著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:Celt A Journal of Culture English Language Teaching & Literature
ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex
スパイス豊かな料理とワインの組み合わせという課題
インドネシア料理は、ショウガ、ウコン、ガランガル(ナンキョウ)、レモングラス、そして唐辛子など、多くのスパイスや香味素材を重ねて使うことで知られています。著者らは、インドネシアの若い消費者の間でワインの人気が高まり、伝統料理と合わせることへの関心も広がっている一方で、インドネシア料理とワインの組み合わせ(ワインペアリング)を本格的に扱った研究はまだ限られていると指摘しています。従来のペアリング研究は赤身肉、白身肉、魚、チーズなどが中心で、複雑なスパイスを使う料理はあまり検討されてこなかったといいます。
そこで研究チームは、西スマトラの牛肉料理ルンダンと、バリ島の鶏肉料理アヤム・ブトゥトゥ(ブトゥトゥチキン)を取り上げ、それぞれの料理の味わいとワインの特徴がどのように影響し合うかを調べました。ワインペアリングとは、料理とワインが互いを打ち消さず、食事の体験を高める組み合わせを見つける考え方です。共通する風味を重ねて調和させる方法と、対照的な味で釣り合いをとる方法があると論文は紹介しています。
文献の整理と少人数の話し合いによる検討
論文は主に文献レビューとしてまとめられています。研究チームは、ワインと料理の組み合わせ、ルンダンの風味成分、ブトゥトゥのスパイスといったキーワードで学術データベースから文献を集め、査読の有無やインドネシア料理との関連性で選別しました。そのうえで、二つの料理の味・香り・食感などの特徴を、ワインのタンニン(渋みのもとになる成分)、酸味、甘さ、アルコール度数、香りといった要素と照らし合わせました。
あわせて、赤ワインと白ワインの両方を飲んだ経験のある成人7人によるフォーカスグループディスカッション(少人数で感じたことを話し合う聞き取りの方法)も行い、料理とワインの組み合わせについて意見を集めています。
ルンダンには穏やかな赤、ブトゥトゥには香り高くやや甘口の白
ルンダンは牛肉をココナッツミルクと多くのスパイスで80〜95℃、6〜7時間ほど煮込む料理で、濃厚なコクとほのかな甘み、幾重にも重なる香りを持ちます。一般には牛肉にはタンニンの強い赤ワイン、たとえばカベルネ・ソーヴィニヨンが合うとされますが、著者らは、スパイスと脂肪分の多いルンダンでは強いタンニンが渋みを際立たせるおそれがあると整理しました。そのため、タンニンが中程度で酸味のバランスがよく、果実味やスパイスの香りがある赤ワイン、たとえばメルローやグルナッシュ、タンニンの控えめなシラーのほうが調和しやすいとしています。ただし、辛いサラミとカベルネ・ソーヴィニヨンが合ったという過去の報告も紹介し、相性は肉の種類だけでなく、料理の水分量やスパイスの構成にも左右されると述べています。
アヤム・ブトゥトゥは、ニンニク、唐辛子、ショウガ類、ライムリーフ、ナツメグ、エビの発酵ペーストなど多くの素材を使った辛い鶏肉料理です。論文は、白身肉には酸味のある白ワインが合うという一般的な考え方を出発点にしつつ、すべての白ワインがふさわしいわけではないと指摘します。アルコール度数の高い白ワインは辛さの感じ方を強めるおそれがあり、アルコールが比較的低く酸味の高いリースリングのような白ワインのほうが釣り合いをとりやすいとしました。要旨では、香りが豊かでやや甘口(オフドライ)の白ワインが特に適しており、酸味とわずかな甘さが料理の辛さを和らげると報告しています。
話し合いに参加した7人は、ルンダンには地元産の赤ワイン、アヤム・ブトゥトゥには地元産の白ワインを合わせたほうがバランスがよいと好む傾向を示しました。また著者らは、料理名とおすすめのワインを短く添えたメニュー表記や、料理とワインを説明できる接客スタッフの育成が、こうした組み合わせに慣れていない客にとって助けになると述べています。
料理の文化に合わせたペアリングへ
著者らは、今回の結果は少人数の経験者による探索的なものであり、輸入ワインを含めたさらなる検証や、より多くの人を対象にした調査が必要だとしています。好みは食文化やなじみによっても大きく変わるため、ワインの成分と料理の相性だけでは決まらないという立場です。
この研究が示しているのは、西洋で育まれた従来のペアリングの原則をそのまま当てはめるのではなく、スパイスの構成や脂肪の量、サンバル(唐辛子ソース)のような地元の調味料を添える食べ方まで含めて考える必要があるということです。インドネシア料理の個性に合わせた、文化に根ざしたワインの楽しみ方を考える手がかりとなる研究といえます。
原著論文の著者・所属:Lindayani Lindayani(Department of Food Technology, Faculty of Agricultural Technology, Soegijapranata Catholic University, Semarang)、Laksmi Hartajanie(Department of Food Technology, Faculty of Agricultural Technology, Soegijapranata Catholic University, Semarang)、Felix Yuwono Wiredjo(Department of Food Technology, Faculty of Agricultural Technology, Soegijapranata Catholic University, Semarang)、Dyah Wulandari(Department of Food Technology, Faculty of Agricultural Technology, Soegijapranata Catholic University, Semarang)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lindayani Lindayani, Laksmi Hartajanie, Felix Yuwono Wiredjo, et al. Wine Pairing for Traditional Indonesian Dishes: A Case Study of Rendang and Betutu Chicken. Celt A Journal of Culture English Language Teaching & Literature 2026-08-03. DOI: 10.24167/celt.v26i1.11948. 原著ライセンス:CC BY.