著者の所属・活動拠点の国は、インドネシアです。
掲載誌:World Journal of Biology Pharmacy and Health Sciences
ライセンス: CC BY 4.0 対象: 公開論文 確認元: 論文PDF
伝統発酵食品に黒もち米を使う試み
ワディは、インドネシア・カリマンタン島のダヤクの人々に親しまれてきた伝統的な発酵食品です。一般には魚に塩をまぶし、「サム」と呼ばれる炒った米やもち米の粉と混ぜ、竹筒に詰めて発酵させて作ります。肉や魚は微生物が増えやすく傷みやすいため、こうした加工は保存性を高める工夫の一つとされています。
サムには普通は白米が使われますが、研究チームは黒もち米に注目しました。黒もち米はでんぷんのほか、アントシアニンやフェノール化合物といった成分を含み、なかでもアントシアニンやフラボノイドは白米より多く含まれるとされています。著者らは、これらが発酵を担う微生物の働きを支え、発酵の質を高める可能性があると考えました。そこで、焙煎した黒もち米を加えて竹筒で発酵させた豚肉のワディについて、物理的な品質と微生物面の安全性にどのような影響があるかを調べました。
四つの条件で豚肉を7日間発酵
実験では、ランドレース種の豚ロース肉250グラムに、肉の重さの10%にあたる塩をまぶして24時間置きました。そのうえで、炒った白米の粉を20%加えたもの(比較用の対照)と、焙煎黒もち米の粉を10%、20%、30%加えたものの4種類を用意し、それぞれ4回ずつ繰り返して作りました。黒もち米は70℃で25分間、黒っぽい茶色になるまで焙煎してから粉にしています。混ぜた肉は竹筒に詰め、アルミホイルで覆って空気が入りにくい状態にし、室温で7日間発酵させました。
発酵後には、酸性度を示すpH、肉が水分を抱え込む力である保水性、保存中に失われる重さ(生での損失)、加熱調理で肉汁が出て失われる重さ(加熱損失)を測定しました。さらに、発酵を担う乳酸菌の数と、衛生状態の目安とされる大腸菌の有無も調べました。
pHには差が出たが、保水性や重さの損失には差はみられず
論文によると、焙煎黒もち米の添加は統計的に意味のある差としてpHに影響しました。pHは5.77から6.35の範囲で、黒もち米10%のものが最も高く、30%のものが最も低い値でした。10%のものは白米を使った対照よりpHが高く、20%のものは対照とも30%のものとも差がありませんでした。著者らは、10%では乳酸菌が利用できる炭水化物が少なかったことや、黒もち米のでんぷんが枝分かれの多い複雑な構造で分解されにくいことが、pHが下がりにくかった理由ではないかと考えています。
一方、保水性(66.52〜70.11%)、生での損失(3.62〜6.93%)、加熱損失(25.26〜29.79%)には、どの条件の間にも統計的な差は認められませんでした。著者らは、pHが肉のたんぱく質の性質が大きく変わる範囲よりも高いところにとどまっていたため、たんぱく質の構造が比較的安定していたと説明しています。加熱損失は、著者らが引用する肉の品質基準でよいとされる15〜40%の範囲に収まっていました。
乳酸菌は30%で最多、大腸菌は検出されず
乳酸菌の数は1グラムあたり1.36×10⁸から2.02×10⁸の範囲でした。黒もち米を加えた条件の中では、10%、20%、30%と量が増えるにつれて多くなり、30%で最も多い2.02×10⁸となりました。著者らは、黒もち米のでんぷんは直接分解されにくいものの、竹筒にすむ酵母などの微生物がでんぷんの一部を糖に分解し、それを乳酸菌が利用した可能性を挙げています。竹そのものも乳酸菌の供給源になっていると考えられています。
大腸菌は、どの条件のワディからも検出されませんでした。著者らはその背景として、乳酸菌が作る酸による環境の変化や、黒もち米に含まれる成分の働き、製造時の衛生管理などを挙げています。
研究チームは、焙煎黒もち米の量を増やすと製品の物理的品質を損なわずに乳酸菌の増殖を支えることができ、微生物面で安全性のよい豚肉ワディが得られたと結論づけました。調べた条件の中では、黒もち米30%のものを最もよい処理としています。この研究は、ワディに使う米を焙煎黒もち米に替えても保水性や重さの損失は変わらず、多めに加えることで発酵の担い手である乳酸菌を増やしうることを示した報告といえます。
原著論文の著者・所属:Siti Azizaturrahmi(Bachelor of Animal Husbandry Study Program, Faculty of Animal Husbandry, Udayana University, Badung, Bali, Indonesia.)、Sri Anggreni Lindawati(Faculty of Animal Husbandry, Udayana University, Badung, Bali, Indonesia.)、I Nyoman Sumerta Miwada(Faculty of Animal Husbandry, Udayana University, Badung, Bali, Indonesia.)、Ni Made Suci Sukmawati(Faculty of Animal Husbandry, Udayana University, Badung, Bali, Indonesia.)、Ni Nyoman Sista Jayasanti(Faculty of Agriculture, Udayana University, Badung, Bali, Indonesia. World Journal of Biology Pharmacy and Health Sciences, 2026, 27(01), 172–178)
※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Siti Azizaturrahmi, Sri Anggreni Lindawati, I Nyoman Sumerta Miwada, et al. Physical quality, total lactic acid bacteria and Escherichia coli in pork fermented with roasted black glutinous rice (Oryza sativa var. glutinosa). World Journal of Biology Pharmacy and Health Sciences 2026-07-30. DOI: 10.30574/wjbphs.2026.27.1.0396. 原著ライセンス:CC BY.