著者の所属・活動拠点の国は、中国です。

掲載誌:Frontiers in Microbiology

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

ヒユナ(アマランサスの仲間の野菜)の茎を発酵させた食品は、中国、特に江蘇・浙江地域で食べられてきた伝統的な発酵野菜です。人の手で菌を加えるのではなく、自然に発酵が進む「自然発酵」で作られ、独特の刺激的な香りと複雑な味を持ちます。発酵の過程では、植物由来の糖や窒素を含む成分が、有機酸や遊離アミノ酸、香りの成分へと変わっていきます。

研究チームは、この食品の中に「どんな微生物がいるか」だけでなく、「その微生物が実際にどんな働きをしているか」まで捉えることを目指しました。論文によれば、遺伝子を調べるだけでは、その遺伝子から作られるタンパク質が実際の発酵条件で作られているかまでは分かりません。そこで、微生物の集団が実際に作っているタンパク質をまとめて調べる「メタプロテオミクス」という手法を、細菌の種類を調べる手法と組み合わせました。

何をどのように調べたか

研究チームは、中国の安徽省(広徳市)、江蘇省(蘇州市)、浙江省(寧波市)の3つの産地から伝統的な製品を入手し、各産地3検体ずつ分析しました。酸性度を示すpHや酸の量、亜硝酸塩、生きている菌の数、香りの成分(揮発性成分)、遊離アミノ酸といった品質に関わる性質を測定しています。

細菌の種類は、細菌が共通して持つ遺伝子(16S rRNA遺伝子)の配列を読み取る方法で調べました。この際、植物の葉緑体やミトコンドリアに由来する配列は取り除いています。さらに、検出したタンパク質を既存のデータベースと照らし合わせて機能を分類し、主な細菌の属とタンパク質の機能との間の関連を、統計的な相関として探りました。

なお、これらの製品は条件をそろえた実験ではなく実際の自然発酵品のため、塩分濃度や発酵期間、温度、製造者などは統一できませんでした。著者らは、産地間の違いを「産地そのものが原因の効果」ではなく「産地に伴って見られた傾向」として解釈しています。

主な結果

いずれの産地の製品も、発酵野菜らしい酸性を示しました。pHは4.08〜4.39の範囲で、安徽省の製品がpHが最も低く酸の量が最も多い一方、江蘇省の製品はpHが最も高く酸の量が最も少ないという結果でした。生きた菌の数は1グラムあたりおよそ10の7.7乗〜8.6乗個に相当し、安徽省の製品で多くなっていました。亜硝酸塩は1キログラムあたり3.6〜4.0ミリグラムで、中国の漬物の基準値(20ミリグラム)を下回っていました。

香り成分の総量は産地で大きく異なり、安徽省の製品は江蘇省の約2.3倍、浙江省の約3.4倍でした。遊離アミノ酸の総量も安徽省、江蘇省、浙江省の順に多く、いずれの産地でも苦味に関わるアミノ酸が最も大きな割合を占めていました。

細菌の構成では、全産地でフィルミクテス門とプロテオバクテリア門が優勢でした。属のレベルでは、乳酸菌の仲間であるラクトバチルス属とラクトコッカス属、そしてシュードモナス属が主な細菌でした。安徽省の製品ではラクトバチルス属が約52%と多く、江蘇省と浙江省ではラクトコッカス属が約4割を占めていました。浙江省の製品では、そのほかの細菌の割合もやや高くなっていました。

タンパク質の分析では、7,158種類のタンパク質が確認され、そのうち由来する生物を割り当てられた3,926種類には、細菌由来が2,281種類、カビや酵母などの真菌由来が1,633種類含まれていました。機能の分類では、糖の代謝、エネルギーの代謝、タンパク質の合成、ストレスへの対応、炭水化物を分解・変換する酵素などに関わるタンパク質が目立ち、著者らは微生物が環境に適応しながら活発に糖や窒素を利用している様子を示すものと解釈しています。

研究が示すこと

この研究は、同じ伝統発酵野菜でも産地によって細菌の顔ぶれ、微生物が実際に働かせている機能、香りや味に関わる性質が異なることを示しました。また、細菌の種類とタンパク質の働きを組み合わせて見ることで、主な細菌と糖を分解する酵素、香りのもとになる成分の変化との結びつきの候補を挙げています。

ただし著者らは、これらの結びつきは限られた検体での相関にもとづくもので、因果関係を証明したものではなく、今後検証すべき仮説だと位置づけています。真菌の構成も直接は調べていません。伝統的な発酵食品の品質の違いがどこから生まれるのかを考えるうえで、検証すべき手がかりを整理した研究といえます。

原著論文の著者・所属:Lifei Meng(Department of Thoracic Surgery, The First Affiliated Hospital of Ningbo University)、Hong Ze(Department of Thoracic Surgery, The First Affiliated Hospital of Ningbo University)、Xilin Hu(Department of Thoracic Surgery, The First Affiliated Hospital of Ningbo University)、Jian Chen(Department of Thoracic Surgery, The First Affiliated Hospital of Ningbo University)、Kaimin Li(Department of Thoracic Surgery, The First Affiliated Hospital of Ningbo University)、Qiqiong Li(State Key Laboratory of Food Science and Resources, Nanchang University)、Wentao Hu(Department of Thoracic Surgery, The First Affiliated Hospital of Ningbo University)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Lifei Meng, Hong Ze, Xilin Hu, et al. Integrated microbiome and metaproteome analyses reveal microbial functions underlying traditional fermented amaranth stem fermentation. Frontiers in Microbiology 2026-10-30. DOI: 10.3389/fmicb.2026.1983810. 原著ライセンス:CC BY.