態です。

肝疾患の患者には低栄養も起こりやすく、論文はこれが病気の結果であると同時に、病気を進める要因にもなると説明しています。特に、筋肉量と筋力が落ちる「サルコペニア」は、肝硬変の患者に多くみられます。かつては肝性脳症の患者にたんぱく質を制限することがありましたが、現在の指針では制限は勧められておらず、十分なたんぱく質の摂取が推奨されています。

著者らは、インドの実情に即した専門家の指針がまだ限られていることに注目しました。そこで、インドの医師が実際の診療で栄養状態をどう評価し、どのように栄養管理を行っているのか、またどんな課題を感じているのかを明らかにしようとしました。

どのように調べたか

研究チームは、2024年9月から2025年5月にかけて開かれた6回の諮問会議に参加した、インド各地の消化器専門医・肝臓専門医57人の意見を分析しました。参加者は、慢性肝疾患の診療に5年以上の経験を持つ医師から、地域が偏らないよう選ばれています。

会議では、著者らが作成した12問の選択式質問に、参加者が電子投票で匿名回答しました。周囲の意見に影響されにくいよう、投票は討論の前に行われています。質問は、栄養状態の評価の頻度、栄養補給を始める判断基準、たんぱく質の摂取量、栄養補助食品の選び方、分岐鎖アミノ酸(BCAA)の使い方、肝移植前後の栄養方針などを扱いました。BCAAはロイシン、イソロイシン、バリンという3種類のアミノ酸の総称で、筋肉の維持に関わることが知られています。

集計は回答の割合を示す記述的なものにとどまり、仮説を統計的に検証することは目的としていません。質問ごとに回答者数が異なり、多くの設問はおよそ40〜48人の回答に基づいています。

主な結果

栄養状態の評価については、回答した44人のうち半数にあたる22人が「3か月ごと」と答え、最も多い方法でした。一方で、約3分の1にあたる15人は「臨床的に必要なときだけ」評価しており、論文は定期的なスクリーニングがまだ診療に十分根付いていないと指摘しています。栄養補給を始める判断基準としては、サルコペニアや筋肉のやせを挙げた人が63.6%と最も多く、血液中のアルブミン値(20.5%)などを大きく上回りました。

早期診断を妨げる要因として最も多く挙げられたのは、効果的なスクリーニング手段がないこと(39.6%)でした。次いで、医療者の認識不足、栄養士にかかりにくいこと、患者が指示を守らないことが続きました。

たんぱく質については、病気が代償期から非代償期へ進んだときに、摂取目標を体重1kgあたり1日1.2gから1.5gへ引き上げると答えた医師が56.8%と半数を超えました。たんぱく質がうまく処理できない「たんぱく不耐」の患者に対しては、51.2%が経口のBCAA補給を選び、植物性たんぱく質への切り替えが23.3%でした。摂取量を減らすと答えた医師は16.3%にとどまりました。栄養補助食品を続けにくい理由としては、味の悪さが最も多く挙げられ、ほかに消化器の不快感、費用の高さ、患者への説明不足が続きました。

肝性脳症の患者では、多くの医師がBCAAを全員にではなく、患者を選んで処方していました。肝性脳症でのたんぱく質摂取については、半数を超える医師が1kgあたり1日1.2〜1.5gの十分な量を保ちつつBCAAを加える方針を選びました。その一方で、1日1g未満に制限する医師(23.3%)や、たんぱく質を完全に避けるよう指導する医師(7.0%)も一部にいました。BCAAの利点としては、筋肉量と筋力の維持を挙げた人が80.0%と最も多くみられました。

肝移植の前後の栄養方針では、1kgあたり1日1.5gの高たんぱく食を最優先とする回答が36.4%で最も多く、BCAA補給、免疫に関わる栄養素を強化した補助食品が続きました。

この研究が示すこと

著者らは、インドの診療現場が、たんぱく質を制限する従来の考え方から、十分な栄養を積極的に確保する方向へ移りつつあると結論づけています。特に、筋肉の衰えを介入の主な目安とする医師が多く、骨格筋が治療上の重要な標的として意識されていることがうかがえるとしています。その一方で、定期的なスクリーニングの不足、栄養士の不足、補助食品の味や費用といった実務上の壁も浮かび上がりました。

ただし、これは招かれた専門医が自ら報告した方針をまとめたものであり、実際の診療内容や患者への効果を確かめた研究ではありません。著者ら自身も、回答者の選び方に偏りがありうること、質問票が妥当性を検証されたものではないこと、因果関係や臨床的な影響は示せないことを限界として挙げています。そうした前提のもとで、この報告は、指針で推奨される栄養管理と現場の実践との間にどのような隔たりがあるのかを、医師の視点から描き出したものといえます。

原著論文の著者・所属:Nagaraja R Padaki(Department of Gastroenterology, Asian Institute of Gastroenterology, Hyderabad, IND)、Kr Vinayakumar(Department of Gastroenterology, Ananthapuri Hospitals and Research Institute, Thiruvananthapuram, IND)、Jyoti Mohapatra(Department of Gastroenterology, Peerless Hospital, Kolkata, IND.)、Akash Roy(Department of Gastroenterology, Apollo Multispeciality Hospitals, Kolkata, IND.)、Abhishek Banerjee(Department of Gastroenterology, Manipal Hospitals, Kolkata, IND)、Karan Kumar(Department of Gastroenterology, Mahatma Gandhi Medical College & Hospital, Jaipur, IND.)、Sourabh B Sonawale(Department of Medical and Scientific Affairs, Dr. Reddy's and Nestlé Health Science Limited, Hyderabad, IND)、Nandan Joshi(Department of Medical and Scientific Affairs, Dr. Reddy's and Nestlé Health Science Limited, Hyderabad, IND)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Nagaraja R Padaki, Kr Vinayakumar, Jyoti Mohapatra, et al. Nutritional Management in Cirrhosis and Hepatic Encephalopathy: Current Practices and Expert Opinions of Indian Gastroenterologists. Cureus 2026-08-04. DOI: 10.7759/cureus.113933. 原著ライセンス:CC BY.