著者の所属・活動拠点の国は、アメリカです。

掲載誌:American Journal of Life Science and Innovation

ライセンス: CC BY 対象: 公開論文 確認元: OpenAlex

研究の目的

プロバイオティクス(十分な量を摂ると体に良い働きをもたらす生きた微生物)や発酵食品は、免疫への働きかけや抗ウイルス作用の可能性が注目されてきました。著者らによると、こうした食品の栄養成分、含まれる微生物、そして新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対する分子レベルでの可能性を、一つの研究の中で結びつけて調べた例はまだ少ないといいます。

そこで研究チームは、西アフリカで食べられている伝統的な発酵食品を対象に、ビタミンなどの栄養面、食品としての性質、微生物の構成を調べました。さらに、そこに含まれる微生物に関連する化合物が、ウイルスの増殖に欠かせない酵素にどの程度結合しそうかを、コンピューター上で予測しました。

何をどのように調べたか

対象は、発酵トウモロコシの「オギ」、キャッサバを原料とする「ガリ」と「フフ」、発酵させたイナゴマメ類の調味料「イル」(イル・オウォロとイル・ペテ)の5種類です。研究チームはこれらについて、ビタミンAやB群、ビタミンCの量、酸性度(pH)などの性質、そして抗酸化力を標準的な分析法で測定しました。

含まれる細菌は、細菌の種類を見分ける目印となる遺伝子(16S rRNA遺伝子)の全長を読み取る方法で調べました。培養しにくい細菌も含めて、種のレベルまで細かく分類しやすい方法とされています。

最後に、見つかった微生物に関連する12種類の化合物を公開データベースで特定し、「分子ドッキング」と呼ばれるコンピューター計算にかけました。これは、化合物がたんぱく質のどこにどの程度強く結合しそうかを予測する手法です。標的には、新型コロナウイルスが増殖する過程で働く酵素「メインプロテアーゼ(Mpro)」を選びました。

主な結果

食品ごとに成分には大きな差がありました。論文によると、イル・ペテはビタミンB3、B6、B12、ビタミンCの値と抗酸化力が最も高く、たとえばビタミンCは100グラムあたり135.62ミリグラムと報告されています。一方、オギはビタミンCが最も少なかったものの、ビタミンAは調べた食品の中で最も多い値を示しました。酸性度にも差があり、オギは最も酸性が強く(pH3.43)、イル・ペテは最もアルカリ性寄り(pH8.34)でした。

微生物の分析では、プロバイオティクスとして知られる乳酸菌の仲間、ラクトバチルス・デルブリュッキイやリモシラクトバチルス・ファーメンタムなどが目立って検出されたと著者らは報告しています。例としてフフでは、読み取られた細菌の遺伝子配列のおよそ半分(49.50%)がラクトバチルス・デルブリュッキイのものでした。

コンピューターによる結合予測では、ビオラセインとシタグリプチンという化合物の予測結合エネルギーがそれぞれマイナス8.0とマイナス7.5キロカロリー毎モルでした。比較対象とした新型コロナウイルス治療薬の成分ニルマトレルビル(マイナス6.6キロカロリー毎モル)よりも、数値の上では結合しやすいと予測されました。この値はマイナスが大きいほど結合が安定しやすいことを示しますが、著者らはあくまで今回用いた計算条件のもとでの予測結果だと断っています。

研究が示すこと

著者らは、こうした伝統的な発酵食品がプロバイオティクスや生理活性をもつ化合物の供給源となりうると結論づけ、新型コロナウイルス対策を補う機能性食品としての可能性を指摘しています。ただし、分子ドッキングは結合の可能性をふるい分ける計算上の予測で、実際にウイルスを抑える効果を示すものではありません。論文自身も、効果を確かめるには生体での試験や臨床研究が必要だとしています。

この研究は、身近な伝統食品を栄養・微生物・分子の三つの視点から同時に調べた試みであり、発酵食品の性質を多面的に捉えるための手がかりを示したものといえます。

原著論文の著者・所属:Oluwaseun Daniel Fowotade(Oregon State University, United States)、Jacqueline Azodoh, PharmD(Campbell university, United States)、Benson Cyril Nana Boakye(Oregon State University, United States)、Sukurat Omotanwa Lasisi(Georgia State University, United States)、Adedamola Iyanuoluwa Adesina(University of Ilorin, United States)

※本記事は原著論文をもとに、日本語で要約・説明を加えた研究紹介です。 出典(原著論文):Oluwaseun Daniel Fowotade, Jacqueline Azodoh, PharmD, Benson Cyril Nana Boakye, et al. Metagenomic and Molecular Docking Analysis of Probiotic-Rich Fermented Foods with Potential Anti-SARS-CoV-2 Activity. American Journal of Life Science and Innovation 2026-08-03. DOI: 10.54536/ajlsi.v5i2.7797. 原著ライセンス:CC BY.